帝都、そして出発。


 Baurusさんは急いで欲しいみたいだが、何にせよ路銀が必要だ。要らない武器や防具もあるのでこれを手放さなければならない。幸い、帝都刑務所にぶち込まれたお陰で帝都は目の前。身体を洗ってすっきりしたので、行ってみることにした。ガードさんが市民と言ってくれてフツーに接してくれるのでちょっぴり感動する。


 帝都は大きいな。商いをするところだけで一区画でーんとあるんだぜ。
 あれこれ売り払ってみたけれど、もう少しあったほうがいいかもしれないなー。都合のいいことに、ここには闘技場があるらしい。賭けをして儲けるか。剣闘士になって命をやり取りするか。2つの稼ぎ方がある。


 俺は後者をとった。下手して有り金を巻き上げられるのは勘弁だ。それに、地下での戦いで以前の勘が戻ってきている。
 中に入ってみると、流石に男も女もムサイ連中が多い。血と汗の臭いや金臭さが壁や天井にまで染み付いている。


 闘技場を仕切っているOwynという老人は、いかにも短気なRedguardだった。弱者に興味も無ければ、容赦も無い。普通に話していても罵声が飛んでくる。流石、殺しを管理しているだけはある。荒くれが多いから、優しくてはやってけないんだよな。まあ、俺だって色々やってきたし、こういうのは諸手を上げて歓迎しないまでも、一つの手段としてあってもいいかな、なんて認める。それに帝都の市民も闘技場の死合いが大好きだ。
 家族は居ないか、と聞かれたが、俺は親の顔も知らないし、ここに親しい人がいるわけでもない。Baurusさんくらいか。


 アリーナはピットドックという階級から始まる。闘犬っつーわけだ。で、ルールは簡単。死んだ相手からの略奪は禁止。定められた鎧(防御力ないけどな!)を着ることになる。他は武器魔法、何でもアリ。相手が死ねば自分の勝ち。一応召還魔法使えるんだが、楽になりすぎるしアリーナではやめようと思う。え? 鎧を見せてくれ? 男の太ももなんか見ても楽しくないと思うぜ。つまり、露出が高い衣装だ。パンチラもどきなんか見ても、百年の萌えも萎えるぜ。


 さて、半日費やしてまとまった路銀が手に入ったので、出発することにした。まとまった金が入れば去る剣闘士も多いから、Owynも特に俺のことを気にかけない。ありがたいこって。


 途中、西に伸びている大きな橋を渡りきったところにあるワインが趣味な人の宿屋の近くの小さな家で、おじいさんの漁の手伝いを頼まれた。鱗が錬金術の特別な材料になるそうで、錬金術師に依頼を受けて漁をしていたんだけどこれが凶暴な魚で、足に再起不能の怪我を負ったそうだ。自分はArgonianだから水中で魚を三枚に下ろすくらい簡単だが、正直今は急いでいるので申し訳ないながら後にすることにした。おじいさんもまだ時間はあるから、と言ってくれたのでまずはJauffreにアミュレットを届けに行くことを優先する。漁の最中に落としたらとんでもないし。


 道中、野生動物や追いはぎに襲われたりしたが、夜には辿り付く事が出来た。しかし、すっかり真っ暗。Jauffreに会うことは難しいとBaurusさんも言ってたし、非常識な時間にお邪魔するのも気が引ける。幸い、近くにChorrolの街があるのでそこで一泊して翌日出直すことにした。宿屋は街に入ってすぐので、清潔なベッドが10G。ワインおばさんの宿でもちょっと休んだけど、ふかふかしたところで寝られてとても嬉しかった。
 翌日、荷物を鍛冶屋さんで整頓して修道院に出掛けた。見かけは普通の修道院で、Bladesの拠点だなんて注意してみても分からない。まあ、バレちゃ意味が無いしな。


 誰だ会うのが難しいとか言った奴は・・・。
 入るのを咎められたわけでもなく、僧侶の一人に尋ねるとあっさりJauffreさんの場所を教えてくれた。二階で本を読んでるこの人がJauffreだそうだ。俺はJauffreさんですね、と話しかけると、懐から赤く輝くアミュレットを差し出した。
 案の定Jauffreさんはひったくるようにアミュレットを取ると、非常に驚いた顔でアミュレットと俺の顔を交互に見つめている。皇帝の死は丸一日の間に国中に広まったらしく、ここにも届いている。暗殺者の仲間にされてはたまらんので、俺は皇帝と最後に話したこと(後継者のこととか)を伝えると、あっさり信じてくれた。

「信じてくれてありがと。皇帝が信じてくれなかったらBaurusさんたちに刺身にされてたところだし。で、本題に入るけど、破壊の王子って誰?」
「皇帝が口にした破壊の君主とは、Mehrunes Dagonのこと。おぞましいOblivionにいる王の中の一人だ」

 王子――Daedra Loadは他にもいる。Tamriel各地で崇拝されているものだ。Dagonの他にも色々な性格の色々な姿の君主がいる。男、女、それ以外。人間に近い姿をした存在も要れば、なんだこりゃな姿の存在もいる。Daedra Loadはお高いNineと違って、信徒に語りかけたり人間では作れないレベルの工芸品とかくれたりなど、意外に干渉好きだったりもするから、日陰ではあるけど信者も多い。帝国の国教はNineを崇拝するものだけど、王子たちの中には人間に優しい神もいるので基本的に公共に迷惑をかけない限りで宗教の自由は許されている。Dagonは破壊混沌大好きイヤッハーだからアレだが。あー、じゃあ暗殺者ってDagonの信者か。あんな迷惑かけまくりんぐな性格なので大方迫害されて地下組織でも作ったんだろうな。何度も半殺しにされて撃退されてる割に懲りないアホだ。脳みそ筋肉で出来てるんとちゃうん?

「Oblivionの顎(あぎと)を閉じよっていわれたけど?」
「それは、Urielが感じていたOblivionの脅威を暗示しているのではないだろうか。しかし、生ある者の世界は魔法の障壁でOblivionの世界から守られている」

 その要がアミュレットか。初代皇帝、聖Alessia。彼女とAkatoshは、何千年も前、人間を支配していた古エルフを倒すために契約を交わした。このアミュレットだけでは効力は発揮されず、即位の儀、帝都の寺院でアミュレットによりDragonfireを灯すことで初めて障壁を維持する事が出来るそうな。アミュレットと皇帝がセットで維持される壁。Urielさんの息子さんが殺されたのも、Urielさんが最後に秘匿された息子のことを言い残したのも、これがためだったのか・・・嫌なシステムだな。さすがハイソなNine。まあ、皇家が途絶えたことは何度かあって、やっぱりDagonが侵攻してきたみたいなんだが、当時はたまたまTribunalの現人神Vivecみたいな追い返す存在がいて半殺しにしてOblivionに追い返していたりする。なんで殺さないのって話だが、Daedraは不死だから、滅びる事が無い。だから復活してきちゃうんだな。でも、もうTribunalの神々はいない。Dagonがやってきても、Daedraをあしらえる存在がいないのだ。

「そういや秘密の子供がいるって話だけど」
「彼の存在は私を含め数人しか知らない。何年も前に、私はBladesとしてUrielの用心棒の長を務めていた。ある夜、陛下は私を居室へお呼びになった。ひとりの赤ん坊が籠の中で眠っていた。そして陛下は赤ん坊を安全な場所へ運ぶように私に申し付けたのだ」

 どうでもいいがJauffreさんは時折、皇帝を呼び捨てにしている。かなり親しい関係のようだな。主従関係にあったが、同時に友情も結んでいたらしい。そんなJauffreだんだからこそ赤ん坊・・・隠し子を頼んだんだな。・・・身分違いの恋か何かだろう。皇帝に近づけて身分違いというと、政敵の娘や妻って線もアリだが、世話をするメイドや衛兵、もしくはBlades・・・母の話はあの人しなかったから、お亡くなりになってしまったんだろう。まあ、Jauffreさんは何も詮索せず、Urielさんも何も話さなかった。けれど、人の親の情はあり、子供の成長は気にかけていたらしい。

「それで、まさか俺に・・・」
「そう、今Bladesが動いては敵に大声で知らせるようなものだ。連れてくるだけでいいから」
「まあ、そう言われると・・・彼の名前は? どこで会えるの?」
「彼の名はMartin。彼はKvatchにあるAkatoshの教会で僧侶をしている。Kvatchはここから南にある」

 俺は頼まれるとイヤとは言えない性格である。得したこともいっぱいあったが、損したことも多い・・・。けれどまあ、これくらい大丈夫だろう、と、この時俺は思っていた。Mehrunes Dagonを何とかするのはいいことだし、Martinとかいう人を連れてこれば、お駄賃ももらえるだろうし、あとはのんびり帝国観光でもして、Morrowindに帰って、のんびり暮らしたいな・・・錬金術があるから薬作ればお金はなんとかなるしEnoさんにも長いこと会ってないし怒られるかな・・・なんて考えていた。

 運命がそんな優しい人生を許してくれなかったことを思い知るのは、随分先のことになる。

 Jauffreさんは気前よく、装備一式を与えてくれた。必要なものだけ取ることにして、一階に下りる。僧侶さんたちもBladesの任務のことだと思って、援助してくれた。何と、馬を貸してくれるそうだ。馬は高級品で、下手なぼろ家より高くつく場合さえある。ありがとう!! と精一杯感謝すると、早速厩に行ってみた。


 早くもないしそんなに体力もないけど、馬というだけで十分だ。模様が可愛いから許す。


 早速手綱を握ってKvatchへGO!
 ・・・したいところだったが、何分相手は庶子とはいえ皇帝の息子だ、それに僧侶。いかにも堅そうな職業に就いている。一方こちらは住所不定無職。あまりにあんまりなので、一応身分を作っておくことにした。この国でメンバー募集中なのはメイジギルドと戦士ギルド。ギルドは要するに職業の互助会なんだが、メイジギルドの方がより公的なので、そっちの方に入っておく。俺も武道派だけど魔法使いであることだし。しかしまあ、この国は落ち着いているのかメンバー募集中なところが少ないな。
 登録を済ませて、今度こそKvatchへ。森の中を強行突破すると野生動物だの魔物だのに襲われるので、衛兵も巡回している街道を走ることにする。

 街道沿いに行くと、Skingradの街についた。適当に買い物しようかなんて店に入ると、素敵なローブとフードが売っていた。今の俺には少し高かったが、有り金をはたいて買うことにした。僧侶相手に金臭い鎧じゃ信用されないかもしれないし(言い訳)


 うん、自分の黒と赤の身体の色にはよくマッチしてるぜ!
 俺は買い物を済ませると、意気揚々とKvatchへ馬を走らせた。


 しかし、これがとんでもないことになったのは、少し先の話である。


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(2007.12.30)