不老不死の聖なる穢れた病


 場所は一度行ったこともあって知ってるので、特に手間は取らないのだが、道行く人から後ろ指をさされるわ逃げられるわで、Balmoraのメイジギルドの転送サービスを受けるだけでも大変だった。身体は力が漲っている感じがするのだが、頭のほうがクラクラする。やばいな。正気を失いかけてるのかも・・・幾らなんでもあんな肉塊になるのだけは嫌だ。


 目眩に耐え切れずに、その辺りの洞窟に入って一眠りしようと思ったのだが、魔術師らしい人物と、Daedraや精霊たちに襲われた。死霊術師というよりも、召喚師なんだろうか。


 だが、この女性、とんでもない武器を持っていた。その名も「Chrysamere」・・・聖騎士の剣らしい。当分はこれを使おうかな。盾なんて俺は使えないし、両手剣でいい。まあ、病気が治れば、の話なんだが・・・。
 地底は水が溜まっていたので顔を洗ったのだが、鱗が緩んで剥がれてきた。今の自分の顔、あまり見たくないな。一眠りしたら、出発しよう。


 翌朝、水上を歩いていくと、ようやくTel Fyrが見えてきた。少しほっとするな。
 だが、あんまりほっと出来なかった。受付のおねーさんに聞いてみたら、Divayth Fyrの奥さんのうちの一人って名乗ったし。正式に結婚こそしておらず、意味的には「愛人」、「配偶者」が近いらしい。それだけならへえーおっさんハーレムやってんだーで済むが、「あの人が私たちを作ったの。実の娘や他の何かってわけでもないのね。娘が一番近い意味合いなのだけれど。あの人が私たちを作ったから。わかった?」だそうで・・・。魔術師ってうちのギルド長のように馬鹿とか変人が多いが、これは筋金入りみたいだな・・・。


 Levitateの魔法で研究室まで上がると、机に向かっている偉そうな人が。しかも、高価なDaedraの鎧を身に着けている。この人で間違いなさそうだな。でも魔術師というよりこれじゃ見た目戦士だけど。声をかけると、Dunmerの男は振り返った。


「おや、面白そうなDwemerの遺物を持ってるね。それは何かね?」
「あ、えーと、お近づきの印に」
「贈り物? 私に? これはこれは、よく考えてくれたものだ。これは卒が無いね。君は私が収集家だと知っていたと推理するね。それに、この贈り物は本当に気に入ったよ。君の交渉術には感謝せねばな。それで、何が代わりに欲しいのかね? この偉大なDivayth Fyrに相談しに来たのかね? 聖なる病に罹っているのかね? 迷宮の宝探しをしたいのかね? それとも、私の娘が欲しいのかね?」
「Corprusをうつさ・・・って、聖なる病?」
「Corprus病の魔法的な要素は捉えにくく、神秘に満ちている。これまでのどんな魔術や魔力付与の術よりもずっと複雑で強力なものなのだ。ある種の神の呪いや祝福なんではないかと思うね。恐らく、呪いと祝福、どっちともなのだろう。罹患者は、もちろん、Corprusの素晴らしい性質を味わうことは出来ないがね。心を壊し、身体を壊すのでな。しかし、魔術師にとっては深遠で神秘に満ちており、この謎は生涯を捧げて研究するに足るものだ」
「あのー、そのCorprusをうつされて現在進行中でひどい目にあってるんですが・・・」
「それはそれは。Corprusが病に免疫を持たせることを知っているかね? そういえば、Nerevarineの予言を聞いたことがあるかな? AshlanderはNerevarineは病気に耐性があったと言っているそうだ。いつも考えているんだけれどね、『もしかしたら私のCorprusariumにNerevarineが誰だか知らないけれど転がっている』なんてね。アハハ。Nerevarineはブクブクで、Corprusのおぞましい化け物で、沼地の鼠のように狂ってるなんてね。笑えるじゃないか?」
「ええー。そういえば俺もNerevarineの予言満たしてるなんて人に言われたんですけれど・・・」

 頭がクラクラしているのでなかなか怒りも湧いてこないのだが、ついついあれこれぼんやり口を滑らせてしまった。しかし、Fyrさんのにこにこ顔はもっと深くなった気がする。

「それは魅力的なお話だね。君がNerevarineなのかもしれないなんてね。もちろん、戯言なんだろうね。Corprusの罹患者はみんなこういう妄想を抱くものだから。しかし・・・ちょっと待てよ・・・」

 最初は笑い飛ばしたFyrさんだったが、口元に手を当てて何か考えはじめた。

「実はポーションがあるんだ。理論上は、Corprusを治療できる。けれども上手くいかない。きっと、飲んだら君は死ぬね。被験者はみんな死んだんだから。けれども君は死にそうに無いな。薬をあげる前に、Corprusariumの地下に行って取りに行って欲しいものがある。薬が欲しくないなら別にいいがね、欲しければ行くことだ。Yagrum Baganという患者から靴を取ってきて欲しい。最も古参の患者でね、器用な人で色々修理してくれる。靴を持ち帰ってきたら薬をあげるからね」
「はーい・・・」

 Corprusが蔓延してる場所になるべく近づきたくないのか、それとも研究に忙しいのか。まあ、仕方ないな。それに、怪物になって人様に迷惑をかけるより、いっそのこと、グイっとやってバタンと死んだほうが苦しまずに済むかもしれないし(溜息)

「私は塔の地下の洞窟のCorprusariumに聖なる病に罹患した患者を収容している。哀れな悪魔、悲惨な存在だ。常に苦痛に苛まれている。激しい欲求と攻撃性を備えている。道理は通じない。沼地の鼠のように狂っている。しかし彼らの病気は素晴らしく、全く病気を受け付けない。永遠に生き続ける。事故さえ無ければな。古代の魔術師が彼らを捕まえて、今ではCourprusariumは私のものだよ。娘? 試験管から生まれたんだが、悪くないだろう? 魅力的で才能もある。まあ、実の娘ではないね。Corprus病の研究に寄与することもあろうかとちょっとした計画を立てたのさ。私の肉から作ってみた。素敵だろう? Alfe Fyr、Delte Fyr、Uupse Fyrさ。私もすっかり老いたものだけど、楽しませてくれるね。アッハッハッハ」

 Fyrさんは、天才だが、魔術師らしく、頭のねじが数本外れているに違いない。自分のクローンを作って楽しんでるのかよ。

「君が千年生きるとしたら、楽しみが必要だ。何か大好きなこと、いつも興味を感じているものなどね。私は宝物を集めていてね、盗賊たちを招いては盗ませるのさ。私は収集家にしてスポーツマン。魔力が付与されたアイテムと古代の工芸品を所有している。特にDwemerの遺品なんか好きだね。そして、スポーツマンとして、固く守られた宝を盗ませることが大好きだ。多少のルールはある。一つ、患者を傷つけないこと。二つ、娘たちを傷つけないこと。私の番人とガードが見つけ出すだろうよ」

 このおっさん、千年も生きてるのか? 長生きしすぎると趣味が無ければ生きていられなくなるといういい例だな。


 それはさておき、地下に向かう。Argonianの騎士が番人をやってるのだ。一旦は奴隷として買われたんだけど、自由になってもここで患者や宝の見張りなどをやってるそうだ。Fyrさん曰く、

「ArgonianのVistha-KaiがCorprusariumの番人だ。腕の立つ戦士で、鋭い爪がある。独学でね。戦う技術のない私の娘たちとも馬が合う。Vistha-Kaiは最後までいた奴隷で、自由にしたんだけれどどこにも行こうとはしなかった。それで、彼を雇ったまま、私のパートナーにしたのさ。素晴らしい人物で、素敵な仲間だ。まあ、聡明じゃないんだけれど、私と娘にとっては良い仲間だよ」

「自分はVistha-Kai、Courprusariumの番人だ。自分は警告するためにいる。患者を傷つけないこと。迷宮探索に来たのなら、彼らの攻撃に耐えること、彼らの番人にして保護者の自分をやりすごすことだ。自分はCourprusariumの守護者にして保護者。長い間Load Fyrに仕えてきた。最初は奴隷として。そして自由の身になった後は雇われて、今では友人であり、パートナーだ。彼は優しく、寛大で、自分は彼の利益のため、彼を護るために心から仕えている。迷宮の宝はスポーツのために解放されている。Load Fyrの気まぐれで、盗むことは特に何も思われていない。しかし、自分もまた、盗賊を狩ることにはスポーツとしての多大な喜びを見出している」


「Yagrum BagarnはCorprusariumの中央付近にいる。門を潜り、真っ直ぐに進んで次のドアを通り抜けろ。彼は四足のカートに乗っている。彼は他の患者ほど危険ではない。特に心配は無いと思う」

 とはいえ、痛みのあまり襲ってくる患者も多いので気は抜けない。足音を立てないように、こっそり進む。宝? まあどうでもいいや。さっき、箪笥をちらっと覗いたらすごいもんがあったけど、鎧もメイスも別に要らないし。


 言われるままに歩いていくと、他とは違った一角が見えてきた。何だか異様な人影が見えるが、もしかしてあの人か・・・?
 俺が近づくと、女性(この人も「娘」なんだろうな)と機械に乗った男は不審げな視線で俺を見てきた。


「あのー、靴を取りに来るように言われたんですが」
「Dwemerの靴を取りに来たのか。素敵な守り人に終わったことを伝えてくれたまえ。Dwemerの魔術技師だけが修理できるものなのでな。しかし、素人同然の者がこういう靴を作るとは情けない。これらのウィットに欠ける失敗作で我々の種族の腕が判断されるとは恥ずかしい限りだ。Load FyrはこのエンチャントされたDwemerの靴を不幸な盗賊から手に入れた。それで、腕前の程を見てみたんだが、この者が悪い死に方をしたんじゃないかと思うね。けれど、してやれることは何も無かった。魔力の根幹部分は破損している。もう一度復元するのは・・・この靴は近頃の退廃した時代ではファッション程度にしか使えんだろうな。けれども、やれるだけのことはやった。これをLoad Fyrに持って行き、心からのお詫びを伝えてくれ」
「は、はい」

 Dwemerが滅んだってのは誰でも知ってるんだが、まさか生き残りがここにいるなんて思ってもおらず。実際に話をしてびっくりしたもんだ。しかも「退廃した」って。それほど高度な文明をDwemerは持っていたんだろうか。ま、ずーっと後で知ることになるんだが、Cyrodiilを支配していたAyleidなんかも高度な魔法文明はあったわけだし。そういう古代民族に比べれば、現状ってのは物足りないものがあるのかもしれない。

「素敵な守り人って、Fyrさんのこと?」
「私の人生はLoad Fyrに借りを作ってばかりだ。心を失った狂った魔物でしかなかった頃、彼に拾われた。その時、狂気から抜け出ることが出来たのだし、今ではほとんどの時間、自我を保てている。私の身体は異形になってしまってるし、不便な監獄にいることはいるが。それでも、もしかしたら治るんじゃないかとは思っている。Load Fyrは多くの魔法や薬を試した。効能も無く、かといって有害でもなかったけれどね。もし誰かがこの病を治すとしたら、Load Fyrこそがやれると思うよ」
「ですかー。折角なんでDwemerのこと、聞かせてもらってもいいですか?」
「かつて、私はLoad Kagrenacに仕えるMaster Crafterだった。Load Kagrenacは第二帝国の設計長で、彼の時代、最も偉大なエンチャンターでもあった。私はLoad Kagrenacほど才能は無かったが、彼が思い描いたものを、私と同僚で作り上げていた。全ては永遠に忘れ去られてしまったがね。私はまだ知恵があるけれど、手と目は衰えてしまったし、記憶も長い時の間に色褪せてしまった。唯一の慰めは私の種族を滅ぼして、この異形の虜囚にした神を毎日嘲笑うくらいだね。Dwemerが消滅したその日から、私は一人ぼっちで世界に取り残されている。無慈悲な獄に繋がれたものだ。私はほとんど動くことさえままならないし、私と同じ患者たちも、良い仲間とはあまり言えない。Corprus病のリスクは多くの訪問者の足を止めるものだ。しかし、君はCorprusariumの恐ろしさにも負けず、健全な思考のままだったら、最後のDwarfにインタビューをしてみた一番新しい人間として挙げられるだろうね」

 話し相手に飢えているのか。そりゃ、患者の家族だって来ることを思い留まるだろうし、まともな話し相手っていったら限られてるしね。

「いいよいいよ、話に付き合うよー。Dwarfたちって何で消えたの? 分かれば凄いと思うんだけど」
「うーん・・・何が起こったのかはわからない。その場に立ち会ったわけじゃないしね。その時は外国にいてね、戻ってきたら、同胞は消えていたんだ。私はRed Mountainを去って、何年もTamrielを彷徨いながら我らの不毛の居住区を探し回り、生存者や真相を知っている人を訪ね歩いた。そして、長い、とても長い時が経って、それに答えられるものがいないかRed Mountainに戻ってきた。その代わり、Courprus病にかかって、以来ずっとここにいるがね。興味があれば、憶測を聞かせてあげるが」
「ええー、知りたいです。是非是非」
「私の時代の錬金術師にして魔術技師の第一人者だったLoad Kagrenacは、Dwemerの寿命の限界を突破しようとして神的な力を作り出す道具を考案した。しかし、彼の理論を見るに、いくつかの理論は予測できず、致命的な間違いが副作用としてあったのだろうと思う。Kagrenacは我々の種族に永遠の寿命を持たせるのには成功したものの、予測できない結果が――よその次元に種族ごと消えてしまったのだろう。もしくは、何か間違いがあって我々の種族を滅びつくしてしまったのかもしれない」
「ふーん、そういえばKagrenacがどうこうって話を聞いたことが。じゃあ、Yagrumさんは最後のDwarfなんですね」
「そう名乗ることを是としている。私が最後かどうかは知らないのだがね、何千年も旅をして、結局他の人に会えなかったのだから。それに、ここにいるようになってからも、Load Fyrにたまに聞くんだけれど、Tamrielや他の領域にDwamerがいただなんて信用できる噂は聞いたことが無いそうだ」


 俺はお別れを言って、Yagrumさんの元を去っていった。
 Kagrenacって人が何かやっちゃったんだろうけど、どうなんだろうねえ。


 靴を受け取ったことを報告する。薬を飲んだら死ぬみたいだが、無駄に生き長らえて人に危害を加えるよりは、いっそ・・・だな。殺されない限りは生きているそうだし。


「まず靴を受け取ろうか。よし、それでは薬をあげよう。経過を見たいから、ここで、私の眼前で飲んでくれたまえ。すぐに効果は現れるだろうし、注意深く君を観察しなければならない、いいかね?」
「はーい。もうどうでもいいんで薬下さい・・・」
「よろしい。口を開いて、目を閉じて・・・ほら、飲み込んで・・・」

 目を閉じると、何か冷たいものが流し込まれたのでそれを飲み下す。もうどうにでもなれ。
 しかし、激痛とか、気が遠くなるとか、予想していた「死」は起きなかった。恐る恐る目を開けると、そこにはぽかんと口を開けているFyrさんの顔が。

「いいぞ・・・なんということだ! 見たまえ! 見たまえ! 効果は抜群だ!」
「え、ま、マジっすか」
「注目に値する。肌を調べさせてくれ・・・目・・・舌・・・」

 そういって、服をまくられたり瞼を押し上げられたり舌を出すよう言われて、されるままになったのだが、一通り調べ終わったのか、満足げな顔をして頷いた。

「素晴らしい、効いているようだよ。病気の兆候は完全に無くなった。勿論、君はまだCorprus病に感染したままだけれどね、想定したとおりだ。しかし、君の病の兆しは消えた。素晴らしい。末期患者で何人か試してみよう。ここを出る前に、質問したいことがあればしてみたまえ」
「あの、俺、治ったんじゃないんですか? 病の兆候は消えたのに感染しているってのはどういう意味なんですか?」
「え? 悪い側面が無くなったんだよ。凄いねえ、我ながら驚いたよ」
「そうなんですか・・・」

 鏡を見せてもらったら、剥げ落ちた鱗などは完全に元に戻っていた。ツヤツヤのテカテカだ。それに、頭がすごくぼんやりしていたのも、今でははっきりしている。けれども、Corprusの良い側面である、「完全病気耐性」は残ったままなんだって。俺はFyrさんに礼を言って、Balmoraに帰ることにした。


 Recallで戻ったBalmoraの街をとぼとぼと歩いていく。
 夜風が涼しい。当たり前に生きていることが素晴らしいことなんだな、と実感するが、心に少しばかりモヤモヤしたものがある。

 どんな病にもかからない身体。普通の人間からすれば、羨ましい限りかもしれない。
 だが、気がかりなことがあるのだ。

 第一の試練
 不確かな両親の元、特定の日にIncarnateは月と星の名の下に生を享ける。

 第二の試練
 Blightの病も、歳月もその者を害することはない。
 肉の呪いもその者の前に吹き飛ぶであろう。

 第一の試練は、運さえ良ければ(あるいは、悪ければ)努力の必要なく達成できるが、第二の試練はそうもいかない。しかし、今回の事件で、普通の病はもとより、BlightにもCorprusにもかからなくなった。恐らく、これで試練を達成してしまった可能性がある。つまり、俺は否定していたNerevarineになりつつあるのだ。

「・・・・・・」

 それに、試練によれば、「歳月もその者を害することはない」らしい。正確な意味は測りかねるが、この先ずっと若いまま、ということがあり得る。予言が本当に正しいならば・・・ありえないほど長く生きるかもしれない。そういえば、事故さえ無ければ永遠に生きている、とFyrさんは言っていた。

 病にもかからず、時の流れから取り残される。老衰で死ぬかどうかも怪しい。加えて、俺は毒も受けないので、死ぬ確率はもっと低くなる。

「・・・・・・」

 呪いにして祝福。殺されることの無い限り、死ぬことの無い身体。それは本当に定命の者――「人間」と呼べるのだろうか?


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(2008.7.15)