三人の情報提供者・中編


 北端の外国人居住区から南端(の一区画手前)にあるTempleのHall of Wisdomに行くには、船が早い。市内の移動なので、船の料金もとてもリーズナブル。そう。Milo司祭を尋ねることにしたのだ。Addhairanirrって中々見つからないみたいだし、それならばまず所在の明らかな人から見つけたほうが良い。


「うわー」

 ぷかぷかとお空に浮かんでいる岩を見りゃ誰だって俺と同じことを言うはず。
 なんでも、あれはMinisty of Truthといって、Ordinatorの詰め所と、監獄も兼ねているらしい。空中浮遊要塞ってヤツである。空中浮遊要塞。カッコイイ響きだ。(馬鹿)


 流石、Templeの大寺院がある場所だけあって豪華。巨大な石像も建立されている。へえー、このおっさんがVivecなんだ。


 折角ここまで来たので、観光も兼ねて寺院に寄ってみる。Nerevarが信仰されてるってのは本当で、石碑にその姿が刻まれている。俺には笠を被って、口元の高さまで外套か何かを着込んでいる人の姿に見えるんだが。

 寺院の内部でMilo司祭のことを訊かないようにと釘を刺されているし、まあいつもいる場所は特定しているから、と、寺院を歩き回っていたら図書館に出たので、それらしい人を探してみると早速見つかった。


「はじめまして。えーと、Yui-Liって言うんですけれど、Caiusが俺を送ったんですが、あなたがMehra Milo司祭ですか?」

 しかし、Milo司祭はどうも様子がおかしく、辺りを気にしながら俺に囁きかけた。

「ええ、私がMehra Milo。Caiusが貴方を遣したのね? ここでは話せないから、図書館の奥のほうまでついてきて」

 なんだろう、とおもいつつ人気の無いところまでついていくと、司祭は口を開いた。

「いいでしょう。Sixth House教団のことは存じませんが、Nerevarine教団についてなら存じています。TempleはNerevarを聖人である英雄として崇拝していますが、彼が生まれ変わってくるという予言は邪悪な異端信仰であるとして、処罰の対象です。Nerevarine教団はTribunalが偽神であり、それ故にTempleはNerevarine教団を迫害していると主張しています。反体制派司祭と呼ばれる派閥はTempleのNerevarineの予言についての教理を検討しています。禁書『Progress of Truth』には彼らの信条が書かれています。『Progress of Truth』をCaius Cosadesに一冊持っていきなさい。それがNerevarine教団についてあの人が知りたがっていることを教えてくれるでしょう」
「Nerevarine教団についてはそれを読めば良い、と」
「言ったように、反体制は司祭は『Progress of Truth』という本を著しました。Nerevarine教団への考えの、彼らの視点が分かるでしょう。Nerevarineの迫害については、Ashlanderの教団は――Templeでは野蛮な迷信だと。Nerevarineたちは、Tribunalは偽神と言っています。どうしてTempleは彼らの撲滅に力を費やしているのか私には全く理解できません。信心深い方をこのような迫害で揺さぶるべきではないでしょうし、Ashlanderは、文明化されていない無知な者に過ぎないだけと思うのですが。しかし、Templeは帝国に従っていますし、Dunmerたちの間では宗教心が薄れつつあります。Templeの軍事派は異端信仰や野蛮人を弾圧すべきとの論調で激しく膨れ上がっているようです」

 つまり、右傾化した派閥が、表立っては外国人を攻撃できないから、Nerevarine教団やAshlanderに矛先を向けて、信仰が薄れていることへの危機感を回避しようかと図ってるってことかなあ。うーん。

「反体制派司祭ってどんな人たちなんですか?」
「反体制派司祭はTempleの主義を検討し、追放され、Templeに迫害されています。Ordinatorが異端派を逮捕、拘束し、帝国は傍観しています。『Progress of Truth』には、彼らの信念が列記されています。簡単に言えば、彼らはTribunalの潔白さや神性に異議を申し立てていますし、彼らの力や魔力が、神聖なものではなく、もしかしたらDagoth Urの力と同種のものではないかと推測しています。彼らはまた、Ordinatorの専制的権力を非難し、Templeの高僧の利己心や腐敗を告発しています。その本はTribunalの教義について反体制派司祭が異議を差し挟んでいるものです。Templeはその本の売買や所持を禁止していますので、見つけるのは難しいでしょう。ここに一冊ありますが、ここでは私はOrdinatorに監視されているのではと疑っています。より安全にいくには地元の書店を回ってみることです。何人かの本屋は、お金のためか信条によるものか、Templeの禁書禁止令を無視しています。」
「監視・・・って、大丈夫なんですか」
「Templeの政治的方針には興味ありません。しかし、『Progress of Truth』を読んだことで、迷うようになりました。私には友人がおりますが、かつては僧侶で、行方知れずになりました。よって、Ordinatorの注意を引くようになったのでしょうね。気をつけてはいますが、恐れています。私は貴方やCaiusのような諜報員ではありませんし、遅かれ早かれ、私も失踪するでしょう。まだここにはいられますが。Caiusの所に戻ったら、私は恐れていて、不慮の事態が起きたら事前に取り決めた『amaya』という暗号が書かれたメッセージを残すつもりだと伝えて下さい」
「わかりました。Nerevarineの予言について、何かご存知ですか」
「Ashlanderの人々は夢や幻視を予言として解釈するという謎に包まれた伝統を保っています。それら預言者たちは予言を詩として書き留めるか、消えてしまったり誤って伝承されてしまう場合もあります。しかし、反体制派司祭はNerevarineについての多くの昔の予言を収集していますし、彼らの大半は、それが正しいと信じています。それらを総称してThe Lost Prophecies of the Incarnateと呼んでいます。反体制派司祭の、ある宗教団体がこれを収集してこれら予言を研究しています。どうしてTempleが反体制派司祭を弾圧するか? Templeを非難することで教義の正当性を弱め、Dagoth Urの脅威から無防備にさせるから、だそうです。信仰はDagoth Urの虚言かに対抗しようと思う意思によって強まります。信仰はDagoth Urと戦ったTribunalの祝福されし力の糧になります。帝国のために、幾ばくかのDunmerがTempleから離れ、それがDagoth Urを強くしているとも、だからBlightの嵐や、感染した魔物が国を脅かしているのだとも。他には?」
「うーん、司祭になら言っても大丈夫だと思うんですけど、変な夢を見るようになって」
「私には何のことだか。恐らく貴方も理解できないでしょうけれど、Templeは悪夢は魂の病の兆しだとしています――その兆しは精神が悪しき衝動や危険な情動によって穢れているのだと。Ashlanderは夢を盲信していますが、全てに盲信的ですね。魂の病は『狂気』または『精神病』と帝国では言われています。魂の病の兆候は奇妙な夢、情動が制御できないこと、残忍になること、邪悪な行動に走ることです。狂気は、西側の人は病気ではないと思われています。もしかかったら、祝福やヒーラーで直せますので。魂の病はDagoth Urの呪いであり、信仰心を弱めるために、Dagoth Urが送る闇の夢で、睡眠中に攻撃してきます。意思の強い者は抵抗できますが、意思の弱いものはTempleのカウンセリングを受けるべきです」

 あー、それでCaiusが馬鹿なことをするんじゃないとか言ったわけか。

「じゃ、本職ですので、神様とかDagoth Urのこととか教えて下さい」
「そうですね、Vivecは勇気があり、誉れ高く、また、狡猾で斜めな性格という面も。それに、Load Vivecは熱烈な冒険家の美徳を象徴している稀有な例で、用心深い政治家でもあります。AlmalexiaはLoad Nereverの有徳の后で、後にはVivecと付き合い始めました。Sotha Silは非常に力のある魔術師で、First Councilで最も賢明な相談役でした。Dagoth UrはTribunalTemple教団の不倶戴天の邪悪な敵です。TempleはDunmerとMorrowindを脅かすDagoth Urとその眷属を押し止めています。Dagoth Urは、Ash Vampireと呼ばれる眷属や、気味の悪い魔物の軍勢にに囲まれ、Red Mountainの地下の燃え盛る洞窟の中にいます」
「ありがとうございます。もし危険が近づきましたら、絶対助けますので」

 そう言ってMilo司祭と別れ、さりげなく図書館を見回した。


 この書架の一番上の端にある大きな本が『Progress of Truth』だ。これを奪ってもいい。しかし、ただでさえArgonianの俺は目立ちすぎるので別の手法を考えるべきだろう。あの人に危害が及んでもいけないし。

 さて、何だか事態はTempleに深く食い込んできたので、やっぱここは内部潜入だろー、というわけでTempleの加入手続きも済ませてきた。なあに、いざとなったら抜けるだけだ。ヒラだから、まず巡礼しようね、と言われた。観光地巡りである。これはこれで楽しそうだ。


 うろうろしても怪しくない身分になったので、Hall of Justiceで殺人事件の手伝い募集中のアレに応募しようと尋ねてみた。自己紹介をして、話を聞いてみる。

「最近、Vivecで七人が殺害される事件が発生しているのだ。全ての犠牲者に共通しているのが、喉を掻き切られている点である。殆どの者は争った形跡が無いのも特徴だ。犠牲者のうち五人が外国人で、二人がOrdinatorだ。二人のOrdinatorは武装していて、勤務中だった。彼らの武器はベルトに挟まれたままだったな。犠牲者の遺体から奪われたものは何も無かった。公式には君を雇えんよ。Ordinatorだけが当局で勤務できることになっているからな。だが、もし君が殺人犯を見つけてその者を処刑すれば、個人的にだが、それなりのもので報いよう。君とは言質を取っていないことにしたい。現実の話だが、公的には受け入れられないのだよ。だが、興味があれば、だ、七人の犠牲者についてのことや目撃者の報告など、知っていることを教えることは出来る」

 ふむふむ、報酬は期待しても良いが、Ordinatorでない者を公式には雇うことが出来ないので、勝手に興味を持って、勝手に殺人犯に制裁を与えたことにしてくれ、というわけだ。まあ、メンボクとかタイメンってやつだな。いいものが貰えればそれで構わないので、わかりました、と頷くと、もっと詳しいことを教えてくれた。

「五人の外国人の犠牲者のうち、一週間以上Vvardenfellに滞在したものはいない。Foreign Quarterの回廊で発見されたのが二人、そこの水路で一人、Hlaaluの居住区に一人、Arenaの近くで浮いていたのが一人。全員武装していたね。一人だけが魔術師で、争った形跡があった。全員、ダガーで喉を切り裂かれていた。Ordinatorまでも二人殺害されてね、反帝国派の過激派の仕業ではないかと睨んでいる。このままだと、まだ出るだろう。二人のOrdinatorはHlalluの居住区の近くで死んでいたのが発見されており、勤務中たまたま殺人犯とかち合ったものと見ている。二人とも、ダガーで喉を掻き切られていたな。Ordinatorが落とした武器は、どちらも抜き取られた様子が無くてね。ハイレベルな隠密術が使える者か、高位の魔術師がやったものだということが推測できる。それが七人の犠牲者について知っていることの全てだ。目撃者からも詳しい情報は得ることが出来なかった。殺人を目撃した者はいなくてね。ただ、Hlalluだけは、犠牲者の一人が殺されたのと同時刻に、外国人がダガーで武装したDunmerの女性に脅されたと通報してきた。暗かったし、移動魔法で事なきを得たのだから、あまり確かな証言ではない。ただ、その者は、ダガーを持ったDunmerの女性はスカートを穿いていて、Netch Leatherの鎧を着ていたのは確かだと言っている」
「ダガーを持ったDunmerの女性、というのは確かなんですね」
「そうだ。ただ一つの証言なのだ。ダガーを持ったDunmerの女性で、スカートを穿いていて、Netch Leatherの鎧を着ていた」

 言われたこと、特に目撃者の証言を忘れないように書き留めながら、どんな用意をしていくべきなのか、うーん、と唸ってたら、事務所にいた別の人から手招きされた。

「君はメイジギルドの人だね。仕事のついでにちょっと頼まれてくれないかい。誰かに謝罪の意を伝えて欲しいと思っててね、君なら頼めそうだと思ったんだが」
「わざわざ俺を見込んで謝罪を伝えろって、メイジギルドの誰かと何かあったんですか?」
「昨夜、Trebonius Artoriusにぶつかってしまったんだが、その時すっかり酔っ払っていてね、ひどい悪口を言ってしまったんだよ。酒でつい口が滑って、彼をタコ頭と言ってしまったんだ。今やイヤな吹き出物ができてしまってね。沢山ポーションを飲んだり魔法を使ったりと色々手は尽くしたんだが、消えてくれない。出来ることは全てやった! 君が彼に、心から申し訳なく思っていると伝えてくれたら、彼は吹き出物を消してくれると思う。私が行くべきだが、ちょっと気分が優れなくてね。上手くやってくれたら50ゴールドあげるよ」
「うーん、わかりました」
「よし、この本を持っていって、本当に済まなかったと伝えてくれ。Vivecのメイジギルドにいるはずだ。本当に腕の立つ魔術師だと、ほとほと学んだよ」

 タコ頭には正直笑いかけたが、呪われたTarer氏にとっては笑い事ではないので、『Aedra and Daedra』という本を受け取ってメイジギルドに向かう。殺人鬼の話とか、本当は情報提供者から情報を収集してからのつもりだったんだが、まあ、殺人事件を何とかした方が俺も安心してAddhiranirrを探しに出歩けるというものだ。


 で、その「タコ頭」は、のんびりくつろいでいたので、ちょっと呼び止めた。Telvanniのスパイを告発したのに力を貸したので、まあそこそこ覚えもある。Tarerが本当に申し訳ないと思っていて、かつ体調不良で寝込んでおり自分からは出向けないと、容態を120%ほど割り増しして伝え、本を差し出すと、Treboniusも機嫌を直したようであった。

「この本がTarerからかね? よろしい、謙遜についていくらか習ったことだろう。私も何かしなくてはな。ほら、これが彼の吹き出物のポーションだ。君にもちょっとしたものをあげよう」

 そう言って、Tarer氏へのポーションと、俺にもポーションを一瓶くれた。
 折角なので、殺人事件についてギルドで訊いてみると、これが当りだった。

「スカートとNetch Leatherの鎧を着たDunmerの女性? ダガーを持っている? うーん。そういう人は見てないわね。けれど、ちょっと待って――下水の掃除人が――UnderworkでDunmerの女性が降りていったのを見たって言っていた。普通なら、おかしいことではないけど、Dunmerの人はForeign Quarterには比較的いないから。それでUnderworkにいるっていうなら、それは変よね。ネズミくらいしか下水にはいないし」


 まー、悪事をする人間が地下でこそこそしてるってのはある意味、常識的か。
 地下に降りて適当な落とし戸から降りると、早速襲撃された。




 手間はかかったものの、何とか倒すことは出来た。
 ダガーはDagothの銘が入った物騒なもので、斬りつけられた者のFatigueを傷つける。そうなると動けなくなるから、争いあった形跡が無かったんだな。魔術師が抵抗したってのは、多分、Fatigueを回復するポーションを持っていたか、その手の回復魔法を唱えたんだろう。旅のお供には、病気を治療するポーションやスクロール、Health回復薬と、Fatigue回復薬は持っておいたほうがいいとされる。危険な場所なら尚更だな。つまり、俺の取った手段はHealthとFatigueのポーション飲んでボカスカしたってことだ。わかりやすいね。
 それにしても、Dreamerの予言者だとかそんなことを口走ってたな。それにDagothのダガー。Sixth House教団は聞いたこと無いって人が多いけど、地下で潜伏してるってことなんだろうか。俺もBalmoraで変なヤツに話しかけられたしなあ。何か、雲行きが怪しくなってきたな。


「君の報告を見るに、君が殺したDunmerの女性と我々が与えた情報とは合っているね。Ordinatorは駆け回っていたんだが、けれど君が見つけ出して処刑したんだろうね。街のためになったし、監視事務所のためにもなった、礼を言うよ。さて、約束した報酬を授けよう。Indoril HelmとCuirassか、Belt of the Armor of Godか選べるよ」

 ほっとしたことで幾分か気が楽になったOrdinatorのElam氏は、やや格好を崩して選択の自由を与えてくれた。

「兜と胴鎧は重装で、強い戦士のみうまく使えるだろうね。これらの品は殺されたOrdinatorの一人が着ていたもので、彼を殺した者へ報いを与えてくれた者への報酬としては似合いのものだと思う。だが、Vivec市でこれらの装備を着込まないようにな。Ordinatorやガードだと間違われるから。それに引き換え、Belt of the Armor of Godは魔力の鎧と君に向かってくる呪文への抵抗を向上させて、どんな冒険者にも使えるものだよ。どっちがいいかね?」

 俺はVivec市で鎧を着ないようにという言葉にイヤな予感がしたので、ベルトにしておいた。それに、ヘルムはあの顔が・・・。アレで。
 さて、吹き出物の被害に悩んでいるTarer氏はというと、腐ってもガード、個人の事情よりも殺人事件が重要なので、話し中は我慢してくれたが、俺がベルトを受け取ると早速泣きついてきた。

「やあ、Yui-Li君! Treboniusと話はつけられたかい? この吹き出物に殺される!」

 と、かなり切羽詰っていたので、早速ポーションを差し出した。

「本当に悪かったと思っている。彼が君にそれをくれたって? 素晴らしいことだ。うん、すっかり良くなった。いい仕事をしてくれたから、もう50ゴールドあげよう」

 と、グイっと飲んでたちまち元気満タン、ご機嫌最高になったTarer氏は、ボーナスとして追加で50ゴールドくれた。計100ゴールドと、ポーションが一つ。お使いの割にはまあまあいいかな、なんて。情けは人のためならずというが、その通りだな。
 それにしても、Treboniusって、悪口言われたとはいえ、タコ頭と言われたくらいで呪いをかけるってのはなあ。それに、Telvanniのスパイが発見されたが、証拠である紹介状の致命的ミスにすら気付かなかったくらいだし。本部のギルド員とおしゃべりしてたら「あいつが貴方に何を頼んでも私は何もしないわよ。私たちにやれる最善のことは馬鹿頭を無視することね。去年、ヤツは私にSilt Striderの言語を学んで色んな街に向かうSilt Striderに質問できるようになんて言ってたのよ」なんて、かなり馬鹿にした調子で耳打ちしてきた。人望は限りなくゼロに近く、プライドは高くて、馬鹿、そのくせ魔法の力だけは優秀ときた。こんなんでTelvanniに対抗できるんだろうかと、心配ではある。あ、でも、Telvanniも紹介状ミスするくらいアホか・・・ペーペーの俺が言うのもアレだが、次元が低くて泣けてくる。

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(2008.5.27)