空からエルフが舞い降りた

 そんなこんなで、あれこれと錬金術の材料探しに精を出していた。
 奴隷だった頃、薬草探しに狩り出されたことがあるが、あの頃と違うのは、おなかが減ったら好きなだけ焼くなりして材料を食べてもいい、というところである。この辺はキノコが豊富なので、主食パンでおかずがキノコだらけになってしまったが、いつもひもじい思いをしていた頃よりは断然良い。お腹一杯になるまで食べることが出来るって幸せだなあ・・・。それに、前は薬を作らされてたけど、失敗してもぶたれなくて済むし・・・。

 と、昔のことを考えながら歩いていたら突然、野太い悲鳴が上から降ってきた。


「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 ゴスッ!!(明らかにアレな音)


 え? 何これ、マジっすか? え? えええええええ!!!?
 あまりの展開にぽかーんとこんな顔→(;゜д゜) になってしまったが、我に返った俺は慌てて倒れたBosmerに駆け寄った。残念なことに、かなりの高所から落ちたので、既に息はしていなかった。しかし、周囲には高い崖とか木もないのにどうやって飛び降り自殺なんか出来たんだと思ってたら、側に落ちていた本がそれを物語ってくれた。

 開発中の魔法のきちんとした術式を作り上げることが出来たはずだ。転送サービスのために金を出すことなく遠方まで行くことが出来る。
 上手くいくはずだ。明日、新しい魔法を試しに外で実験してみよう。完璧に複雑な原理を解明したはず。何百マイルもの物凄い距離を飛び越えることが出来る。これまで、誰もこのように旅することなどできなかった。飛行魔法において、方向感覚を失わず、地面を跳んで空を優雅に行くことを。
 時は来たりし。研究は終わった。チェックにチェックを重ねて、予測もした。私がこれを提唱した時、奴等は嘲笑った。塔の最上部に跳躍した時、私を笑おうと口を開けた奴等は私の成功を見て、大声で叫ぶだろう。
『Journal of Tarhiel』

 ・・・叫んでたの、アンタだったな。うん。
 ふと、懐から何か巻物が零れてるのに気がついて、手にとって見た。Acrobaticを七秒間千ポイント上昇・・・って、こんな物騒なもの、いらんわ!!!


 これは個人の失敗の末の死だが、もう一つ、死体を発見した。
 何だか明らかに争ったような形跡があり、無念の表情で空を見つめている。そういえば、最近徴税人が行方不明になったんだよ、と噂があったっけ・・・。




 無視することも可能なのだが、寝覚めが悪いので役所に届け出る。誰かが俺のように薬草摘みに出かければ、村外れとはいえ見つかったはずだ。現に、ちょっと視線を上げて振り向けば、家の影が目に入るのだ。こういう孤独な死を迎えるのは、ゾッとしないでもない。懐に税金の徴収記録と、集めたと思われる金があったので拾っていく。


 徴税人Vitelliusが殺されたことに、Socucius Ergalla氏はひどく驚いていた。

「殺されていた? 何ということだ、Processusは良い男だったのに。いやはや、ここ最近彼の姿を見ないと思っていたら・・・近頃、ここら辺は物騒になったとはいえこんなことになるとはねえ。そういえば、税金を知らないか? 彼が徴収していたはずなんだが。悪いが、仕事はこなさなくてはならないのだよ」
「あ、これですか」

 税金をガメるのは悪人のやることである。俺はそういうの嫌いなので、素直に金を渡した。

「む? 殺されていたのに盗まれていないとはおかしいねえ。けれど、君は手をつけないなんてあっぱれだね。そこで一つ、Yui-Li君、これを見込んで頼みがあるのだが、罪には罰を。Processusは帝国に納める税を集めていた。彼に手を出した罪は死をもって償わなければならない。正義の名の下に行えば、役所として五百septim支払おう」

 五百とは、決して安くは無い金額だ。だが、人の命は五百で左右できる、ということでもある。けれど、乗りかかった船。このまま見過ごすのもモヤモヤするので、引き受けることにした。


「ということなんだけどさ、Fagoth、何か知らない?」
「誰かが彼をぶっ殺したってねえ、悲しくはないね。だって、誰も徴税人なんか好きになりませんし。私たちが頑張って働いて得たお金をハネて俺様セレブー、なんてムカつくでしょ。でも、あんな男でも悲しむ人はいるんです。灯台守のThavereがそうですね。一緒にいるところ見ましたし。彼女は素敵な人なのに、そこだけ残念ですね」


 灯台はこの村で一番高い建物だ。すぐに見つかった。


 中にいたDunmerの女の人に事情を話して、何か知っていることが無いか聞いてみる。ガードに聞いても大した返事が無かったので、恋人のような親しい人なら、何か知っていることもあるのではないかと思ったからだ。

「Processusが殺された! そんな! 嘘だと言って。彼はこれまで出会った中で一番優しい人だったのに。二、三ヶ月前よ。そういう関係になったのは・・・彼無しで一体どうしたら」
「仇は取ります。何か知っていることとか無いですか」
「そうね、たった一度か二度、怒ってるのを見たわ。けれど、誰にも手を上げる人じゃなかった。とても悲しいことね」
「怒っていた? 誰についてですか」
「ええ、本当にね、怒る人じゃなかったの。でも、税金のことでForyn Gilnithと以前何かあったみたい。Processusが税金を取り立てて上前をはねてるんじゃないかって。馬鹿馬鹿しい! Processusはそんなことしないって信じてるわ。お願い、何が起こったか調べて頂戴。それに、Processusの指輪を見つけて。私の心が落ち着くから。何ヶ月も前に指環をあげたの。愛してるって。それさえあれば、彼のことを思い出せるから」


 彼の身に金はあれど、指環は無かった。これはおかしい。怨恨ならば、指環など取らなくてもいいのに。


 早速Foryn Gilnithの家に向かって事情を聞いたが、あっさり本人は「自分が殺した」と白状した。

「あの野郎のことか。ハッ、俺がやったことは正しくて善いことをしたと思わないか? 奴は俺たち善良な人たちの金を掠め取っていたのさ。税金をピンはねしてな、差額を懐に納めやがって。彼はいつも金持ちだって新しい服や宝石を見せびらかしてた。だから殺ったのさ。で、死体をあの場所に放置して、金もそのままにしておいた」
「でも」

 確かに金はそのままだった。けれど、指環は抜き取られていた。それに、他に宝石なんて持っていなかったし、服もそんなに高価なものじゃなかった。たまたま、安い服を着ていたのかもしれない。だが、単純に服装だけ見れば、墜落死したBosmerの方がいい服装をしていたのだ。みんな、見せびらかしてたと言うけれど、それは本当なんだろうか。親しい人は、彼は良い人だと言っている。彼を悪し様に言うのは、徴税人と税を取り立てられるという程度しか接点の無い人だ。


 そういうことを言うと、男は殴りかかってきた。慌てて応戦し、まもなく男は息絶えた。


 指環は彼の懐から見つかった。高価なものだ。彼を殺した印に持っていったのかもしれないし、他に意図があったのかもしれない。けれど、真相は闇の中。
 役所に行って、報酬を受け取った。あまりいい気分じゃなかったが、無駄遣いだけはしないようにしようと思った。それから灯台に行って、指環を彼女に返す。とても喜んでくれてポーションを譲ってくれたが、死んだ人は戻ってこない。時間が彼女を慰めてくれるのを願うだけだ。


 これから入用になりそうだったので、店で鎧を買うことにした。大事にしたい。


 そろそろ村を出るか、と思って地理とかそういうことの話を聞いてたら、交通機関のことを教えてくれる人と出会った。もう知っているが、ふんふんと聞いて乗り場に向かう。お姉さんと目が合ったので、たまたまこんなことがあったんだよ、と言ってみると、


「あら。彼は私のような仕事をしたいのね。ちょっと同情するかも。けれど、かわいそうな人ね。ああいう人はMorrowindでは幸せになれないの。そうね、ちょこっとオマケしてあげるから、彼に伝えて頂戴」

 かわいそうな人、Vodunius Nucciusにそのことを言うと、交通費が足りないからここを離れられないと残念そうに言った。指環がどうのこうの言ってたからどうせ変なものでもつかまされたんだろ。引き取るから、と交通費を渡したら、とても喜んでくれた。そのことを乗り場の彼女に伝えると、とても嬉しそうだった。
 何はともあれ。これでSeyda Neenとはお別れである。お金を払ってsilt striderに乗り込み、Balmoraを目指す。


 長い時間がかかってちょっと腰が痛くなり始めた頃、ようやく街についた。これまで見たことのない大きな街なので目が回りそうだったのだが、それと同時にワクワクもした。何がここで待ち受けているのか、とても楽しみだ。

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(2008.5.6)