夏の終わり。
変な人を見た。
偉そうな爺さんが、悲しげな顔で自分のことを語っている。
そして、異界から異形の軍勢が押し寄せてくる光景が頭の中に流れ込んできた。
こんなに恐ろしいのはなんでなんだ? 何故かとても現実的な気がする。なんだろう?
・・・って、はっ! ゆ、夢だったか・・・!!
もう長いことここにいる。国境で捕まってから何ヶ月くらい経っただろうか。いや、別に密入国とか、犯罪目的じゃなくてフツーの観光なんだけどさ。そこそこ名前も知れてたし! お金だってちゃんと持ってたし!
なのに衛兵ときたら、俺を見つけるなり集団で半殺しにした挙句縛り上げて帝都まで護送して地下牢にぶち込んだときたもんだ。流石に10人規模の集団で襲われると俺としても対処の仕様が無い。
あー、前は冒険やってそこそこ強かったんだけど、お陰で手足が萎えて呪文も満足に撃てなくなってしまっている。このまま腐ってたら自慢の黒い色も(赤が混じってるけど黒の方が勝ってるんだな)白くなっちゃうなあ。
「おい、トカゲ! 悲しいか、んん? 水辺はあんなにも近いのに、分かるだろ? お前はもう泳げないんだよ・・・」
悲しんでたら傷口に塩を塗りこむダークエルフがいやがった。こいつかなり長くここにいるらしく、かなり俺をひがんでいる。激しくむかつくが相手にしないほうが吉だ。精神統一精神統一。ちなみにArgonianはTamrielに住んでる種族の中では唯一水陸両用で、毒が全く効かず、病気にも強い。奴が水のことを持ち出しておちょくってきたのもそういう理由による。溺れることが無いので水産業に従事してる人も多い。
それでもかなりうるさくお前は死ぬだとか二度と泳げないんだよウェーハハハハとおちょくってきたので流石に怒りを感じはじめてきた。しかしその時、誰かの話し声が近づいてきた。衛兵にしては急いでいるようだし、「後ろの扉を見張っていろ」という声もある。何だ?
「私の子供達・・・、死んでしまったのだろうか?」
おいおい、本当に何だ何だ。死ぬとかなんとか、不穏じゃねえか。それに、陛下、とか呼ぶ声も聞こえる。一体何がどうなってんだ。攻撃を受けたとか言ってるし、状況からして暗殺騒ぎでもあったとか? でもわざわざ逃げ場の無い地下牢に隠れるのも変な話だが。
陛下、と・・・本当なら名前はUrielだったっけ、名乗る人物は何か神秘的な力を使っているかのように、子供が死んだだろうことを言ったりしている。もしくはただの電波だ。
「この囚人は何をしているのだ? この檻は立ち入り禁止のはずだが」
知らんがな(;´Д`)
俺のせいじゃねーよ! どうも手違いで入れられたらしい。ってか、何やら夢で見た爺さんが見える。え? 本当に皇帝なのか・・・。ちょっと待て。皇帝だって!?
連中も気が立っているらしく、窓まで下がれ、変なことをしたら切り殺すと脅された。皇帝一人と護衛が三人か。俺の頭はすばやく働いた。皇帝の警護にしては護衛が少ないような気がする。襲撃を受けて散りぢりになってしまったんだろうか。ってか、衛兵の格好じゃない。もっと上等の鎧・・・中の人の世界の400年くらい前に武将が着てたのと似たような具足と、剣ではなく刀を持っている。
と、ここで皇帝が突然話しかけてきた。び、びっくりするだろ!!(汗)
やっぱり神秘的な人だ。あ、皇帝ってなんか不思議な力があるって聞いたことがあるな。魔法なら修行次第でまあまあなんとかなるけど、それを越えた神がかったものだ。
「いくら夢で見たからってそんな気安く話しかけてさ、でも何が起こってんの?」
「暗殺者が息子たちを襲撃した。次は私の番だ。Bladesが私を都市の外へと導いてくれる。この秘密の通路を使ってな」
なるへそ。偶然にも、逃走用隠し通路の入り口が自分のぶち込まれた牢屋だったらしい。それなら皇帝がここに来た理由もわかる。ブレードのお姉さんが横で通路を開くスイッチみたいなものを探しているし。しかしまあ、この不思議具合を見てきたらムカムカしてきたな。
「そんで、本当に皇帝なの?」
「そう、Uriei Septimだ。神々の御力で統治者としてTamrielに仕えている」
ず、随分でかく出たな・・・Cyrodill(この地方というか、国のことね)はTamrielを余すところ無く支配してるってわけじゃないし、どの国とも必ずしも友好関係にあるってわけでもないんだが。一般的な帝都民ってこうTamrielを見てるのかなあ。
「で、何のめぐりあわせでここに? 半殺しにされて放り込まれたんだけど」
「お前のしたことは大した問題ではなく、神が我々を引き合わせるために導いたのだろう。お前には知る由も無いことだ」
「運命ってやつか・・・じゃあ引き合わせて、神は何をたくらんでるの?」
「道はおのずと見つかる。だが、気をつけなければ終焉は血と死と共に来る」
怖ええこと言うなよ(怯)
そんなこんなで仕掛けが外れたらしく、現れた通路の奥に一向は消えていった。中から通路の開閉は出来ないようになってて、俺の目の前には脱出用の通路・・・あれ? これって、行けってことか?
うーん・・・。
行くっきゃないよな。これが神のオミチビキってやつなら。ブツブツ。神様も酷なことをするもんだ。なんでえ、何年か前に健康問題があったり、身辺を固めたりしてた割にはスケスケっつーか。
追っ手はこの隠し通路のことも知っているらしく、早速襲撃をかましてきた。どうもバレてるらしいな。この分では息子さんが死んでるってやつも・・・。
襲撃でRenault隊長が死んでしまった・・・暗殺者はお揃いのローブを着て、装備を召還して攻撃してくる。Bladesも刀を振り回して暗殺者に応戦してくる。術者はお揃いの格好をしているので、何らかの組織に所属しているんじゃないかと思われる。隊長の刀を借りて、後を追うことに・・・が、扉を閉めて鍵をかけやがった。俺が追ってくるのが嫌らしい。
しかし、踵を返した途端、通路の壁が崩れてそこから鼠が襲い掛かってきた。軽く切り伏せたわけだが、鼠が居るって事はどこか他へ続いている通路があるってことだ、俺は早速入り込んでみることにした。しかしまあ、これも運命とか神とか言うのが道を作ってくれているとか、そういうことかねえ。
さて。問題の側道には、
ゴブリンの死体あり、
刑務所に侵入しようとした不届き者の成れの果てあり、(帝都刑務所への侵入は死罪なんだが)
ゴブリンの巣あり、
ゴブリンのボスあり、とまあなかなか、管理不行き届きも甚だしい状態だった。襲撃を受けたのは、警備に穴があったんだろうな・・・。
しかし、途中であれこれ装備が拾えたのはラッキーだった。無事出ることが出来れば、ある程度お金を作ることが出来る。ただ、荷物には重量があり、こっちも限界積載量があるので、全部持ちきることが出来ないのがアレだが。
お、ホントに繋がってた。
まだ暗殺者の襲撃は続いているらしい。助けも期待できない状況だから、皇帝自らも剣を持って戦っている。今年87かそこらになるんじゃなかったか? Morrowindにいた頃は、噂で体が良くないみたいなことを聞いたのに、ようやるなあ。
しかし・・・俺は暗殺者の仲間に思われた・・・○l ̄l_
Bladesの精鋭2人がかりで襲われたら死ぬかもしれない。どうしようと刀を構えたその時、皇帝が止めてくれた。良かった。これで死なずに済む。
彼等は皇帝に忠実だから、止めろといったら素直に聞く。というか、俺がみんなを助けてくれるどころか、むしろ俺を積極的に助けなければならないらしい。これも運命と神のオミチビキ? 俺またなんかやらかすのかよ!!(汗)
それはともかく、何で俺のことを信用してくれるんだろう。皇帝も寄ってきて説明してくれた。
「お前はNineを知っているか? Nineはどのように、その見えざる御手で我等を導くのだろうか?」
「あんまり考えたことないなあ。Daedraと違って姿や工芸品なんか現わさないわけだし」
「私は来る日も来る日もNineに仕えてきた。そうすることで、私は天の周期を知り、進む道を決めるのだ。天空には無数の光が瞬き、その一つ一つは炎であり、その輝き全てが啓示であるのだ」
要するにお告げで分かったってことか、霊夢で見たことがあるとか言ってたし。しかも、お告げは皇帝の死を表していたらしい。
「そんな悲観的な・・・俺は?」
あまり長話している場合じゃないってBladesの人たちも言いたそうにしているけど、周囲に気を配って我慢している。俺だって巻き添えで殺される可能性もあるわけで、なるべく簡潔に話を聞いてあまり場を混乱させることはしないように決めた。
魔術師座が俺の星座だけど、星占いによれば今日この日に俺が死ぬことは無いらしい。俺は太陽のようなもので、Akatoshの太陽の輝きが闇を振り払い、皇帝に希望をもたらすからこそ安らかなんだそうな。過大評価過ぎるよ。人の運命にあれこれ口出ししやがって、本当に一発殴りたくなってきたな。
「死ぬことが怖くないの? Bladesの人だって悲観的なことにアレな顔じゃないか」
「勝利とは無縁だったが、十分に生きた。魂となり平安の時を過ごすのも悪くない。それに、血肉に過ぎない人間は死の来るときを知ることが出来ず、それに比べれば自分の死を予見できた私は祝福されている。・・・予期された宿命に直面し、そして私は死ぬのだ」
「勝利とは無縁だって? よく言うが・・・でも、所でどこに向かってるんだ?」
「私は自分の墓へ向かっている。ハッ、私を呼ぶどんな旋律よりも忌々しい言葉だ」
いや、それを聞きたいんじゃなくて・・・(´д`;)
Bladesの人も困ってるじゃないかよ! 何かこの人微妙に話が通じないな(汗)
「お前は暫くの間、私の後についてくるだろうが、その後は道を分かたねばならない」
うーん、と唸ってたら、松明を持てとBladesのBaurusさんに言われた。まあ、ぼけっとしてたら死ぬし、仕方がない。道すがら話を聞いてみたら、Bladesってのは皇帝直属のボディーガードのようなもので、けれど上手くいってないことを素直に認めている。けれど、絶対脱出させると意気込んでいる・・・ここで死ぬって皇帝自らが言ってても。
ま、俺は囚人ってこともあり、Bladesの人が信用してるかは怪しい。Glenroyさんなんかは邪魔をしたら切り殺すと目で言ってきた。
しかし、ここでアクシンデントが発生した。本来予定されていた通路に通じる扉が裏側から封鎖されていて、誘うように開けられていた別の通路に入った途端、暗殺者の襲撃を受けた。
と、二人になった途端皇帝が俺の手にでっかい宝石のついたアミュレットを握らせた。俺がキョドっていると、強い調子で破壊の王子に俺が立ち向かわなければならないこと、アミュレットを渡してはいけないこと、アミュレットを最後の息子のことを知っているJauffreに渡すこと、
そして、Oblivionの顎(あぎと)を閉じるように言い渡した。
訳が分からず放心していると、突然Urielさんの後ろの壁が開いて、暗殺者が振り向く暇も与えずに心臓を刺した。
暗殺者を返り討ちにしたのはいいんだけど、肝心の皇帝さんは死んでしまった。Baurusさんが駆けつけてきてくれたけど、もう遅い。Glenroyさんは・・・死んでしまったようだ。
Baurusさんはあれだけ陛下をお守りするぞー! と息巻いていただけに、ひどく落ち込んでいる。自分の責任だとまで言ったくらいだ。本当は、俺の責任じゃないかと思うが・・・。と、BaurusさんはUrielさんがアミュレットを持っていないのを不信がって尋ねてきた。
「これってそんなに重要なの? 皇帝さんも重要なものみたいなこと言ってたけど」
「不思議だ。皇帝はお前の中に何かを見ていた。お前を信頼していた」
「そうだな。殺してもおかしくなかった」
「神は・・・奴等はSeptim一族にまとわりつくDragonの血族だそうだ。とても人には見えない。王のアミュレットは皇帝の神聖なる象徴だ。ほとんどの者がRed Dragonの冠だと思っているが、本当は宝石のことだ。真の後継者のみ身につけることが出来るという」
え、と思ってつけてみたが、ちゃんと頭に通したのにするりと抜けてしまった。本当らしい。この世には人の力をやすやすと超えた強力な品々が色々存在するけど、これもその一つのようだ。
「皇帝は何か理由があってお前に託したのだろう。その理由を話していたか?」
「Jauffreに持っていけって。別の子供がいるらしいよ」
「聞いたことが無い。だが、Jauffreなら知っているだろう。彼は我が部隊の最高責任者なのだ。だが、簡単に会えると思わないほうがいい。彼はChorrolに近いWeynon Prioryで僧侶として静かに暮らしている」
「どうやって行けば?」
「まず、ここを脱出する。あの扉を抜けると地下水道の入り口に出るから、鍵のかかった門を出ること。それが帝都の外に出る秘密の通路だ。あるいは既に秘密でなかったのかもしれん」
Baurusさんが鍵を渡してくれたので、下水道について聞いてみた。ネズミやゴブリンがいるけど、多分大丈夫だと言ってくれる。急なことで、あまりの状況に自分もBaurusさんも驚きっぱなしだけど、最初は疑ってたBaurusさんも自分のことを信じてくれている。ちゃんと渡して、渡せば・・・あとはJauffreさんがなんとかするのかな。
「Baurusさんはこれからどうする?」
「皇帝の遺体を守って、お前を追う者がいないか確認する。Talosのご加護があらんことを」
TalosはSeptim家の初代Tiber Septimのことだ。俺は主にMelphara様とAzura様を敬ってるのであまり帝国の神のことは信じてないけど、好意は素直に受け取ってRenault隊長の刀を渡した。Bladesの本部みたいな場所の名誉あるところに納めるそうだ。Grenroyさんのもそうするんだろう。
ちょっと話も聞いてみたけど、Bladesは所謂隠密で、格好は武士だがやってることは忍者、というわけだ。僧侶が最高司令官っつーのも、そんなわけだな。件の修道院も、Bladesの拠点の一つなんだろう。それに、個人的な忠誠で仕えてるみたいだ。
「Talosは皇帝の御霊をAetheriusへ導いてくださるだろう。安らかにお眠りください、我が王よ」
「ああ、Baurusさんも死なないでな」
Urielさんの冥福を祈ると、暗殺者が出てきた穴から通路に出た。こちらから扉を閉じていたみたいだ。遺跡部から下水に抜けた。ネズミやゴブリンがいたけど、あっさりKOして出口を目指した。
外に出ると、眩しいほどの青空が輝いている。久しぶりの新鮮な空気だ。それに、澄んだ水。
あまりに素晴らしすぎて、ついつい使命のことなど忘れてしまいそうなほど。
俺は少しの間、青空をぼんやり見つめて泳ぎ回った。
進む
(2007.12.30)