三人の情報提供者・前編


「Vivecに行って話を聞け?」
「そう。三人だ。詳しくはこれに書いておいた。それに、入用になるだろうから先立つものも持っておけ」

 ぷかぷかとスクーマをふかしながら、Caiusは頷いた。
 NerevarineとSixth Houseについての情報を収集したCaiusは、これ以上、Balmoraで情報収集は望めないと判断したのか、金と指令書を渡して、Vvardenfell最大の都市、Vivecに行けと命令した。情報収集対象は盗賊ギルドのKhajiit、Morag TongのArgonian、そしてTempleの尼僧。これまでと違い、アングラ、そしてハイソな世界の住人にも接触するようにと申し付けてきた。戦士ギルドとメイジギルドはその点を思えば、帝国系とはいえ団体としては普通な方だろう。話を聞きにくそうな人に会いに行けということは、ちょっとは俺のことを使える奴だと思ってくれたのだろうか。

「ところで、顔色が悪そうだが」
「そう? そういえば、変な夢を見たなあ」
「それは心配だな。Yui-Li。私に馬鹿なことをしてくれるなよ? アドバイスをすればだな。Morrowindでは、変な夢を見たと言うと、Templeは頭がおかしくなったと判断する。そして、君を監禁したがる。変な夢を見て、何か意味があるかもしれないと考えると、Templeは君を予言者の類か邪悪な魔術師だと思うだろうね。やっぱり君を監禁したがる。だから、アドバイスするに、口を閉じておくに越したことは無い」
「怖!」
「まあ、たまには変な夢も見るだろうさ。それよりも、任務をしっかりこなしておくれ」
「はいはい」


 時間の掛かるSilt Striderに頼るよりもメイジギルドの転送サービスを使ったほうが早くて安いので、早速Vivecのメイジギルドに飛ぶ。Vivecに来たのは二度目だが、前回は外に出ることなくBalmoraに戻ったので一体どんなところなのか楽しみだ。


「うわー」

 外へ出る大扉を開けると、そこには沢山の居住区が水上に並んでいた。Balmoraも大きい街だと思うのだが、それよりも更にVivecは大きい。下を見ると、小船が行きかっているので、各区画の移動にはこれを使うらしい。それくらいの大都市というわけだ。
 住居は全て中に納まっているので、外から見た感じではちょっと閉鎖的な感じもしなくはない、というのが第一印象。実際、外国人であるか否やとか、Houseとかによって居住区が分かれているようである。これだけ大きいと、話を聞くにも一日以上かかるなんてことが有り得る。用事を頼まれるかもしれないし。まずは宿を取って、それから人を探したほうがいいだろう。


 中はAkatoshのダイヤの旗がかけられている。ここが帝国系であるという証だ。
 一応話は聞いてきたし日記にもメモってきたんだが、命令書を開封して、内容に目を通してみる。

Mission to Vivec -- from Caius

(以下の内容は、Vivec市へ君が派遣される指令を纏めておくためにCaius Cosadesが準備したメモである)

 Vivecに着いたら、これら三人の人物を探し、Nerevarine教団とSixth House教団について知っていることを話してもらうようにすること。三人は私に借りがあるので、協力してくれるだろう。

 AddhiranirrはKhajiitで、盗賊ギルドのOperativeである。彼女を探し出すのは簡単ではない。St. Olmsの人々からは嫌がられている。君の言動には注意すること。幾ばくかの敬意、幾ばくかのコイン、幾ばくかの用事をこなせば、彼女と接触できるだろう。

 Huleeyaは、Argonianで、Morag Tongに所属する暗殺者である。Foreign QuarterのBlack Shalk Cornerclubに行って探すこと。Vivec市周辺では、本と古物の愛好者として知られている。

 Mehra MiloはHall of WisdomとJusticeの図書館に勤めているTempleの尼僧である。WisdomとJusticeは、市民にも開かれている。彼女を見つけるには少し歩き回る必要があるだろう。Mehra Miloについて、WisdomとJusticeでは誰にも尋ねないこと。彼女が外国人と話をしていることを知られて、注意を引きたくは無い。Mehra Miloは個人的な友人で、トラブルには巻き込みたくない。

 これらの人々と話して、入手できる限りの情報を得た時に戻ってきて、私に報告すること。

 三人ともワケありげだな。
 盗賊ギルドとMorag Tongはともかく、Dunmer系とはいえ、Templeの僧侶が外国人と話すくらいでトラブルって・・・Mehraって人は何か疑われるようなことでもやってるんだろうか。
 ま、考えても仕方がないし、所在の分かる人からやってくかな。一番近いのが、Morag TongのHuleeya、か。
 のんびり道行く人から話を聞いてみたが、どうも最近物騒らしい。喉を掻ききられて七人も犠牲者が出て、Ordinatorも外部の協力者を募集中とか。怖いなあ。でも、Ordinatorって要するに体制側の官憲だから、協力したらいいものくれるかも。危険だけど用が済んだらやってみるかな。


 Black Shalkは簡単に見つかった。暗殺者が出入りしているくらいだからもっと見つけにくくて秘密クラブとかそんな趣でもあるのかと思ったら、普通の居酒屋兼宿屋である。そういやHuleeyaも暗殺者なのに名前が知られているよなあ。Morag Tongってそういう・・・何ていうの? フランクな? 組織なのかも。支部だって街中の一等地に堂々と建ってるし。それにしても、何だかDunmerがビシバシ睨んでくるのが気になるが。早速、Nerevarine教団とかSixth House教団について聞いてみたが、取り込み中のようだった。

「ああ、よく来てくれました。歓迎いたしますよ、Yui-Liさん。私は友達の本屋に行きたいんです。でもうだうだ言ってくる奴に絡まれて、通してもらえないんです。どいてくれるようにお願いしたんですけれど、この人たちは私の種族が嫌いなようで。血を見ることになるんじゃないかと心配ですね。この人たちと話してもらえたら・・・でも気をつけて下さいね・・・お願いします」
「ええー、大丈夫かな。友達の本屋に行けば安全?」
「友達のJobasaはKhajiitで、本屋を開いてます。Jobasa's Rare Booksっていう。私を伴って一緒に行こうと言ってくれたら、お話いたしますよ。けれども行く前に、私たちを放っておいて欲しいとバカどもにお願いできませんでしょうか。さもないと、出て行こうとした瞬間に襲ってこやしないかと心配で心配で」
「バカって?」
「種族で判断したがる悪党にとって、自由にしているArgonianが目に入るってことはムカツクらしいです。彼らを斬ってもMorag Tongの名に傷がついてしまいますし。友達のSaralis Golmisのクラブで乱闘騒ぎになってトラブルに巻き込むというのもちょっと。でも友達の本屋に行かねばなりませんし、そこなら落ち着いて話せます。ちょっとお金を渡せば行かせてくれるかもしれませんね。流血沙汰になるかもしれないなんてことははイヤです」
「Morag Tongって暗殺組織じゃないんですか? だったらこんな奴ら」

 言いかけた俺の言葉を、Huleeyaは遮った。

「私はメンバーでは下っ端に過ぎません。でも貧民や一般市民はこの国では戦争に巻き込まれることは無いのです。西の戦争はそうはいきませんが。House WarのしきたりやMorag Tongのおかげでね。私は確かにArgonianですが、敬意と共に遇してくれます。もしその気があれば、『The Black Glove』の写しを見つけてみて下さい。でも、どうか・・・Dark Brotherhoodとは間違えないように! Dark Brotherhoodは昔からのDunmerの伝統に背きました。奴等は金で名誉を売り渡し、殺人鬼どもを囲っている組織なんです」
「すいません」
「いえ、わかっていただければ」

 Huleeyaは暗殺者にしては驚くほど穏やかで知的な物腰だった。そして、暴力を回避しようとさえしている。暴力で解決することを俺は言ったが、自分はDark Brotherhoodとは違うと、この穏やかな人は声を荒げた。殺人鬼ではないと、強く。なるほど、いくらブラックな組織とはいえ節度は守る。無闇に人を傷つけない。これがMorag TongがMorrowindの陽の当たる場所に受け入れられている所以か。Balmoraで話を聞いた時、「世のため人のため、そしてHouse Warのため」と暗殺者のお姉さんは言った。なるべく市民に犠牲を出さず、最終手段としての暴力で物事を解決するのがMorag Tongなんだろう。
 土着系の組織だが、白い目で見られがちなArgonianでさえ組織の一員であるならばきちんと人々は接してくれる。その事実に、少し、興味が湧いて、ふと、Ranis師の命令を思い出した。
 どんなギルドに入っても、ああいう命令は下されるんだろう。それならば、いっそ・・・。

「Yui-Liさん?」

 心配げなHuleeyaの声で、俺は我に返った。そういやそうだった。こんな剣呑な場所にいつまでもいるわけにはいかない。俺は意を決して、近くにいたDunmerに話しかけた。


「手前が話をつけようってか? いや、俺は汚いトカゲと話をしてるんだ。消えな」
「トカゲ・・・」
「手前は汚いトカゲのお相手か何かか? 手前のオトモダチに口付けでもくれてやりたいのか?」
「えーと、これで通してくれないでしょうか。山吹色のお菓子にございます

 そういいつつさっとコインをしのばせる。

「あーもう、わかったわかった。いつまででもいていいぜ。絡まないからよ」

 うむ。拝金教万歳。


 これで大丈夫みたいだが、いかんせん落ち着ける状況ではないのでさっさと本屋に連れて行く。宿でも取ろうと思ったんだが、一番過ごしやすそうな外国人居住区がこれだと、ちょっとなあ。ギルドの部屋でも借りた方がいいかもしれない。
 何はともあれ、本屋は飲み屋の向かい側なので、迷うことも無くすぐに着いた。

「どうもありがとう。イヤな場所から解放されて良かった。Caiusの所に戻って報告できるようなNerevarine教団のことについて教えましょう。でもSixth House教団のことについてはちょっと。でも、知っている限りのことは話しますよ」
「では、Nerevarine教団について」
「Nerevarine教団を理解するには、Ashlanderの歴史を理解しなくてはなりません。NerevarはDunmerにとってはGreat Houseの人を指しますが、Ashlanderにとっては様々な意味があります。また、Nerevarine教団を知るために、Nerevarineの迫害、偽のIncarnateについても知っておかなければならないでしょう。遊牧民であるAshlanderと定住するGreat HouseのDunmerとの間には、その中心点で矛盾があります。さあ、ここにCaiusへの概要を書き留めました。でも何でも聞いて下さい。詳細にお答えしましょう」
「うーん、Ashlanderの歴史って?」
「第一紀には、遊牧するAshlanderと定住Dunmerのクランは上手くやっていました。けれどもFirst Councilが出来て、Great Houseが形成されるようになると、Ashlanderは段々、痩せた土地に追いやられて、多くが敵意を抱くようになりました。今では、遊牧する部族たちはNerevarが再臨して、彼らが昔持っていた権利と、昔の宗教が復活すると言う予言の到来を待ち望んでいます」
「Ashlanderは誰かが何かをしてくれるのを待っている・・・」
「AshlanderはDunmerのHouseを敵視しています。ある者は穏やかに、また、ある者は古代の祖霊信仰を忘れてTribunalへと乗り換えたとして。また、Ashlanderはよそ者も敵視しています。土地を奪い、盗んで、人民を隷属させるためにやってきたとして。生まれ変わったNerevarが外国の侵略者を駆逐して、Tribunalへの歪んだ信仰を打ち壊して純粋な昔の生活と遊牧民の信仰を復活させるとして、Ashlanderの間ではとてもよく知られている英雄です」
「AshlanderはGreat Houseを敵視している、と」
「現代のMorrowindでは、五つのGreat Houseが統治しています。House Hlaalu、House Redoran、House Telvanni、House Indoril、House Dresですね。Great Houseの文化は、その元となった古代のDunmerの部族のクランとは異なる部分もあり、その後他の西側の文明から来た帝国の影響も一部受けています。Great Houseの文化はMorrowindに生まれ着いたDunmer土着の文化です。他の土着の文化としては、帝国の影響をほとんど受けていない遊牧する未開の文化である、Ashlanderの文化があります」
「Nerevarineの迫害とは?」
「TempleはNerevarineの予言を異端だと宣言していますし、Templeは、帝国の法に反しない限りで異端派を投獄、追放しています。しかし、帝国はNerevarine教団の迫害について関与しない方針なので、教団は帝国に反感を抱いています。AshlanderはTemple、特にOrdinatorを敵視しています。Nerevarine教団の教徒に無慈悲な仕打ちをしているのでね」
「偽のIncarnateが出たんですか?」
「過去には、何人かがNerevarの再来だと宣言したことがあります。一番最近ですと、三十年前のPeakstarがその伝説通りだと忘れられた部族の間で知られています。Templeはこれらの偽のIncarnateたちが予言が偽者だと言う証拠だと言っています。偽のIncarnateは失敗して消えてしまいましたから。けれども、神秘のNerevarine教団はその否定的事実によって折れることはせず、「偽のIncarnate」が出現したことを、Nerevarが生まれ変わってくることが一部証明されたものだとして、誉れ高いことだと称えています」
「Sixth House教団についてはご存じないと」
「その手のものは聞いたことがありません。House DagothがSixth Houseなんですが、War of the First Councilで他のGreat Houseに負けて、反逆の罪で滅ぼされたことは聞いています。けれども誰かがそれを礼拝しているなんてことは一度も聞いたことがありません。Dagoth Urが、昔のHouse Dagothの長であり、Tribunalの教義では魔人とされています。でも、Sixth Houseと同様に、彼を礼拝しているなんて聞いたことがないですよ」
「そうですか・・・色々教えていただいてありがとうございます」
「いえいえ」

 ふんふんと、自分の日記にもメモしながら、Caiusへのメモも開いてみる。

Notes from Huleeya

(以下に記されていることは、Caius宛てのものである)

 AshlanderとNerevarine教団の歴史
 第一紀の未開のDunmerの文明では、定住のDunmerの一族(Great Houseたち)と、遊牧するDunmerの部族(Ashlanderのような)は、人数と富はほとんど平等であった。Grand Councilの文化的な秩序下で、Templeが中心的権限を掌握したことで、経済と軍事的な力は遊牧するDunmerのそれを追い越した。遊牧するDunmerはVvardenfellの最も貧しく、最も敵のいる地域へと追いやられていった。Ashlanderは、生まれ変わったNerevarが再来すること、遊牧する部族が定住するDunmerと平等だった時代である、Nerevarが支配する夢のような黄金期、そして、かつてDunmerの人々の大部分が、Tribunal Templeの独裁的な神政に乗り換えることで捨ててしまった伝統的な祖先崇拝の再興を待ち望んでいる。

 AshlanderにとってのNerevar

 これは、あるAshlanderが話してくれたNerevarの物語である。

 大昔、古エルフと西側からの夥しい外国人が、Dunmerの国を奪いにやってきた。その時、NerevarはHouseの人民の偉大な王であり、戦争の指導者だった。しかし、彼は、我々の一人として、古代の祖霊と部族の法を褒め称えた。それで、Nerevarが先祖の偉大な指環である、One-Clan-Under-Moon-and-Starに、祖霊の道と、国の権益を守ると誓った時、全ての部族がRed Mountainでの大戦を行うために、Houseの人民に加わった。多くのDunmer、TribesmanとHousemanがRed Mountainで死んだが、Dwemerは破られ、彼らの凶悪な魔法は破壊され、外国人は国から駆逐された。しかし、この大きな勝利を収めると、Great Houseの力に飢えた王たちは、秘密裏にNerevarを裏切り、自分たちを神として宣言し、部族の民に誓ったNerevarの約束を反故にした。しかし、Nerevarは彼の指環を身に着けて再来し、偽神を追い出して指環の力において、部族に交わした約束を果たすと言われている。そして、祖霊を守って、国から外国人を駆逐する。

 Nerevarine教団の迫害

 Tribunal Templeは、Nerevarine教団の神秘主義と予言を、野卑な迷信と考えてる。Ashlander Ancestor教団とNerevarine教団は、特に、支配的なDunmerの礼拝を、憎悪を込めて、常に非難し、Tribunalの不自然な長命が、禁忌を犯した魔法か、死霊術を扱っている証だと考証した。権威主義的で、我慢が利かないようなTempleの聖職者たちも、Ashlanderの祖先崇拝の習慣を大目に見る傾向はあったが、Nerevarineを主張する者を、死や投獄することでいつも脅かしてきた。そして、常ならば色々な教団の崇拝に寛容である、帝国の統治委員会も、皇帝と帝国に敵対的な教団を非合法化して、その手の教団のメンバーを、投獄や死で脅している。Nerevarine教団のような、非合法の教団に対処する場合、Ordinatorは自由な権限を与えられる。

 Peakstarと、過去に出現した、他のIncarnate

 過去には、何人かが、Nerevarの予言どおりに再来したと主張した。一番最近の人物はPeakstarとして知られ、三十年以上前に忘れられた部族の間に現れて消えた、謎に包まれた人物であると言われている。Templeはこれらの偽のIncarnateがNerevarineの予言を否定するものだとしている。奇妙な、そして非論理的なことに、Ashlanderは偽の宣言をしたということを苦くも認めており、彼らを「失敗したIncarnateたち」と呼んでいる。しかし、偽者を、否定するよりは予言が生きている証拠だと見なしている。Nerevarineたちは、失敗したIncaenateの魂が宿る、Incarnateの洞窟にいるとされる。Nerevarine教団はよくわからない教団であり、矛盾によって折れず、むしろ輝いている。

 うーん。
 Nerevarine教団は、NerevarineがTempleの神と、絶賛占領中の帝国を追い出すと言われているから、帝国とTemple双方から迫害されてるらしい。それにしても、Templeの神が禁忌的な魔術や死霊術で寿命を引き伸ばしてるんじゃないかって考えられてたりするのか。神が元はGreat Houseの王だとすると、Dunmerってことになるんだろうけれども。Merって病気や怪我をしない限りは結構長く生きていられるらしいけど、千年単位も生きているとなると、そういうMerは珍しいよなあ。そりゃ疑いの一つや二つも出るよな。
 でも、何で帝国が、Nerevarine教団とSixth House教団について調べたがるんだろう。反帝国団体だから、Tribunalと一緒に潰したいのかなー。


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(2008.5.23)