Azura様と俺の関係

 うーん・・・。
 Caiusに何て言えばいいんだろう・・・。
 治ったことは見りゃ分かるからいいとして、「不老不死になったっぽい」なんて言ったらなあ・・・。
 でもまあ、Caiusには予言のメモは見せてあるので、理解はしてくれるんだろうけれども。
 しばらくドアの前でうろうろしていたけれど、意を決して家に入った。


「た、ただいまー・・・」
「治ったのかね」
「は、はあ・・・」
「ならば宜しい、早速報告をしたまえ。色々聞いておかねばならぬことが沢山あってな」
「えーと、見ての通り、病気は治りました。でも、Fry氏が言うには、Corprusの悪い側面、人から人への感染、身体の異常、だと思うんですけれど・・・を取り除いただけで、根本的には治っていないと言われました」
「ほう」
「氏が言うには、Corprusの良い側面である、病気への完全耐性と、相対的な不死、殺されない限り死なないということなんですけれど・・・は、取り除いていないそうです。つまり、俺は試練の二番目を成就しちゃったかもで」
「それは『Blightの病も、歳月もその者を害することはない。肉の呪いもその者の前に吹き飛ぶであろう』という一節のことかね」
「はい、恐らくは」
「ふむ・・・一番目の試練は、運さえ良ければ何とかなるものだが、二番目となると、そうもいかない。病気にかからず、歳月にも害されぬわけにはいかない定命の者なんて聞いたことが無いのだからな。何か、身体がおかしいとかは?」
「いいえ、フツーですけれど。でも、5年経って、10年経って・・・ってなったら、ハッキリしてくるかも」

 Caiusは、小さな声でぼそっと独り言を呟いた。

「永遠に王として君臨、か・・・まずいな」
「え?」
「いや、何でもない。物語とかであるではないか。死なないことで苦しみを背負う者とかな。君は最初に出会った頃よりもずっと、魔法剣士として大きな成長を遂げているが、今後の君の精神面が心配だ」
「そ、そうですね・・・」
「しかしまあ、病気が治ってよかった。しかしな、ちょっとばかり悪いニュースがある。帝都に召喚されたのだ」
「帝都?」
「そこで、Operativeまで昇進させて、私が戻ってくるまでVvardenfellのまとめ役をしていてくれ。出発する前に、君に最後の指令を申し渡そうと待っていたのだ」
「え・・・召喚って、どういうことですか」
「国内の政治的問題だ。私の砂糖について心配している者もいる。召喚を断ることも考えたが、帝都に私の家族も留め置かれていることだしね。王位継承権で問題が起きたのかもしれない。皇帝の健康状態も悪化しているそうだし、内紛は上手に解決されなければならない。そういうわけで少しばかり行かなくてはならないが、それが君をOperativeに昇進させる理由だ。Vvardenfell管区にて、君をBladesの最も高いスパイのランクに指名しよう。私が知らないBladesのスパイたちがいるかもしればいがね、驚くには値しないことだ。ちょっと行ってくるが、先立つものを与えておこう。いくらか金をとっておけ。それに、私が戻ってくるまでこの家を自由に使ってくれ。それに、Cyrodiilではこれらの黒い着物や指環は要らないから、これも与えておこう。とてもハンディで、扱いやすいと思うよ」

 そう言って、黒い装束と指環を一そろいくれた。エンチャントがかかっているが・・・どう見てもどこかに侵入するのに適したエンチャントだな。Caius服着ろよ・・・っていうか、スパイらしい仕事はしてたんだな。

「で、この島のBladesで俺が一番偉いってこと?」
「そういうわけではない。それぞれのスパイは個別に任務が割り当てられ、直接Cyrodiilに報告する。君をOperativeに昇格させたのは、君が誰かの言いなりにさせないためだ。君は抜け目が無いからね。近頃の帝国は死に体になってきている。もし陛下が死んだら、Nineが封じた地獄が破れ出てくるだろう。まあ、帝都の事は忘れて、この地のことだけ考えればいい。Sixth HouseとDagoth Ur、それに、Great House間やそれらの支配地のいざこざをあれこれ思っているほうが賢明だ。下らない政治のことなど、取るに足りないことだ」
「はーい。まあ、俺も足元のことだけで精一杯ですからCyrodiilのことなんて構ってる余裕は無いですよ。ま、わざわざ帝位を空白にして地獄を見たいってアホもいないでしょうし、王位継承権だか何だか知りませんがそのうち白黒つきますよね。それで、命令ってなんですか?」

 六年後、とんでもないことになるとは露知らず。俺は、この場限りで、Caiusの言ったことは失念した。

「皇帝陛下の命令に従い、Nerevarineの予言探しを継続することだ。まず、Hall of Justice、Wisedomに行き、失われた予言探しのことで助けを求めているMehra Miloに会いに行け。彼女は依然として監視されている。もし、何かまずいことが起きたら、彼女の個室に行け。『amaya』という暗号の言葉に続いてメッセージを残す手はずになっている。それから失われた予言をNibani Maesaに持っていけ。そこからは彼女の指示に従い、予言の通りにしたまえ。それでは、幸運を祈る」
「あ、はい。今までありがとうございました」

 本当に俺だけを待っていたらしく、Caiusは服を着ると(やっぱり服はあったのか・・・)鞄を持って出て行った。

 うーん・・・。
 静まり返った部屋でうろうろして、とりあえずベッドに座ってみる。

 これって自由になったってコトかな。Bladesの誰も俺を邪魔できないが、俺もBladesの誰かを部下に出来ない。Nerevarineの予言を成就しつつあっても、放っておくのも選択肢のうち。お目付け役はいなくなったんだから。

 うーん・・・。
 でも、みんな困ってるよな。乗りかかった船、というか、既に船に乗っちゃった気もしなくはない。いや、Seyda Neenに着いたときの話じゃなくて。
 俺がDunmerの古代の英雄かあ・・・Merですらない俺がDunmerの英雄なんておかしい話だが、でもなー。何ていうかなー。Dagoth Urも俺をNerevarineだって思ってるみたいだしなー。だとしたら、今後もちょっかいかけてくるかもなー。家に押しかけられたらやばいっしょ。

 うんうん考え込んでみたものの、Nerevarineを名乗る覚悟を決めることは出来なかった。
 けれども、このまま放置を決め込むのも気が引けるので、のんびり休憩して、色々部屋を片付けて出発することにした。

 VivecのMorag Tong本部に顔を出すと、相変わらずみんな気の良い挨拶をしてくれる。みんなぼちぼちやってるみたいだ。ぼちぼちやってるってことは、Great Houseなんかもぼちぼち争ってるわけだ。そんなことやってる場合じゃないのになあ。
 まあ、話し込んでいるうちに夜になってしまったので、一晩ベッドを借りて、ふかふかの毛布に包まって眠ることにしたのだが、何者かが近づいてくる足音で目が覚めた。暗殺者の本能が俺にも身についたというべきなのか、咄嗟に武器を手にし、殺気を感じた方向に振りぬく。何者かは、聖剣の一撃を受けて汚い悲鳴を上げた。


 Ash Zombieか!
 目を抉りぬかれ、虚ろな空洞を晒しているが、憎しみの篭った眼差しを感じる。二撃目で首を切り飛ばし襲撃者を始末したものの、本部を襲撃されるという事態に、周囲の者は火がついたような騒ぎになった。
 幸い、Enoさんが奥から出てきて騒ぎを鎮めたんだが、「今は詮索しないがそのうち説明しろ」的な視線をビシバシ受けて、Ash Zombieに対峙した時よりも生きた心地がしなかった。ヤベ、流石に「Nerevarineだから襲われた」と言ったらアレだろうからちょっと言えないが、落ち着いたらこっそり言わないとなあ・・・というか、どこにでも入り込んでくるってことだから、普通の宿屋は使わないほうがいいな。となると、野宿か・・・○l ̄l_


 何だかんだでTempleをようやく訪れることが出来たのだが、Miloさんの姿は見えなかった。
 ・・・心にヒヤリとしたものが走った。Milo司祭は監視されている、とCaiusは言っていたのだ。とりあえず、その辺にいた人にさりげなく「今日ってMiloさんお休みなの? ちょっと相談したいことがあるんだけれど」と聞くと、「ここにいないならHall of Wisedomの自分の部屋に居るんじゃないかな」と言ってくれた。


 礼を言って急いだのだが、部屋に行ってもMiloさんの姿は見えず。周囲を見回すと、箪笥の上に、ポーションと書置きが残されていた。


 Amayaへ。

 会えなくてごめんなさい。Ministry of Truthで、宗教裁判のための何通かの古い文章を調べなければならなくなりました。しばらくそこに缶詰になりそうです。出来れば、なるべく早く会いにきてくれないかしら? 早く仕事を済ませて一緒に出ましょうね。それから、Amaya、あなたが借りた、Divine Interventionの巻物を二巻持ってくるのを忘れないように。もし使ってしまったら、新しいものを買ってきてね。すぐに入用になると思うから。Foreign QuarterのメイジギルドのJanand Maulinieが巻物を売ってるそうよ。

 Alvela Saramが入り口を警備しています。私を探していると彼女に話せば、入れてくれると思うわ。

 あなたの誠実な友人、Mehraより。

 PS:念のため、あなたに二本、Levitateのポーションを残しておきました。呪文を覚えているかどうか忘れてしまったので、取り置きから二本引っ張り出しておきました。

 しまった。俺がチンタラやってなきゃMilo司祭が連れ去られることにはならなかったはずなのに。
 それにしても、Templeの上空に浮いている空中浮遊要塞に忍び込めとは・・・幸運を祈ろう。昨日の今日連れ去られたんだから、まだMiloさんは元気かもしれないが、急いだほうがいい。巻物はあるから、あとは忍び込むだけだな。
 浮遊魔法は使えるので、早速呪文を唱えて要塞に上がる。女性のOrdinatorと目が合ったが、何かを察してくれたようだ。彼女がAlvelaさんか。


「済まんな、巡礼者はMinistryの中に入ることを許可されていない。立ち去ってはくれないか・・・それとも・・・誰かを訪ねに来たのではあるまいな?」
「・・・Milo司祭を。俺の名前はYui-Liです」

 Alvelaさんは、溜息混じりの息を吐くと、頭を振った。

「Mehraが君が来ることを言っていた。君に魔法を使われて、鍵を奪い去られたと言っておこう。三つの外の扉を開くことが出来るが――上の後ろが一番だろう。だが、中では別の鍵が必要だ。我等は任務中は鍵を携行しないので、机から探したまえ。Mehraは一番右の独房に監禁されている。脱出のための巻物を持ってくると言っていたが」
「あります。でも、どうしてOrdinatorが協力してくれるんですか? 言っちゃ悪いですが、反体制派司祭を狩る側でしょ」
「何人かはな、反体制派司祭に同情しているのだよ。しかし、Ordinatorを殺されたら、我々もその同情を無くす。君はTempleに所属しているのか――恐らくはったりで道を開くこともできよう。入り口の鍵だ。さあ、行きなさい」
「ありがとうございます。誰も殺しませんから」


 Morag Tongのために練習した幻術や隠密のスキルがこんなところで役に立つとはなー。


 こっそり部屋に侵入し、牢獄に入る鍵を机からすりとった。


 一番右のドアだったな。透明化の呪文を唱えて、足音を立てないようこっそり歩く。


「Yui-Liさん!」

 扉を開けて素早く中に入り込むと、驚いたMilo司祭が俺を出迎えてくれた。着の身着のままで連れ去られて、大分憔悴しているが怪我はしていないようだ。手遅れにならなくて良かった。

「Divine Interventionの巻物は? 逃げる算段を立てたのだけれど」
「持っています」
「逃亡計画にはDivine Interventionの巻物が必要でした。あなたの分もあるなら、それが最も速やかで安全なのですが、持ってなければあなた自身で何とかするしか。けれども、あなたならやれるでしょうね。さあ、聞いて下さい。考えがあります。Divine Interventionの巻物を下さい。秘匿された反体制派司祭の修道院であるHolamayanで会いましょう。安全のために、分かれて行動したほうが無難でしょうね・・・」

「はい。どうぞ、巻物を」

「ありがとう。ここを出たら、Ebonheartの東の波止場にいるBlatta Hateriaという名の女性を探してください。彼女に私が貴方のことと、「釣りに行きたい」という合言葉を教えておきます船でHolamayanまで送ってくれるでしょう。そこで落ち合えば、反体制派司祭の指導者であるGilvas Bareloさんから失われた予言を貰えると思います。そうそう。Holamayanの入り口は魔術で隠されていますから、Holamayanの波止場にいる尼僧のVevrana Aryonから、隠された入り口のことを聞いて下さい。失われた予言のことは、今は言えません。しかし、『Apographa』――隠滅されたTempleの教義なんですが――何箇所か『失われた予言』が長く引用されているのです。予言は今のAshlanderの間には伝わっていないもので、初期のTempleの巡礼者や学者によって記録されました。Holayamanの図書館を探せば見つけることが出来るでしょう」
「わかりました。Holamayanで落ち合いましょう」
「Holamayanは反体制派司祭の隠し修道院。修道院自体はAzura's Coastの僻地にある島の地下深くにあり、丘や植物によって、一目ではたった一つある入り口を見分けることができないようになっています。修道院は宵と暁のみに開く魔法の障壁で固く守られており、Azuraの神聖な黎明の時間帯にのみ開きます」
「ありがとうございます」

 そういうと、司祭は巻物を開いて呪文を唱えた。俺も、追っ手が来ないことを確認し、適当な石を扉に噛ませて内側から開かないようにする。時間稼ぎにはなるだろ。

 それにしても、Azuraか。
 三番目の試練でもAzura神の名前が出てきたが、関係あるんだろうか。
 疑問符を抱えたままではあるが、Ebonheartに跳ぶため、俺も巻物を開いて呪文を唱えた。


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(2008.7.26)