ある晴れた日に

 血のように赤い嵐の轟音をすり抜けて、神秘的な女性の声が聞こえる。


 あなたは帝都の地下牢から連れ出された。
 まず馬車で運ばれ、そして今、船に乗せられて、東の地、Morrowindへ。
 怖がることはありません。私が見守っています。あなたは選ばれし者なのだから。


 場面は移り変わり、青い闇の中を月と星が物凄い勢いで駆けていく。



「・・・い、おい!」
「おわあ!」

 俺は慌てて船の硬い床から飛び起きた。ここは囚人船の最下層、囚人が押し込められているところ。帝都から馬車に押し込められて、ようやく解放されたと思ったら次は船に押し込められて。大人しく服役してたのにどうして連れ出されたのかさっぱり理解が出来ないまま、今に至る。

「おい、起きろ。ほら、寝ぼけてないで」
「んあ、スイマセン」
 

 変な夢を見た。赤くて青くてなんだかようわからん夢だ。昨日はすごく船が揺れたから、変な夢でも見たんだろう。何だか神秘的としか言い様の無い声を聞いたような気がするのだが、よく内容を思い出せない。

「まだ寝ぼけてんのか? ホラ、指は何本に見える? 名前を言えるか?」
「んー、三本。名前はYui-Li」
「よし」

 この人は、一緒の船に乗せられたJiubという人だ。かなりコワモテだが、そこそこ面倒見はいい。

「で、どうかしたんですか」
「どうやらMorrowindに着いたらしい。もしかしたら釈放されるかもな」
「へー」

 言っている間に、ガードが歩いてきたのだが、俺だけ釈放されるらしい。Jiubの方を見たが、言うとおりにした方がいいみたいなので短いお別れを言ってガードについていく。デッキに上がったら大人しく従えばいいみたいだ。


 長居はよろしくないので、言う通り、階段を上がって蓋を開けた。


「うわあ」


 目に飛び込んできたのは、緑が一杯のCyrodiilとは全く違う光景だ。Morrowindは荒地が多いらしいが、俺は本土の割と緑のあるところで奴隷としてコキ使われていたからなかなか実感が無かった。だが、こうしてみると話の通り彩りが少ないな、と感じる。馬車の格子の間からチラチラ見えたCyrodiilは、もっと緑が豊かだったから。


 だが、新鮮な空気を吸えてとても気分が爽やかになった。降りてもいいみたいなので、このガードさんについていって、帝国の事務局で手続きを済ませることにする。首を左右に振るだけで大体全ての家が視界に収まってしまう。小さな村らしい。出来たばかりとか、あるいは寒村とか、そんなんなのだろうか?


 この爺さんが一番偉い人っぽい。

「おお、よく来たね。ただ、釈放される前にちょこっと手続きをしなくてはならん。何が得意かね?」

 魔法のスキルと、戦士系のスキルと、ステルス系のスキルがちょこっと。そんなことを話して、ふんふんと爺さんが高そうな紙にメモってハンコを押して俺にその紙を渡した。

「なあ、この紙の始めの場所に皇帝Uriel Septim七世? の恩赦で釈放って書いてあるみたいだけど」
「さあ、そういうことはさっぱりわからんでの。それより、隣の棟にSellus Graviusという人がいるからこの紙を渡してきなさい」

 爺さんもよくわからないと言った顔だ。
 俺は一介の奴隷で、あまりにも仕打ちがひどいから、ある日、たまたま手にしていたナイフでぐさっとやっちゃって逮捕されたんだが。自分で言うのも何だがありふれた話だろうし、何で俺に目をつけてこんなところでわざわざ釈放したんだろう。だって、釈放するなら帝都で釈放したっていいわけだし、そのほうが船賃とかかからなくていいと思うんだけれどなあ。さっぱりだ。


 だが、考えてても話は進まないのでガードさんに扉の鍵を開けてもらって、隣の棟に出ることにした。


 ただ、護身のためにどこにでもありそうなダガーを一本失敬することにした。短い系の刃物はうまく扱えないんだが、いざとなったら売ればいい。


 途中、中庭に出た。ふと、目に付いた樽を探ると、中に回復魔法のかかった指環を見つけた。なんでこんなもんが外に?


 色々変なことが多い日だが、屋内に入ってそれっぽい人に紙を見せた。Sellusさんは紙を受け取ると、ちょっと自己紹介して「Morrowindにようこそ」なんて言ってくれたり。囚人相手に謙虚な人やなあ。

「Morrowind・・・」
「そう。ここはMorrowind。昨日君が来ると知ったばかりだ。どうしてここに君がいるのか、どうして船でわざわざ来たのかは知らないからそのつもりで。ただ、皇帝Uriel Septimが直接恩赦を与えたみたいだがね。ま、君は自由だ。ただし、条件があってな」
「条件?」
「自由と引き換えに、義務ってのは当たり前のことだ。通常ならありえない速さで出所したんだからね。頼みの一つを聞くのが筋ってもんさ。聞きたいことがあれば聞いても良いぞ」

 うーん、帝国人らしい口のうまさ。

「まあいいや。Uriel Septimってどんな人?」
「皇帝の座についていて、君を釈放して義務を申し渡すように言いつけた人さ。全く、不思議だねえ。でもまあ、あの方は何か思うところがあるんだろう」
「じゃあ、皇帝のいる帝国ってどんな感じなの?」
「そうだねえ。昔は統一されてたみたいだけど、四百年前にMorrowindは併合された。今の皇帝はさっきも言ったUriel Septimで、数えて二十四代目になるかな」
「ふーん、じゃあそろそろ義務について」
「この小包が君がやってくる知らせと共に着てね、これをBalmoraに住んでいるCaius Cosdesに届けて欲しい。あと、これを読んでおくこと。じゃ、彼の言うことをよく聞くんだぞ、それと、これが路銀だ」
「はあ」


 ドアを開ければ、囚人船は出航してしまっていた。家無し、親無し、職業無し。無い無い尽くしである。一応、これから何をすればいいのかは指示をもらっているので、それに沿っていけばいいんだろう。何も言わずに放り出されるよりはマシかも。
 とりあえず、その辺の岩に腰掛けてしおりを開いてみた。

 Yui-Liへ。

 あなたにこれらの指示と荷物を与える。誰にも見せないこと。小包の文章を読まないこと。小包は密閉されているので、もし開封すれば罰せられるだろう。

 これらの指示に従うこと。

 Vvardenfell管区のBalmoraまで行くこと。Caius Cosadesという男に報告すること。彼は、あなたの上司であり支援者である。彼の言うことをよく聞くこと。居所は不明だが、「South Wall」という酒場で尋ねればいい。Caius Cosadesに報告する際に、小包に入っている文章を差し出して指示を待つこと。

 覚えておきなさい。あなたは皇帝に命と自由を保障された。よく仕えれば、報われるだろう。裏切れば、裏切者として苦しめられる。

 皇帝Uriel Septim陛下のご指示でこれを用意する栄光に預かりし皇帝専属秘書官、Glabrio Bellienus。

『Directions to Caius Cosades』

 ・・・なんだこりゃ。
 エライ人の直筆? ってことは、マジで皇帝が俺に恩赦を与えて指示を出してんのか。なんかおかしいなあ。何かさせようっていうのなら、他にいくらでも腕利きがいるだろうに、何でよりによって俺なんだ? 剣や魔法の達人ってワケじゃないし。帝国がそんなに人手不足なわけないよな。


 唸りながら、とりあえず店か何かあるかな、と歩いていたその時、一人の男とぶつかった。

「ススススイマセン、あの、指輪見ませんでした? こんなかんじので、魔法がかかってるんですけれど。この前ガードが、金品巻き上げてやるゲヘヘと言ってて。代々伝承されてるお宝なんですよー」
「え? もしかしてこれ?」

 そういえばそれっぽいものを拾ったので見せてみると、うわおと叫び声をあげてひったくるように俺の手から指環を受け取った。いや、これは受け取るではなく、「奪う」だな。勢い的に。

「うわああ、ありがとうございます!!! もう、あなたのこと友達って呼んじゃいます、今から! あ、そうそう、お店を経営してるArrilleにも言っておきますから、安くしてもらえると思いますよ。それでは!」

 うーん、すごいBosmerだった。だが、指環のお陰でお店を紹介してもらえたので、これでいいかもしれない。指輪が戻ってきて喜んでたし。とりあえず、この村、Seyda Neenでお店は一つだけだそうなので、早速入ってみた。


 うーん、こんなのなんかいいかな。


 襲ってきたマッドクラブをボカスカ叩いてみる。そこそこイケるな。


 村の周囲には錬金術の材料になるキノコやら薬草やらが生えているので、売るか食べるかポーションにしようかと摘んでいたら、何時の間にか洞窟の前まで来た。何だか怪しい雰囲気だが、好奇心に負けて入ってみることにした。


 中には、どう見てもカタギの人じゃねえよなこりゃな人がうろうろしていた。こちらに気がついたら、ダガーを取り出して襲ってきたので慌てて、盾の魔法を唱えて応戦する。






 中に入ると、奴隷たちが捕まっていた。ここは密売人とかのアジトだったみたいだ。さっきの女が鍵を持っていたので、それで枷を外して解放する。重い枷が地面に落ちると、短く歓声が上がった。


 だが、騒ぎを聞きつけて奥から魔術師っぽい男がやってきた。魔法をギリギリで避けて、マジカが尽きたところをボカスカ。大した装備はしていないので、簡単に倒すことが出来た。奥に進むと、SkoomaやMoon Sugarとかの麻薬が入っていた。


 その夜、酒場で起こったことを話すと、あらあらまあまあよくそんなことをしたなあ、という感じで感心された。
 人を殺すのが良いことだとはあまり思えないのだが、悪人の中にはガードが捕まえきれない奴もいる。殺すことで正義が為される、というのも何か変な世の中ではあるが、所詮、そういうものなのかもしれない。


 翌朝。
 これに乗っていけばBalmoraまで楽にいけるらしい。どうしようかな、なんて思ったのだが、もうちょっと周辺を探索してみたいな、という気もある。便の時間を確認して、もうちょっと錬金の材料を集めようと歩き回ることにした。

進む

(2008.5.4)