砂糖の取り持つ仲

 結局、寺院から帰ってきたはいいが、俺の気持ちは絶賛どん底中だ。
 なんていうかね、うん・・・。

 とりあえずBalmoraに戻って周辺を薬草摘みをかねてとぼとぼ砦に向かって歩いていたら、以前は見なかった変な男に絡まれた・・・Dreamerだ。


「我はSixth Houseの魂、Dagoth様の肉にして、夢を見る者。お前はDagoth様を裏切ったな。あの方の報いを受けるがいい」
「はあ・・・」

 俺のことは一部で有名になったらしい(泣)
 正直うんざりなのだが、男はなおも続けた。

「Dagoth様はお目覚めになられる。栄光の中を歩み、従う者は大いに喜び、あの方の敵は塵のように霧散するであろう。Dagoth様は異国の者どもを滅ぼすため、外国にへつらうDunmerを懲罰なさるためににBlightの病をお送りになられた。Dagoth様に歯向かう者は衰え、死を迎えるだろうが、Dagoth様の下に集う者には救われ、より強くなるであろう。力と栄光はRed Mountainより溢れ、Dagoth Ur様の夢に染まるのだ。Ghostfenceの死霊術など侵略者どもの邪悪な術、我らの祖先は嫌悪するだろう。真なるDunmerは祖先を崇拝し、伝統を守るものだ。我らの祖先は今は恥辱と害意に狂っているが、獣や下等人種に貶められてるせいだ。外国人どもを国から駆逐した時こそ、祖先も休まろうというもの」
「いや、そんな目で言われましても、っていうか何か着て下さい
「裸で狂ってるように見えるのは崇高な精神の表れだ。さあ来い! お前を支配する鎖を掴んで正気を証明して見せるがいい!」
「ギャー! 助けておまわりさーん!!」

 こ、こんなところにいつまでもいたら色んな意味で危ない! 掴みかかろうとしてくる手を払いのけて、咄嗟にRecallを唱えた。


 あー、やれやれ。
 街はやっぱり落ち着くなあ・・・Dreamerにさえ絡まれなければ、の話だが。
 さっきのDreamerの一件でも解るが、Dagoth Urの力ってのは増長してきているんだろう。俺も、Nerevarineとして目されているようだ。つまり、Dagoth UrとTribunalを倒すことが俺の人生の使命になっちゃってるんだろう。望む望まないに関わらず。


 Morag Tongの事務所に顔を出して、これからどうしようか、なんて思ったがとにもかくにも、気分転換に出掛けることにした。


 Templeか・・・反体制派司祭の方々と話してきたすぐ後でもあるから、何となく行きづらいな。というか、Templeにとって俺は歩く不祥事だ。いや、まだ発覚してないけれどな。
 また呼ばれることもあるだろうからその時に行ってみるかな。あまり長く顔を出さないのも不義理だし。


 Balmoraの北門を出て、河を渡る。気分転換ってのは、ハンティングだ。弓の性能を試しながらCalderaの方向に歩いていく。飛び道具は下手糞だが暗殺やってんのに弓の一つも・・・ってのはあまりにアレだし。せめて普通レベルまで扱えるようにはなりたい。

 そんなこんなですっかり暗くなってしまったし、矢も無くなったのでそろそろBalmoraに戻るかな、なんて考えてたら、アーチ状になっている岩の下に倒れている人がいるのを見た。思わず駆け寄ると、岩陰からNix-Houndが現れた。


 えーい、邪魔!
 聖剣の切れ味はすばらしく、この程度の獣の皮ならチーズも同然。


 しかし、俺は遅すぎたようだ。獣に食べられた形跡もないから、死んでから左程時間は経ってないようだが・・・。
 見つけたのも何かの縁だし、何か遺品があったらガードに通報するついでに遺族なり知り合いなりに届けてやろうかと思ったが、「Tsiya」と名前が入ったSkoomaのパイプを発見した。ゲ、ヤバイじゃん。俺の同僚も吸ってる奴いるにはいるけど、あまりよろしからぬものだ。しかも名前つき。それを懐から取り出すと、くしゃくしゃの紙切れが地面に落ちた。それを取り上げて読んでみる。


 Tsiyaへ――

 あんたのはここにあるよ。あんたの所にいられず、話すことも出来なくてすまないが、ベタベタしてるのも、いい考えってワケじゃないだろ?

 ――Ernilより

 ・・・TsiyaってDunmerの名前っぽくないな。じゃ、Ernilってのがこの男で、Tsiyaってのがパイプの持ち主か。紙切れの走り書きからすると、後で返すつもりだったらしいな。BalmoraからCalderaへ行く途中だったのか、帰る途中だったのか。でも、持ち主の所に長くいられないとは、どうも後ろ暗いとこがあるらしい。って、まあSkoomaキメてるんだから当たり前か。


 官憲にパイプが見つかると明らかにヤバイので、まあこれくらい持ってってやるか、と戻ることにした。どーせTsiyaって名前からしてKhajiitだろ。KhajiitはSkoomaとか悪いことだと思ってないから、単純に喜ばれる可能性が高い。


 だが、今日は遅いので、衛兵に話すだけ話して、Tsiyaのところには明日伺うことにした。
 え? このぐちゃぐちゃなベッド? 俺のだよ・・・悪かったな。
 でも、そろそろ引っ越そうかな。Caiusの家は自由に使っていいみたいだし。

 みんなと話していたんだが、誰かがCamonna Tongに殴り込みをしたことが噂になっていた。俺の名前は出ていないみたいで安心だ。ただ、MoonmothのチャンピオンのLarrius VarroがCamonna TongをやっかんでるのはBalmoraの住民にはお馴染みみたいで、Larrius Varroと話をしてた俺がちょっと怪しまれた。けれど「えー、そんなことないよー」と笑って否定したら「そうよね、偶然よねー」と流してくれた。あまり目立つのはよろしくない。


 街の地図で、Tsiyaの家を確認してみた。家は川沿いの通りに面している。ちなみに、一番左のあたりが高級住宅街で、Morag Tongの事務所もあるところ。俺がいる中央部分の通りが店とかギルドとか並んでるところだ。


 さて、翌日。早速Tsiyaの家に伺ってみた。


 Tsiyaは面識の無い俺が来たことに不思議がっていたが、走り書きを差し出しながら「ある人のことを聞きたい」と言うとErnilのこと? と首をかしげた。

「ErnilからTsiya宛てのメモをあなたが? おかしいわね・・・Tsiyaはここでいつでも待っているのに」
「残念ですが、彼は帰らぬ人と・・・」
「死んだの? なんてこと、Ernilは良い人だったのよ、いつもきちんと取引してくれたし。Tsiyaにあの人が持ってきたもの、何か持ってないかしら?」
「ええ、彼の懐に貴女の名前が刻まれたパイプが」

 パイプを差し出すと、Tsiyaはこわごわと受け取って涙を流した。DunmerとKhajiitというのも妙な取り合わせだが、仲のいい友達だったんだろうな。

「ああ、これよ。ええ、本当に、友達にあげたの・・・忘れるはずもないの。返してくれてありがとう。お返しに何をあげたものか思いつかないわ・・・そうだ、これを受け取って。Ernilからもらったの」

 Tsiyaは引き出しから包みを取り出すと、俺に差し出した。中身は50ゴールドとMoon Sugarが10包。俺は薬はやらんので要らないのだが、まあ、Caiusが戻ってきた時のために箪笥の中にでも入れておくか・・・。
 ちらっと彼女を見たが、友達が亡くなったという事実は受け入れがたいらしく、ノートとパイプを抱きしめて、少し震えていた。これ以上は邪魔だし、俺には何も出来ない。小さな声で暇を告げると、静かに家を出た。

 その後は、街の外に出掛ける気にならなかったので、メイジギルドに戻ってRanis師の講義を聞いて、Morag Tongの事務所でみんなでわいわいお酒を飲んだ。いい感じに酔っ払って家に帰ってのんびり寝ていたのだが、異様な気配を察して、枕元に置いてあった剣を掴んだ。




 安眠を妨害されてキレた俺は容赦せずAsh Zombieを斬り飛ばした。しかし、長剣なので寝起きの姿勢ではうまく振りぬけず、二、三発もらってしまった。こういう時は長剣よりも短剣のほうがいいな・・・。
 傷を治すと、死体を袋に詰めて(元々死んでるが)始末することにした。まだ深夜なので、人目に付かぬよう橋まで行くと、とっとと川に投げ捨てる。ったく、なんでコソコソこんなことをしなくちゃいけないんだか。

 毒づいてもしかたがないので、さっさと寝ることにした。今度は襲ってこないことを、Mephala様に祈りつつ。


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(2008.10.6)