The Calling

「本当に写しを見つけてきたのですか? 素晴らしい、本を渡してください」

 しばらくの間、本が本物かどうか師は調べていたが、ややあって目を本から離して俺に向けた。

「感銘を受けましたわ、Magician。いつもこのように手際よく頼みますよ」


 「はいはい」と言いかけたところに、師は「では次の仕事ですが」と間髪いれず申し付けてきた。

「Sadrith MoraのSkink-in-Tree's-ShadeからDetect Creaturesのポーションを手渡されるのをずっと待っているのですがね」
「つまり、Sadrith Moraに行けと?」

 師は頷いて続けた。

「Skink-in-Tree's-Shadeと話して、いつまでたっても終わらないことを終わらせるように。Sadrith MoraのWolverine Hallに行って、可能な限り早くSkinkに仕事を終わらせてポーションを持って帰って来てください。それと・・・」
「それと?」
「VivecのMages GuildにいるSirilonweが何らかの方法で『Chimarvamidium』の写しを得たようです」
「その『Chimarvamidium』とは、やはり希少本で?」

 師の厳しい顔に、興奮の赤みが差した。

「Marobar Sulの『Ancient Tales of the Dwemer』の第六巻です。殆どの『Ancient Tales』はDwemerに端を発するものではありませんが、恐らくこれは例外です。ゴーレムやCenturionへのある種の扱い方が記されているのです。この本を私のために『借りて』きてくれませんか?」

 なんか『借りる』というところがやたら強調されているわけだが、断れる雰囲気でもないので俺は頷いた。

「ありがとうございます、Yui-Liよ。Siriloweは多分、VivecのMages Guildの手元に本を隠していることでしょう。手段を問わず、本を得て私のところに持ち帰るように。もし貴方が窃盗で逮捕されたら、ギルドに対する罪となりますので気をつけなさい。それから、それに備えて、このスクロールを取っておきなさい」

 そう言って、師はOndusi's Unhingingの巻物を押し付けてきた。これ、開錠魔法の巻物だし。雲行きが怪しくなってきたな。


 ・・・本を盗んで来いってことだな。難しいことを言ってくれるね。
 だが、俺も暗殺魔術師だ。職業柄、隠密や開錠の術の一つや二つは心得ている。ここは、奪ってくるものが人の命から本に切り替わっただけだと思えばいい。それに、あくまでも「借りる」だから、そのうち返すだろう。そうじゃないなら俺がこっそり返却するか。


 まずはSadrith Moraに。奥に居るのがSkink師だな。
 早速、Ald'ruhnのEdwinna師からの使いだと言うと、既に作業は終わっているらしく、それらしい品を渡してくれた。

「ええ、勿論だとも、友よ。このポーションをEdwinnaに持って行って、私の謝罪を伝えてください。次に話す時があれば、いくらかの任務を差し上げましょう」

 ふむ、Skink師の仕事か。興味は無いことは無いな。覚えておくか。


 さて、簡単なほうの用事は済んだ。本を「借りに」行くか。
 勿論、いざこざとなる可能性もあるから、事前にめぼしい本屋を回ってみたものの、本当に希少本らしく、どこにも無かった。俺が遺跡やなんやかやを巡って手に入れて寄贈しておいた本の中にも無いとは、やってくれる。


 Sirilonweさんは、Archmageと何か立ち話をしていた。チャンスだな。


 人目の無い場所で無視の魔法を唱えて、素早く二人の横を通り過ぎる。


 何か貴重な物を手に入れた場合、コインならともかく、希少本のようなものならば、銀行の金庫よりも手元に置いておきたくなるものだ。というわけで、彼女の部屋に怪しいチェストがあったので開錠魔法をかけてみると、案の定、中には本が入っていた。


 もう一度魔法を唱え直して通り過ぎ、人目の無い場所で魔法を解くと、そのまま何食わぬ顔をしてギルドを出る。Vivecのギルドは人の出入りも激しいので、こうすればもう足もつかなくなる。ついでに本を写しておくか、とHidden Arenaに向かうことにした。

Ancient Tales of the Dwemer, Part VI: Chimarvamidium
Dwemerの説話集その六 Chimarvamidium
Marobar Sul 著

 多くの戦いが終わり、誰が戦争に勝つかは明らかになっていた。Chimerには素晴らしい魔術と剣技があり、対してDwemerにはJnaggoの手による最も素晴らしい防護装備を備えた機甲隊があり、彼らの勝利の希望など殆ど無かった。その国の平和を保つことをいくらか天秤にかけ、Sthovin the WarlordはKarenithil Barif the Beastとの停戦に合意した。Disputed Lands(議題に上がった土地)と引き換えに、SthovinはBarifに強力なゴーレムを貸し与えた。それはChimerの領地をNorthern Barbarianの遠征から守護するものだった。
 Barifは彼の贈り物に喜び、野営地に連れて戻ると、そこに居た配下の戦士たちは、畏敬とともに喘ぎながら仰ぎ見た。目映く光る金色を纏い、それは誇り高い顔つきをしたDwemerの騎士に似ていたのだ。その強さを試すため、彼らは闘技場の中央にゴーレムを置き、魔術の稲妻を投げつけてみた。その俊敏さたるや、わずかな稲妻しか当たらなかったほどだ。それは攻撃の矛先を避けるために回転することが可能で、バランスを崩すことなく、足はしっかりと地面に根付いていたのだ。火の霰が後に続いたが、ゴーレムは見事に避け、爆発をやり過ごすために膝と足を曲げた。僅かに攻撃が当たった時は、その身体で最も強く作られた部位である胸と腰で必ず受けるようになっていた。
 隊は、そのような機敏で強力な創造物を見て喝采した。それと共に防衛軍を導くと、SkyrimのBarbarianたちは、村々を上手く襲うことが無くなった。彼らは、それにHope of the Chimerという意味の、Chimarvamidiumという名前をつけた。
 Barifは、ゴーレムを彼の全ての氏族の長と共に自分の部屋に入れた。そこで、彼らは更にChimarvamidiumの強さ、早さ、活動性をテストした。彼らは、デザインの欠陥を見つけることが出来なかった。
 「裸の野蛮人が急襲を仕掛けた時、初めてこれに出遭ったことを想像してみるがいいよ」と、氏族の長の一人が笑って言った。
 「一つだけ不運なのは、これが我等の者ではなく、Dwemerに似ていることか」とKarenithil Barifは感慨を込めて言った。「奴等が我等よりも我等の別の敵により敬意を寄せていることを考えると不愉快な気分になる」
 「我々は、かつて受け入れた平和条約を決して受け入れてはならないかと存じます」と、氏族の長で最も急進的な者が言った。「司令官Sthovinを攻撃して驚かせるのは遅いでしょうか?」
 「攻撃するのに遅すぎるということは無い」とBarifが言った。「だが、彼の偉大な武装戦士はどうか?」
 「了解しております」と、Barifのスパイマスターが言った。「彼の配下の兵士は常に夜明けに起床しております。我等が一時間前にでも襲えば、甲冑を身につけることは言うまでも無く、水を浴びる機会も無く無防備で捕らえることができましょう」
 「我等が鍛冶師のJnaggoを捕縛できるなら、我等も鍛冶屋の秘密を知ることが出来よう」とBarifが言った。「ではこれにて。我々は、明日の夜明け一時間前に攻撃を仕掛ける」
 そして賽は投げられた。Chimer軍は夜に行進し、Dwemerの野営地に群がった。彼らは第一波を導くためにChimarvamidiumに頼ったが、しかしそれは故障し、Chimer自身の軍を攻撃し始めた。それに加え、Dwemerは完全に武装し、よく休み、戦いへの士気も高ぶっていた。驚きは逆転し、高位のChimerの最も高位な者、Karenithil Barif the Beastを含めた者たちが捕縛された。
 彼らが尋ねることは自尊心が許さなかったが、Sthovinは、彼らに配下の一人のCalling(呼び声)で攻撃を知らされたのだと説明した。
 「どういう部下が我等の野営地にいたと?」とBarifは冷笑した。
 Chimarvamidiumは捕虜の側に真っ直ぐ立っていたが、その頭を取り出した。その金属の身体の中に、鍛冶師のJnaggoがいたのだ。
 「Dwemerなら八つの子供でもゴーレムは創り出せる」と彼は説明した。「だが、真に偉大な戦士と鍛冶師だけが、一つになれるものよ」

 編集者注
 これはこのコレクションにおいて、Dwemerに由来する、数少ない本物の話の一つである。物語の言い回しはAldmer語以前の版とは全く異なるが、本質は同じである。「Chimarvamidium」はDwemer語の「Nchmarthurnidamz」であるかもしれない。この語はDwemerの鎧の計画書とAnimunculiのとで数度出ているが、その意味については知られていない。だが、それは「Hope of the Chimer」ではないことは確かと言えるだろう。
 Dwemerは、恐らく、最初に重装を使用したのだろう。装甲を纏った者が、どのようにこの物語において多くのChimerを馬鹿にしているか気付くことは重要である。また、Chimerの戦士がどう反応したか気付くべきだ。この物語が最初に語られた時、全身を覆う鎧はまだ見慣れぬものであり、新しかった。ところが、それでも、Dwemerは我々がよく知るゴーレムやCenturionを作っていた。
 希少な学術的部位について、Marobar Sulは原作の数箇所を無傷のまま残している。原作の行はAldmer語で「Dwemerなら八つの子供でもゴーレムは創り出せる。だが、八人のDwemerは一つになることができる」
 私のような学者が面白いと感じるこの伝説のもう一つの側面は、「The Calling」についての言及である。この伝説や他のものにおいても、Dwemerの種族全体が、ある種の魔術的コミュニケーションを無言で行えたことを示唆するものが存在する。Psijic Orderもこの秘密を共有していたことを仄めかす記録が存在する。事例がどうであれ、「Calling」についての文書化された魔術は存在しない。Cyrodiilの歴史家Borgusilus Malierは、これがDwemerの消滅を解消するものだと最初に提唱した。第一紀668年において、Dwemerの飛び地の者は一人の同胞の強力な賢人魔術師(「Kagrnak」と幾つかの文章にはある)によって共に呼び出され、偉大なる旅路に乗り出した。こうした崇高な目的のため、彼らは彼らの街と土地を捨ててこの探索に加わり、異国の地の者も一つの文化圏の者としてあったと彼は推測している。

 ・・・Nordとの戦いにおいて、ChimerとDwemerは手を取り合って戦い、その後数百年間は平和な状態にあった、と色んな文献で学んだが、流石にすんなりとはいかなかったらしい。こうした諍いはたまに起きていたんだろうな。Nerevarさんもさぞ胃が痛かったことだろう。
 さて、俺にとって重要なのは編集者の注か。
 理論化あるいはその術式が公開されていないテレパシーをDwemerが使えたというのはたまに聞く話だ。詠唱者の心を召喚された存在と繋ぎ合わせる召喚術とも関連付けられ、『The Doors of Oblivion』にも、偶然ではあるがテレパシーを成功させた事例がある。
 Dwemerは、例えばArgonianが生まれながらに泳ぎに長けるように、或いはAltmerが生来魔力に親和性があるように、他者の心と繋がる力を併せ持っていた、ということでいいのか。勿論、いつでも、誰にでも、心の奥の奥まで心を開いていたわけでは無いだろうが、種族として他者と一つになる力を持っていたことがDwemerの消滅と関連付けられるとは興味深い。Dwemerの飛び地はHammerfellのFang Lairのように、Tamrielの各地にあるらしいが、これならば本拠であったVvardenfell一帯だけではなく、各地のDwemerが一斉に消えてしまった説明にもなるか・・・。
 とすると、Yagrum Bagarnさんはそうした能力に生来的に欠けてる可能性があるってことになるけど。そこんとこどうなのかな。


 二つの品を持ち帰ると、師は上機嫌で俺に話しかけてきた。

「あら、ようやくDetect Creatureのポーションを持ってきましたか。ポーションを渡してくれますね?」
「どうぞ」
「素晴らしい。在野で頑張るMagicianにもっと便利なポーションをあげましょう」

 そう言って、師は機嫌よく高そうなポーションを俺に手渡してくれた。単なるDetectの薬の対価にしては気前がいいと思うけど、まあいいか。
 次に、俺は『Chimarvamidium』を見せた。本の内容は覚えたし、写しておいたから師に渡しても問題は無い。
 師は案の定、「『Chimarvamidium』の写しを持っているのですか? 私にその本を貸してくれますね?」と興奮して俺に手を出した。元よりそのつもりなので頷いたが、ひったくらんばかりに本をもぎ取っていそいそと自室に篭ろうと背を向けた・・・が、何かを思い出したように足を止めて振り向いた。

「ありがとう、Yui-Li。すぐ返すつもりですが、その間にやってもらいたい仕事があるのです」
「仕事?」

 Ranis師よりはまろやか、だが執心していることには手段を選ばずという身の入れようは魔術師らしい師であるなあ。しかも俺から本を「借りた」と口にするあたり、さりげない保身も入れている。とはいえ、仕事は俺にも有用で面白いものだ。「はいはい」と居住まいを正すと、師の次の言葉を待った。


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(2009.3.11)