神の穢れた手

 巻物を唱えて辿り着いた先は、Ebonheartの帝国教団の寺院の前だった。目を凝らして城壁から海を眺めると、遠方にVivecの宮殿と、浮かんでいるMinistry of Truthが見える。俺が足止めに牢屋にバリケードまがいのものを作っていた間にMilo司祭は先に行ったようだ。まあ、ArgonianとDunmerが一緒に行動してたら目立つし、司祭の言うとおり、二手に分かれたほうが賢明ではあるか。周囲を見回しても、帝国兵しかいないから大丈夫だろう。
 俺も後を追おうとしたのだが、この街にRedoranの家の、娘さんが囚われて頭のおかしくなったパパンさんのお父さん、つまりお爺さんであるLlerar Mandas氏がいるそうなので、耳に入れておいたほうがいいかなーなんて思ったので、先にそちらのほうに報告することにした。
 Dwemer製の防具を着込んだLlerar氏は、まだまだRedoranの戦士としてやれるぞ、という気迫を感じる。Merは寿命が長くてゆっくり年を取るからねえ。孫が出来る年齢でも、まだまだなのかもしれない。


「・・・というワケでして」
「それはそれは。愚息を正気に戻してくれたことに礼を言おう。孫娘を助けてくれたとはねえ、よくやってくれた。Mandas家を代表してこの兜を差し上げよう。House Redoranのために働いてくれた印だ」
「こんな高価なものいいんですか? ありがとうございます」

 貰ったのはEbony製の兜。とんでもなく高価な逸品だ。俺は兜は装備しない派なんで荷物にしかならないのだが、折角頂いたものを無碍にするのも気が引ける。後でCaiusの家にでも置いておくかな。旅の間に色々お宝を見つけたんだけれど、全部Caiusの家に運び込んであるし。

 兜を大事に包んで、Mandasさんに別れを告げると、本命であるHolamayanに行くために、お弁当を買って港に足を向けた。


 あの人か。
 何度かここの港は利用したことがある。誰かを乗り降りさせていたところを見かけたので、どこに行くのか聞いてみたのだが、そういう船ではないと言われた記憶がある。成る程、反体制派司祭専用か。いかにAzura神によって祝福された聖域とはいえ、食料や、研究資材、生活物資まで神様がくれるわけではない。たまに街に出てくる必要があり、この人がその足であるわけだ。


「貴女がBlattaさんですね?」
「ええ、Blatta Hateriaよ。あんたは?」
「・・・Milo司祭の友人です。彼女の紹介で、この船は良い釣り場を知っていると」
「ああ、あんたがYui-Liさんか。友達は釣りに行きたがると言ってたねえ」
「ええ、そうです。釣りに乗せてもらえませんか?」

 老女はニヤリと笑って俺を手招きした。

「いい場所を知ってるよ。入れ食いの場所がね。友達のMehra Miloは、そこがお気に入りの釣り場と言ってたね。準備はできてるかい?」
「ええ」

 釣竿も餌も、まして釣りをするような服装ですらなかったが、まあそこはご愛嬌。どうせするのは釣りじゃないしね。

「よし。行く準備が出来たらHolamayanまで連れて行くからね。必要な時はいつでも、言ってくれればここから船を出してあげるから」
「ありがとうございます」

 早速船に乗り込むと、船はするりと動き出した。
 かなり遠いので、途中、お弁当を開いて一緒にご飯を食べたり、本当に釣りをしたり、世間話をしたりした。

「Cyrodiilは良くないらしいね。Uriel Septimは病気で、後継者にはGeldall Septim、弟のSeptimはEnmanとEbelってのがいるんだけど、Jagar Tharnが帝国のBattlemageで、皇室たちに化けて成り代わってたもんだからさ。偽の後継者たちは軍を扇動して戦の命令を飛ばしたってさ・・・大勢死んだって話だよ」
「ふーん。まだ傷跡が残ってるトコもあるだろうし、王位継承権で争ってるっていうし、次に皇帝になる奴が誰かは知らんが、大変だろうなーアハハ」
「まったくだよねえ。ああ、もうすぐ着くよ」


 そんなこんなで、小さな波止場に船が寄せられると、早速降り立ってBlattaさんに別れを告げた。彼女はすぐ戻るらしく、俺を下ろすとすぐに行ってしまった。長いこと波に揺られていたので足元がふわふわする。そんな俺のところに、尼僧が静かにやってきた。彼女も俺のことを知っているらしい。
「Holamayanの僧、Verana Aryonと申します。修道院はこの島にありますわ。この波止場より、石の回廊を北に行き、丘を登って下さい。入り口は魔法の防護壁で隠されているため、その時間まで待つか休むかしてください。入り口はAzura様の祝福された黎明の魔法の時間帯、夜明けと夕暮れにのみ開きます。Mehra Miloは貴方の来訪を告げました。Master Bareloと一緒に、図書室にいるでしょう。もし必要なら、お申し付けくだされば貴方をVivecまでお送りします」
「ありがとうございます」

 時間は丁度夕暮れだ。今なら壁も開いていることだろう。のんびりしていると野宿になってしまうので、僧院に急いだ。


 お、あれか。丁度入り口が開いている。


 扉に手をかけると、何か重いものが動く音がしたので振り向くと、丁度壁が下りてくるところだった。魔法の壁ってこういうことなのか。間に合ってよかった。

 中にお邪魔すると、俺が来ることは既に僧院に広まっているらしく、歓迎してくれた。中は街にある普通のTempleと一緒だ。聖人の石碑が立っているし、「反体制派」とはいえ、本質的には同じということか。
 Miloさんのことを聞くと、「危険な目に遭ったが、Hall of WisdomとTruthから逃げ出せた。助け出してくれてありがとう」と言われた。道中危険な目にも遭わなかったみたいだし、万々歳だな。

「Master Bareloってどういう方なんですか?」
「Master Gilvas Bareloは修道院の僧院長で、我々密かな集団の指導者だ」
「その集団って、反体制派司祭ってことですか」
「『反体制派司祭』は、自らが選んだ名だな。Templeの支配に異を唱えることを恥じてはいない。我々はTempleの古代からの伝統には心の底から忠実だ。しかし、Tribunalの神性がDagoth Urの把握な力と根源が同じであるということに悩んでいる。Dagoth Urの力はTribunalの力よりも強くなっている。『The Progress of Truth』と、図書館の他のApographaも読みたまえ。何故我々が難しい立場なのか解るだろう」
「Nerevarineについては?」
「Ashlanderには、伝説上の英雄であるNerevarがいつか生まれ変わってきてDunmerを統一し、侵略者を追い払い、DarkElfたちの古代の国を復活させるという予言がある。しかしTribunal Templeはこれは嘘であり、野蛮な迷信だとしているし、Ordinatorはそのような予言を信仰している者たちには無慈悲だ」
「そうですかー」
「まあ、君は身内みたいなもんだし、休みたいならベッドで休みなさい。色々サービスも受けられるしね」
「ありがとうございます」

 どうせ寺院からは朝になるまで出られないし、旅で疲れているので一泊くらいはしていく必要があるだろう。ベッドを借りられるのはありがたいなあ。
 他の部屋も覗いてみると、言った通り、Templeとしてのサービスは一通り揃っているような感じだった。後でゆっくり見て回ることにして、僧院長さんに会いに行くとしよう。


 あ、この人か。傍に元気なMilo司祭の姿もある。司祭はここに住む気のようだ。まあ、Templeの目の届かないところでほとぼりを冷ましていたほうが安全だろう。

「君がYui-Li君だね」
「はい。失われた予言について、教えてもらいに来ました。どうもNerevarineの予言にも適合しているようなんで・・・」

 流石、反体制派司祭をまとめているだけあって、眼光も鋭い。Enoさんを思い出すなあ。俺のこれまでの冒険を聞いて、しばらく考え込んでいるようだったが、ややああって口を開いた。

第十一番目に生じる七番目の兆しより、
 HoundでもGuarでもなく、SeedでもHarrowですらなく、
 しかし、竜より生まれ遠き星の印を受ける。
 異邦人、IncarnateはRed Mountainの地下、
 祝福された客として七つの災いに立ち向かう。
 星の祝福を受けた手は三度呪われた刃を振るい、
 嘆かれざる家を刈り取るだろう。


 君への『The Lost Prophecy』の写しには、出来る限り分かりやすい注釈をつけておいた。掻い摘んで言えばこうだろう。『異邦人』は外国の生まれであるが、賓客として歓迎される者であり、Red Mountainの地下の七つの災いに立ち向かう者だろう。その者の手はAzura神に祝福され、呪われた刃を振るって、House Dagoth、もしくはHouse Dwemer、あるいは両家に天誅を与えるのだろう。Nerevarine? 外国人が? そのことは多くのAshlanderは歓迎しないだろう、そのために予言が失われたのだ。
 それでは、『The Seven Curses』を言おう。

 嘆かれざる家の扉を潜り抜ける
 嘲笑う者が嘲り、陰謀を企む者が陰謀を企てる場所
 誓いを破りし家の広間から
 不敬な神々の七つの災いが取り囲む

 一番目の災い、炎の災い
 二番目の災い、灰の災い
 三番目の災い、肉の災い
 四番目の災い、霊の災い
 五番目の災い、種の災い
 六番目の災い、絶望の災い
 七番目の災い、夢の災い

 君への『The Seven Curses』の写しには、詩についての説明を付け加えておいた。要約すれば、七つの災いがHouse Dagoth、もしくはHouse Dwemer、あるいは両家からに由来するものだ。炎と灰はRed Mountainから。肉はCorprus。霊と種、絶望の意味は不明だが、夢の災いは、最近、魂の病にかかっている者や、Sleeperが町を襲撃している事件について言及しているのだろう」
「・・・てことは、災いはもう全部発生してるってことですか。夢の災いって割と最近のことですし」

 時系列順に考えれば、妥当というところか、と僧院長さんも頷いて、話を続けた。

「Apographaを読んだことがあってね。特に二つの一説に興味を引かれるものがあったのだ。我々は既にこれらについて、君に渡す写しを用意している。現代のAshlanderたちに広まっているNerevarineの予言が、『The Stranger』と『The Seven Vision』と呼ばれるものだ。我々は他の二つの予言を入手している。『The Lost Prophecy』と『The Seven Curses』と呼ばれるもので、Incarnateの再臨を取り巻く謎について考察を与えるものだ。恐らく、君の友達であるNibani Maesaが君に話したことが『The Lost Prophecy』なのだろうな。あと、『Kagrenac's Tool』と呼ばれる論文も用意した。この論文は君や他の者に、Templeがひた隠しにしているTribunalの真の歴史と、彼らの神の力が穢れた性質を持つものであるということを説明するだろう。この秘密を隠すために、TempleはNerevarineや反体制派司祭を迫害するのだ。この迫害は止めなければならない。我々は真の敵であるDagoth Urに抵抗するため結束しなければならない。そして、もし君がNerevarineならば、奴に対抗するために我々を導くのが務めになるのだろう」

 そう言って、Bareloさんは俺に手書きの文章をくれた。後で目を通すことにしよう。

「HierographaはTempleの僧侶の書物の集大成で、Apographaは『隠された書』ともいい、極めて高い位にある僧侶のみが研究できるものだ。Templeに挑み、我々は出来る限りのApographaをHolamayanに運び込んだ。僧長たちの一人がTempleが信者から真実を隠していることに悩んでね、Templeと反体制派司祭の間で板ばさみになっていたのだよ。Templeの高僧の重要な人物たちは教義に異を唱えることに寛容にはなってきている。しかし、Templeの別の派閥、特にBerel Salaの支配下にあるOrdinatorたちはRed MountainとDagoth Urの脅威は信仰を回復すること、結束のみで対抗できるとしている。民衆は恐れ、支持を保つことが難しくなりつつある。しかし、もし我等自身で、OrdinatorよりもDagoth Urの脅威に立ちふさがることが出来るならば、人々は我々を支持するだろう」

「Dagoth Urか・・・」
「OrdinatorのBuoyant ArmigersとTribunalは長い間BlightとDagoth Urの化け物をGhostfenceの中に閉じ込めている。かつて、Templeの防衛力は信用の高いものだった。しかし、今や旅人も定住者もBlightの嵐や、魔物の襲撃に脅かされ、民衆は、Templeが悪魔であるDagoth Urに立ち向かうには歳を取りすぎて、力を失ってしまっているのではないかと恐れているのだ」
「結局はNerevarの生まれ変わりが何とかしなきゃいけないと」
「そうだな。ところで、図書室の本で、君が興味を引きそうなものを貸し出そう。どれもNerevarについて違った印象を与えてくれるものだよ」

 そう言って、『The Real Nerevar』と『Nerevar Moon-and-Stars』、『Saint Nerevar』をくれた。どれも読んだことのある本なので、読んだら後で返すことにするか。

「Nerevarineに対する我らの関心は、以前は、Templeの教義が受け付けない、謎めいた思想の重要性を考慮する上で、理解を容易くする要素だった。それが今や、Dagoth Urが増長しているのに対して、Tribunalはどんどん弱まりつつあり、聖Nerevarも復活した。たとえ霊魂のみが復活したのだとしても、上手く収まることを期待しているよ」
「Sixth Houseはどんな奴等なんですか?」
「新たな脅威であるが、悪魔Dagoth Urの別の顔を代表するものとしてはまだあまり知られていない。しかし、危機の到来を明確に告げるものであり、Templeも最早Morrowindを守りきれなくなっている証なのだ。このような危険な時代、Dunmerは信仰の柱である祖先崇拝に立ち返り、祖先とDaedra、特にLoad Azuraの示した予言的な先見性を考えるべきだろう。そして聖Nerevarの生まれ変わりであるNerevarineを認めて、Dagoth Urのおぞましい軍勢に共に対抗すべきなのだ」
「・・・・・・」


Kagrenac's Tools

 反体制派司祭の一人、Holamayanの僧院長、Gilvas Bareloによって、Apographaから纏められたものである。

 Red Mountainの地下、Dwemerの鉱夫は、巨大な魔力に満ちた石を発見した。手を尽くした結果、古Dwemerの高僧にして魔術技師のLoad Kagrenacは、この魔法的な石が、神Lorkhanの心臓であることを突き止めた。Dawn Eraに、定命の者の世界を創造した罪に対する罰として、ここに投げ捨てられたのである。その神なる力を、Dwemerが利益を独占するため、新たな神を創ることに使うことにした。Kagrenacは、強大な魔力が付与された三つのArtifact、「Kagrenac's Tools」と呼ばれるものを造りだした。Wraithguardは、心臓の力を取り出すときに、着用者を死の危険から保護するよう魔力を付与された篭手である。Sunderは心臓を打ち、望んだだけの量と質の力を搾り出す、魔力を付与されたハンマーである。Keeningは、心臓から湧き上がる力を剥ぎ取って一箇所に手繰り寄せる魔力を付与された剣である。
 KagrenacがRed Mountainの戦いでこれらの道具を心臓に用いた時、何が起こったのか知る者はいない。しかし、Dwemerという種族は、定命の者の世界から、永遠に姿を消したのである。Load NereverとLoad Dagothは、これらの道具を発見したが、どう扱うべきか決めかねた。Nerevarが相談役であるVivec、Almalexia、Sotha Silと相談しに行く間、Nerevarは、Dagothに、道具を守るようにと頼んだ。Nerevarは山を降り、三人の相談役と意見を交わし、何をすべきかを決定するために、一緒にRed Mountainに戻ることにした。
 しかし、Nerevarが行ってしまうと、Dagothは道具の力に誘惑され、心をかき乱された。Nerevarと相談役たちが辿り着くと、Dagothは道具を手放すことを拒否し、道具を守るとNerevarに誓ったのだと宣言した。そしてDagothはNerevarと相談役たちと戦い、致命傷を負って追い払われ、道具は取り戻された。
 その後、Nerevarと相談役たちは、道具を保管しておくことに決めた。彼ら全員は、道具を決して使わないという素晴らしい誓いを立てたが、Nerevarの死後、Vivec、Almalexia、Sotha Silは誘惑に負けた。三人はこれらの道具を手にし、Red Mountainの地下に埋められたLorkhanの心臓の元に行き、神の力を得た。
 しかし、Dagothは死んではいなかった。何が起こったのかは分からないが、このようなことがあったのではと思われる。Kagrenac's Toolsを用いたDagothの実験で、何らかの手段によって彼は心臓の神なる力と結びつき、心臓から直接力を引き出すことを学んだのだ。
 我々はこのように推測している。Dagoth Urが憤怒と強欲に突き動かされ、用心や自制心も無いまま心臓の力を引き出し、その結果、身の毛のよだつほど強力に、身の毛の立つほど狂ってしまったのである。しかし、Tribunalは細心の注意を払い、道具を自制心をもって使用し、そうして彼らは狂うことなしに、多くの善行を成した。にもかかわらず、Tribunalもまた、徐々に、心臓の力によって堕落していった。
 Kagrenac's Toolsは呪われている。神の心臓に秘められた力を盗むことは、おぞましい愚行であり、災厄を招くものである。Tribunalは、心臓の力をコントロールしようとする戦いに負けてしまった。彼らもDagoth Urを発狂させた穢れた力によって支えられているのである。Tribunalは弱りつつあり、Dagoth Urから人民を護ることが出来なくなった。しかし、たとえTribunalが護りきれたところで、我々はこのような神々を崇めることが良いことだと思えるだろうか? 神々は、後ろ暗さから真相を隠蔽している。後ろめたいがためにNerevarineと反体制派司祭を迫害したが、Dagoth Urに対抗するためには、この二者を受け入れて、援助を得なければならなかった。
 Tribunalは、MorrowindとDunmerのために多くの善きことを成した。しかし、彼らはKagrenac's Toolsの誘惑に屈した。これらの道具は、Tribunalにとって、かつては救済の手段であったかもしれないが、今はもう、破滅を招く道具と見なさねばならないだろう。

 ・・・これが『Progress of Truth』で示唆していたことか。Baleroさんの論文を読んで、冷や汗が出た。
 とてつもない。俺一人で対処しきれるのかさえ不明だ。やることばかりが積み上げられているのに、一つもどかすことが出来ないような感じ、と言えばいいんだろうか。お先棒を無理に担がされてるというか、どうしてこんなことになったのか、少しだけ泣きたくなってくる。前世の記憶が戻ってきたら少しは違うんだろうけれども、そういう上手いことにはならないみたいだ。どうすればいいんだろうなあ・・・。


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(2008.8.6)