Ald'ruhnへの異動


 さて、Templeの歩く不祥事となった俺だが、のんびり遊び歩いていたところ、この度Balmora支部から呼び出しを食らった。
 こう見えても口は固い。Nerevarine(仮)であることや、反体制派司祭と接触していることは口外していないし、それらしい素振りをしないように気を使っている。
 あんまり顔を出さないのもまずいので、錬金術の腕を磨く傍ら、ちょくちょくポーションを作ってTempleに納めてるのだが、この前行ったときも特に変わった様子もなかった。


 まあ、ただ単に仕事を言い渡されるだけだろ・・・と思いつつも、こっちも身の安全がかかっている訳だし、少し怖いのも事実だ。バレてませんように、と願いつつ、寺院の扉を開けた。


「来たな」

 奥で待っていたのは、ここを管理しているFeldrelo Sadri師だ。基本Balmoraは親帝国派のHlaaluの街だし、南東のPelagiadと北のCalderaは帝国系の街なんで、ちょっとTempleは影が薄いのも事実なんだが、俺のようなArgonianには活動しやすい場所だ。

「それで、わざわざお呼び出しとは、仕事ですか?」

 師は、意外にも首を横に振った。

「君の腕前は申し分ないが、それに見合う大きな仕事がなくてね。丁度、Ald'ruhnのTuls Valenか、Molag MarのTharer Rothelothが手伝いを欲しているそうだ。どうする?」

 異動か。選ぶ自由はあるようなので、どうするかな、と首を捻ったが、Ald'ruhnにはMorag Tongとメイジギルドの支部があることを思い出した。行ったこともなければ、同じギルドに所属する人もいないMolag MarよりはAld'ruhnのほうがいいだろう。
 Ald'ruhnに行くことを告げると、師は頷いて紹介状を書き、俺に持たせてくれた。丁重に預かって、Templeを辞去する。
 直線距離では遠いのだが、メイジギルドの転送サービスがあるからBalmoraとも気軽に行ったり来たりできるよなー、とのんびり考えながら歩いていたら、いきなり殴りかかられた。

「民草は収奪の時を迎えん! 苦しみの下、大地は新たな芽吹きを迎えるのだ! 愚か者は死に、その肉は国を高める肥やしとなるのだ!」
「は、はあ!?」

 不意に一発食らいそうになったが、後ろから襲い掛かられようと、へろへろのパンチが当たるはずもない。反射的にするりとかわしたが、相手は意地汚く食い下がってくる。・・・振り返って顔を見たが、こいつ、Sleeper!?


「この外国野郎! 死ね! 獣と人、外国のMerは全て死ぬがいい! 生き延びたいなら怒りを捨て速やかにこの国から逃げ出すことだ! さもなければお前の肉は大地の肥やしになるぞ!!」
「口先は大層だが・・・」


 Calm Humanoidで沈静化させる。Morag Tongに入って幻術の勉強をしていた成果の一つだ。相手はDagoth Urの夢で操られているだけで、元は普通の市民だ。殺す必要はない。


 殺意を削がれているうちに見えない場所まで一気に駆け抜ける。と、まあ、カッコよく言ってみたんだが、内心汗だくだった。今でさえ居場所を突き止められて寝ている隙に刺客を送り込まれている。それが更に起きている間でも襲われるようになってしまったのだ。
 先ほどまではこれまで通りBalmoraを拠点にする気だったのだが、家を突き止められて襲撃かまされるのも怖い。急いでCaiusの家に飛び込み、必要最小限のものをかき集めるとメイジギルドに駆け込んだ。丁度Ald'ruhnへの辞令を受け取って幸いだった。Ald'ruhnにもSleeperがいないという保証はないが、拠点としていたために足が着きやすいBalmoraよりはAld'ruhnのほうが幾分か安全だ。


 転送サービスで早速送ってもらう。宿は向こうについてから考えよう。長期間宿泊できるだけの金だけは十分に持っているから、心配はない。何だったら、メイジギルドやTempleのベッドに泊まれるのだから。

 それにしても、これが夢の災いか。僧院長さんの言葉や、Milo司祭の言葉を思い出した。「魂の病」――帝国に言わせれば精神病。Dagoth Urの闇の夢に屈した人、Sleeperたち。俺が殺したDreamerの預言者。じわじわと破綻が迫っているような気がする。今はまだ治安の悪化で済んでいるのだが・・・Dagoth Urが目覚めたらこんなものでは済まされないだろう。


 俺に出来ることといったら、何だろな。しがない暗殺者なわけだし、Dagoth Urを暗殺か・・・俺は気持ちよく眠れて、のんびりあちこちに冒険して、困った人を助けるのも悪くないし、ついでに標的を仕留めてEnoさんとかに褒められたら嬉しいなーとか考えてるだけで、そう大した野望とか持ってないんだが、どうしてこんなことに巻き込まれたんだろうなあ。





「ふむ、きちんとした紹介状だね。腕のほうも申し分ないようだ。まあ、武に関しては本当は打撃武器とかが推奨されるのだけれどね。まあいいだろう」
「こちらこそよろしくお願いします」
「まあ、仕事はきちんと頼む。早速だが、Templeに勤めるものとして慈悲というものを学ぶといい」
「慈悲ですか」
「Vivec様はしばしば敵にも情けをお掛けになったものだ。お前もMaelkashishiでSheogorathを信仰しているBulfim gra-Shugarzを癒すことで慈悲を見せなければならない。このBlightのポーションを取りなさい。ポーションを与えることでBulfimを治癒できようが、これは高価でな。『Rilm's Gift』のような魔法を修得したほうがいいと思うし、その場合はポーションを返却するように」
「わかりました。それで、Maelkashishiとは具体的にどの辺ですか」
「Ald Velothiまで行ったら、AshalmawiaのDaedraの祠が見えるまで東に行くことだ。それから山に差し掛かるまで歩き続けること。それから別のDaedraの祠が見えてくるまで道なりに南に行きなさい。Maelkashishiでは用心を怠るな、Yui-Li。Sheogorathの信者の心は測り知れない。遺跡に入っても深入りは避けること」
「了解しました」

 『Rilm's Gift』というのは、一度でBlightと普通の病気を治癒できるお得な魔法である。まあ、覚えて損はないんで、早速奥にいた僧侶さんに教えてもらった。
 それにしても、Sheogorathか。災厄の四天王として有名なジジイだ。見かけは人間に近いが、狂気をつかさどるのだとか。Vivec神の頭の上に月(今のMinisty of Truth)を落とすという嫌がらせをしたんだっけ。俺が侵入したあのOrdinatorの詰所兼監獄の。


 んで、まずAld Velothiに行かないといけないのだが、Ald'ruhnから行くならSilt StriderでGnisisに行き、それから徒歩が無難そうだ。早速Gnisisに行くことにする。


 そういえば、GnisisはVivecのAsh Maskが聖遺物として安置されているんだが、展示されているほうは実は偽者で、


 三面柱の中に本物が隠されている。


 さて、一通りの旅支度を整え、お弁当を買った後は北に歩くべし。


 ここまでくればもう少しだ。
 すんなり何事もなくとりあえずの目的地であるAld Velothiまで行けるかなー、と思ってたら、そうもいかなかった。


「あの・・・ねえ、あなたのようなハンサムで若い男の人が来てくれないかと思ってて・・・ね、ちょっと困ってるレディを助けてくれないかしら」

 のんびり景色を見ながら歩いていたら、声をかけてくる女がいた。初っ端から褒め言葉とは大変胡散臭かったのだが、はて、何だろうと思いつつ歩み寄ると、ほっとしたような表情で、奥の池を指差した。

「ねえ、私ったら指環を落としてしまって、この池のちょっと見えないところまで転がってっちゃったのよ。でも、Gnisisで待ってる人がいるから池に入れないのよ。ええ、私は「個人的な」踊り手で・・・腐ったような水に浸かって嫌な臭いを振りまくなんて出来ないの。ね、取ってきてくれないかしら。そんなに深くないし、すっごくありがたく思うんだけど」
「んー、まあいいけど」

 要するにGnisisに「商売」しにいくんだが、泥の臭いをこびりつかせるなどもっての外だと。まあ、時間のかかることじゃないしそれくらいいいか、なんて思って軽くOKし、服を脱いだ。いや、俺だって折角の服に臭いがつくのは嫌だよ。


 女の言った通り、水深は人の背丈よりちょっとあるくらいで、そんなに深くない。水草を剣で切って掻き分けると、きらりと光るものがあった。
 これだな、と握りこむと、水の上から矢が降ってきた。


「かかったわね! 泥棒さん!!」
「死になさい!!」
 おわー!!(゜д゜;)
 一瞬混乱したが、それでも反射的に岩陰に身を隠して飛んでくる矢をかわした。これって、アレか! 美人局かよ!!

「アハハ! 逃げられるものなら逃げて御覧なさい!」

 完全に自分たちの勝利を確信した声が降ってくる。


 大分まずい状況だったが、幸いなことに剣は手元にある。ダメージ覚悟で突っ込む必要はあるが、相手はさして訓練を受けていないならず者。こっちは腐ってもMorag Tongの暗殺者。負ける気はしなかった。
 素早く飛び出すと、まず鎧の女の心臓を力任せに突き刺した。聖剣は軽装の薄い装甲を難なく貫き通す。

「そんな!!」


 敵にも情けを、とは言うが、騙まし討ちのような姑息な手段を用いる相手は、たとえVivecといえど、この限りではないだろうな。
 用心棒役の女を殺され、怯んだ美人局は後ずさって一瞬躊躇したが、袈裟懸けに肋骨ごと身体を断ち割られた。

 他に襲ってくる者がいないか周囲を見回したが、人の来る気配は無かったので、一息ついて服を身に着ける。
 尚、女たちの身体を探ると、結構な額の金が懐に入っていた。犠牲者は多かったらしい。用心棒の方はカメレオン80%のアミュレットを持っていた。美人局が男を釣る間、これで用心棒役は姿を消していたんだろうな。

 思わず街道の安全に寄与してしまったのだが、傷を治しなどしている間に時間が大分過ぎていた。
 幸先悪いなー、と思わないでもないのだが、まあ、甘い言葉にはご用心というやつだろう。その割には痛い授業料だったが。


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(2008.11.3)