Realizations of Acrobacy
軽業を見せること
Master Rhunen Zebavi

 歓楽を求めていたMaster Gothrenは軽業師に会うことに同意した。ここ何ヶ月も、House TelvanniのCouncilorであるMaster Nelothと争っていたのである。最近、いつも守勢の側に立たされていることを感じていた。それは耐え難いことであった――Master Gothrenは卑劣なNelothとの戦いに負けっぱなしであるなどとは。Nelothの手勢はいつもは及び腰ではあったが、彼らの師が所有する武器Mehrunes' Razorのお陰で、向かうところ敵無しになっていた。Gothrenの手勢は光明が見えなかった。Mehrunes Dagonが自分のアーティファクトを取り戻すよう祈る以外は。しかし、それがどんな凶荒を引き起こすかを考えると、Daedraの王子がMaster Nelothに暫くの間それを貸し出すことも然りというように思えた。
 軽業を見て気を紛らわせることは、ありがたい安らぎであった。
「お前の一座はどんな奇術を見せてくれるのかね?」魔術師は軽業を指導していたRhunenに尋ねた。
「偉大なるGothren様、ああ、我々は奇術のことなど分かりません。我らが演じる軽業は全て、種も仕掛けも無い本物でございます。奇術を知っていたら良かったのですが。本物の芸を修得するには非常に時間がかかるものでございますから」
「大変よろしい。お前はどのような軽業を見せてくれるのかな?」Gothrenは微笑んだように見えた。
「Master Jerethは割れた硝子の間を飛び回りながら十五の燃える球を上手に扱うことで、感嘆させてみせるでしょう。Master Tulkiandeは自分の身体を指一本で支えながら足で派手な柄の輪を回すことで、びっくりさせて見せるでしょう。Master Mearvisは一本のEbonyの剣で――」
「それであれはよそ者の女性か?」Ashkhanは一座のRedguardの女性のほうを向き、幾ばくかの拒絶と軽蔑的な色を滲ませながら尋ねた。
「Master Senyndieのことでございますか? ああ、偉大なるGothren様。彼女はHammerfellのAlik'r砂漠の出でございまして、その地では切り立つ崖をよじ登る技により名声を得ておりました。貴方様や私が水平に動くように、彼女は垂直に動くのです」
「まことに結構なことだ。だが、私は自分の庭にいるよそ者が好きではない」とAshkhanは言った。「多くはスパイだからな」
「ああ、ええ。Master Nelothも同じようなことをお感じ――」
「Nelothだと?!」Gothrenは唸った。「お前はその不埒者を楽しませたというのか?!」
「二日前のことでございました。ええ。あなた方お二人の間には緊張した関係があると申されたのを思い出しました。あの方も我ら一座の外国人に対して、いくらか懸念を示されましたね。我らのKhajiitの軽業師であるMaster S'Rabbaは特に高い腕を持っていたのですが。事実、皮肉なことに、あの方はS'Rabbaが貴方様のスパイであると思われておりました。ええ、Khajiitのことを知っていると。実際のところは、まあ、そうではありますまい」
「奴らは奴隷種族で、ほとんど何とも思わん」と、Gothrenは怒鳴った。
「Master Nelothのようでございますね」その言葉が耳に入っただけで急速に膨らんでいくGothrenの怒りに気が付くと、素早くRhunenは言った。「あの方もKhajiit、あるいは彼らの暗いユーモアのセンスに理解がありませんでした。Master S'Rabbaは文字通り皮肉なことを言って、全員が貴方様と貴方様の手勢に関する情報について拷問を受けることになってしまいましたよ。貴方様は存在しない情報を求めて拷問をなさったことはございませんね? あまりお勧めはいたしません。結局のところは、我々が二度とSadrith Moraに足を踏み入れないという条件で解放されました。実際は、全員が解放されたわけではありませんが。Master S'Rabbaは拷問で死んだことは明白でした。貴方様は奴隷種族を拷問にかけたことも、彼らがどれくらい死にやすいかもご存知でしょう」
「そんなことは無い」Master Gothrenは答えた。怒りは治まっていた。
「我々は去ったほうが良かったのでしょう、しかし、拷問による娯楽の代金をまだ支払われていないと我々は思いました。どのようにそれを集めるべきか分かりませんでしたが、しかし、非常に価値のあるがらくたを持っているというあの方の大言壮語を聞きました。ある種の剃刀だと」
「Mehrunes' Razorだ」彼は喘いだ。「何を――お前は何をしたのだ?」
「HarakostilとThelegormの二人のMasterは砦の主中庭へ通じる橋を下ろすために、十分に身を縮めて門の下まで這って行きました。TulkiandeとMearvis、Jereth、そして私はMaster SenyndieがTel Nagaの塔を登る手がかりを与えるために、ピラミッドを作りました。そして、彼女は頂上までよじ登り――」
「よじ登っただと?」塔のことを良く知っていたGothrenは聞いた。
「確かに高くはございますが、Telvanniの茸の表面というものは、Master Senyndieのような技を持つ者にとっては梯子のようなものです。数分で、部屋に入って剃刀を見つけておりました。更にもう数分で塔の下に戻ってきたので、Gateway Innまで撤退しました。さて、自慢ではございませんが、我ら一座より速い足を持つ者はいないと保証いたします。しかし、Master Nelothのガードの手は驚くほど早いものでございました。私がガードたちの注意を逸らしている間に、一座の者を港に通じる門へと逃がしました」
「認めるしかないな。そんな勇ましい心を持つ巡業の軽業師たちの話など聞いたことが無い」と、Gothrenは言った。
「勇ましくはありません、実利を重んじただけです」と、Rhunenが笑いながら言った。「良い腕を持つ一座を訓練する金と時間の量を考えたまでです。それに、誰もを救おうというよりは理に適ったものに見えました。いずれにしても、私は他の者から遠く離れるよう、Gateway Innの裏の辺りにガードを誘い込み、無事にいけると確信がもてた時、壁の上から水の中に飛び込みました」
「壁の上から飛び込んだと?」
「ええ、はい。その通りでございます。結構な高さがありました。単純な問題です。着水さえ出来ればいいのです。それでも、身体をよじって丸くなればいいだけの話です。もしお望みなら、やって見せましょうか」
「すまないが後にしてくれ」とAshkhanが言った。「それからどうしたのだ?」
「このお屋敷にたどり着いたのです」と、Rhunenは事も無げに言った。
「それで、いつ、Master Nelothはお前からMehrunes' Razorを取り返したのだ?」
「偉大なるGothren様、そういう話はまだ降りかかって来ておりません」とRhunenが言った。「さて、演じてもよろしゅうございますか? まだ最後の軽業の演技についてを話しておりませんでしたね。Master Mearvisが片手で一本のEbonyの剣を、もう片方では手一杯のMarshmerrowの葦を投げ回すのでございます。演技を安売りするつもりはございませんが、演技が終わった後は、貴方様はきっと、礼金に関するパピルス紙の証書を何枚か手にしていることでしょう」
「それは楽しそうだな、Master Rhunenよ」とGothrenは言った。「この二、三日心待ちにしていたのだが、Master Nelothに外で会うために今は行かねばなるまい。勝利の宴を開くためにすぐに戻ってこよう。その時に全ての軽業の演技を見ることにする。その間、お前たちは誉れ高き客人として、House TelvanniのArchmagisterが与えられる限りの供応を尽くしてしんぜよう」
「うん、食事つきの部屋なんて、Rihadの三等級のショーと同じくらい素晴らしいものね」と、部屋を取って数時間後にSenyndieは言った。「どうして私たちはこんな辺鄙な場所での演劇にこだわるの?」
「Rihadには奇術師がもう沢山というくらいいますからね」Rhunenは肩をすくめた。


 訳注
 Rihad・・・Hammerfellの港町
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