三人の情報提供者・後編

 背が高く、黄金のマスクを被った誰かが俺に話しかけてくる夢を見た。けれども何を言っているのかわからない。彼は笑って、嬉しそうに見えた。しかし、彼が俺に手を伸ばして触れた時、悪寒が走って逃げようとした。なのに、動くことが出来ない。わめこうとしても、声を出すことが出来ない。そいつはずっと笑ったままで喋っていたが、何かの種類の魔法をかけようとしているんじゃないかと感じた。ようやく起き上がって、夢が終わったとわかった。

 ・・・夢だったか。
 ギルドの一室で、汗びっしょりになって起き上がった俺は、夢と理解しつつも何かされて無いだろうかとついつい体をあちこち見てしまった。何もされてなかったけどさ、怖かったなー。もしかして、これがDagoth Urの夢? うわ、俺って頭がおかしくなってるのか? いやいや、『Progress of Truth』を読んだせいかもしれない。だってこの本、色々ヤバイ本だしさあ。

Progress of Truth

 反体制派の司祭によって編集されたものである。
 以下のものを抜粋した。Templeの方針の中で、反体制派司祭によって異議を申し立てられている点である。

1、Tribunalの神性について
 Templeの教義では、Tribunalが神になったことは、探索、美徳、知識、邪悪なる者との戦いを通じた、奇跡の御業であると主張する。Templeの教義では、Tribunalの神通力と不死がDunmerの祖先(その中に、善きDaedra、予言者Veloth、聖Nerevarを含む)のコミュニティが判断を下して最終的に授与されたものとしている。反体制派の司祭は、Dagoth Urの力とTribunalの力が根本では同じ源――Red Mountainに由来するものではないかと尋ねたい。Apographaの根拠は、Tribunalが神となるために冒涜的な魔法をかけられた道具に頼り、しかも、それらの反自然的な道具が当初は、人造兵器Numidiumを作るために冒涜的なDwemerの魔術師、Kagrenacによって作られたことを示唆している。

2、Tribunalの潔白について
 反体制派司祭は、Templeがいつも表の顔(「聖職者の著作」に代表されるHeirographa)を保ち、また、裏の顔(「隠された著作」に代表されるApographa)を常に保っていたと述べる。表向きの説明ではTribunalは英雄的な栄光に包まれた言動が描写されているのに対し、隠された著作では、Tribunalの言動の、より暗い、英雄的ではないものを仄めかし、秘密、虚偽、矛盾、論争、そして様々な解釈を明らかにしている。特に、Red Mountainの戦いの矛盾する報告は、Tribunalの振る舞いについて、そして、神となった後はその源について、疑問を提示している。また、TribunalがRed MountainでのDagoth Urによってもたらされる脅威の真の原因を隠滅し、MorrowindをDagoth Urから保護するTribunalの能力について、人民を誤解させたこと、そして最近、Tribunalの魔力が劇的に減少していることを隠している正当な証拠がある。

3、TempleのRed Mountainの戦いの説明
 Ashlanderの口承ではRed MountainにはTribunalはおらず、NerevarがDwemerを滅ぼしたとするよりも、Dwemer自身が自滅したとされている。Ashlanderの口承を更に見ると、NerevarがGrand Council(すなわちTribunal)に相談しにいく間、NerevarはDagoth UrにRed Mountainの冒涜的な秘密を守らせておき、Nerevarが相談している時に(Ashlanderによれば、怪我ではなく裏切りから)殺され、その後、TribunalがRed Mountainにて、歯向かったDagoth Urと対決して、彼がTribunalの意思に従わないと見るや、Red Mountainの地下でDagoth Urを追いやったのではとしている。

4、Daedra、聖人と祖先崇拝
 Tribunalの神性に疑問を呈す一方、反体制派たちはTribunalが聖人であり、英雄的行為をしたことには疑問を呈していない。実際、反体制派司祭たちは聖VelothとAshlanderたちが示した、祖先崇拝の大本にある多くの要素を元に戻すことを支持している。正確に言えば、どのようにこれらが機能するのか反体制派司祭の間で結論が出ないまま討議されている。

5、Incarnateの予言の否定とNerevarineたちへの迫害
 Nerevarineの予言が本当か否かについての一致した意見は反体制派の中には無いが、全員が、Nerevarineたちへの迫害は不当なものであり、政治的な動機に基づくものだということで一致している。反体制派の司祭は、宗教上の経験の一部として、神秘主義や啓示、または予言を否定していない。反体制派たちは、その問題への意見の是非を解決することが出来なかった。彼らはAshlander Ancestor教団の神秘主義、特に予言者とWise Womanの儀式とIncarnateの予言を研究した。反体制派司祭の間の多くの人々は、Nerevarineの予言が本物であり、Templeの保管庫に記録されている予言を組織だって研究したいと考えるようになった。

6、ArchcanonとOrdinatorの権限
 反体制派司祭は、ArchcanonとOrdinatorの当局を拒絶する。寺院の高僧は利己と政治にとって腐敗し、最早Templeやその参拝者を一番重要だと思うことはしない。反体制派司祭はArchcanonとOrdinatorがTribunalのためではなく、自分たちのために語っていると信じている。

7、宗教裁判とOrdinatorによる恐怖と拷問の実施
 Templeの高僧の中では、Ordinatorが異教と異端を弾圧するために、誘拐し、恐怖を与え、拷問し、秘密裏に投獄する手法に頼っていることは公然の秘密とされている。反体制派司祭はOrdinatorが制御されず、腐敗した聖職者たちが権力のために手先にしていると感じている。

8、Templeが宣言したことの基礎――貧者への慈善事業、蒙昧な者への教育、弱者の保護
 反体制派司祭は大部分の普通の聖職者が、Templeで最高の伝統を守っていることを認めるが、より位階の高い僧は、貧者、弱者、無知な者への福祉よりも、権力と贅沢を愛して止まないと信じている。

 ちなみに、見つけたのはレア本屋の看板を掲げているあそこだ。
 あの本屋、他の店のようにOrdinatorもいるんだが・・・なんだろ、あのOrdinator黙認してるのかな? 実は反体制派だったり? うーん、さっぱり。

 まあ、これまでの本やノートは、殺されたNerevarが戻ってきてTribunalと外国人を追い払う、というのが趣旨だったが、これはもっと深いところまで踏み込んでいる。その上、Tribunalの神性の否定と、上層部の腐敗とOrdinatorの横暴を告発してるときた。こりゃヤバすぎるべ。まあ、Milo司祭からの話や、この本の要点を挙げて、そこから推察できるものがあるとればこうか。

1 TribunalとDagoth Urの力の源は、同一のものである。
2 その源となる道具は、反自然的、冒涜的なものであり、Dwemerの魔術師Kagrenac作のものである。
3 当初は、Numidium(VivecがTiber Septimに供与したとされる攻撃兵器)建造に使われたらしい。
4 Tribunalは最近、その魔力が激減している。
5 Red Mountainの戦いでDwemerは自滅。Dagoth Urに秘密(多分2に絡んだものか)を守らせておいた。
6 NerevarはTribunalに殺された。(これはこれまでの他の書やメモにも示唆されている)
7 Dagoth Urは秘密を守ろうとして、Tribunalに滅ぼされた。
8 つまり、Dagoth Urは被害者でもある。
9 Dagothに復活の兆しがある。

 ここから俺なりにいくつか疑問を提示すると、

・「TribunalとDagoth Urの力の源」=「Red Mountainの秘密」=「Kagrenac作の何か」=「兵器Numidium建造に使用されたもの」=「反自然的、冒涜的なもの」がこのようにイコールで結べるが、具体的にはどのようなものなのか。
・Dwemerの自滅とは、一体何が起こったのか。
・誰がNerevarを殺したのか。
・DwemerとHouse Dagothが本当に結託していたのか疑問の余地がある。

 こんな感じになるかな。輪郭ははっきりしてきたんだが、まだ肝心の部分がぼやけてる。
 Temple加入で貰った『The Pilgrim's Path』を読むと、Vivecは落ちてくる月を止めてるから、「Tribunalの力」は、そういうメチャスゴな奇跡を起こせるもんだと思うが、そんなの、いくら何でも定命の者の力で可能なのかな。Daedra<Tribunalっつー力関係になるけど、Daedraを超えるとしたらAedraとか、そっちだよなあ。DwemerがAedraの力を、定命の者も使えるようにしたとしたら「冒涜的、反自然的」なのにも納得がいくが、うーん・・・。何ていうか、肝心の部分が分からないからどうしようもない。もっと詳しい情報が必要だな。俺がCaiusだとしたら、反体制派司祭と接触しようと考えるな・・・ってことはオイオイ、もっと難しい仕事が増えるってことじゃねえか!!(泣)

 何だか、この先にイヤーなものが広がっている気がして、考えるのも気が重くなってきた。
 いや、奴隷の身分から解放されて、任務があるとはいえあちこち行けるのはそれなりに楽しいけど、ちょっとなー。もういい、フテ寝だ、昼まで寝てやる!!



 さて、二日後。
 昼まで寝て、ご飯をご馳走になって、ついでに一日中本を読んでごろごろして眠ったら、ふてくされた気分も解消されたので、Addhiranirrを探してみることにしたのだ。
 Addhiranirrは盗賊ギルドだけあって、見つけるのは難しかった。居場所を知っている人は口をつぐみ、かなりコインを握らせないと喋ってくれなかったのだ。Caiusが「幾ばくかのコイン」って言ってたのも頷ける。


「いいわ。Caiusはあなたに言ったのね。『Addhiranirrと話せ』って。そしてあなたはそうしてる。Addhiranirrと話してる。けれどAddhiranirrはNerevarineやSixth House教団のことは話せないの、何でかって? Addhiranirrは、今、ステキな徴税人様に追われているの。その人も彼女と話したがってる」

 つまり、追っ手を何とかせい、と。


 この人がステキな徴税人様だ。盗賊ギルドは基本的に殺しは好かないらしいから、穏便に済ませよう。俺も必要も無いのに軽々しく殺すのは嫌いだし。

「すみません、Addhiranirrを探しているというDuvianus Platorius氏ですね」
「ええ。友人を探していてね、Addhiranirrという名の女性のKhajiitなんだ。どこに彼女がいるのか心当たりがあるのかな」

 うわお。友達と言うか。帝国人は口が上手いな。

「ええ、彼女なら本土への船に乗っていったんですよ。とても慌てていましたね。ゆっくりお別れも言えなくて」

 もちろん嘘八百である。

「それは残念なことだ。でもわざわざありがとう。私も丁度本土に戻らなくてはならないんでね。いずれにしても、彼女とひょんなところで出会うかもしれないね」

 最後までこの帝国人は穏やかさを失わず、優雅に一礼すると歩き去っていった。
 もちろん、Addhiranirrはここにいるわけだから、永遠に徴税人と出会うことも無いだろう。俺の嘘に気付かない限りは。さっさと下水道に降りて、もう安全だということを告げると、彼女もほっとして俺に喋ってくれた。

「AddhiranirrはNerevarine教団のことは知らないの。だって、それ変な迷信でしょ。Caiusにはこう言って。そんなナンセンスなことには興味を持つ頭をしてる人なんかないって。予言や昔の英雄が生まれ変わるなんてホラの一種でしょ。そういう毛玉のような話は子猫ちゃんのためのものね」
「じゃ、Sixth House教団は?」
「このAddhiranirrはそのことを知ってる。だって、密輸に関係してるから。何人かの賢い密輸業者がね、昔からの顧客を放っておくくらい、急に忙しくなったんだって。Sixth Houseって、とーっても金払いがよくって、新しく雇ってくれる人が出来たの。でもどんな密輸をしてるかって? Addhiranirrは知らない。だって、みんな口をつぐんでるもの。おかしいよね。密輸業者なんて、みんな声が大きくて自慢したがりなのに、今や、美味しいお肉をいっぱい食べてお腹の膨れた子猫ちゃんみたいに黙ってるの」
「密輸って、何やってるの。ヤバくて儲かるブツとか? いつもは何を扱ってるの?」
「密輸ってとっても儲かるの。帝国は、Skooma、Moon Sugar、Ebony、Dwemer Artifact、珍しいDunmerの武器や鎧、奴隷なんかを扱うのを禁止してる。業者はこんなのを扱ってるわね。あと、それに加えてGreef、Shein、Sujammaも帝国の酒税を無視して取引してる。今はSixth Houseが密輸業者を雇っているんだけれど、何を密輸してるのか、Addhiranirrにはわかんない」
「ふーん、そっか」

 お喋りな業者が口をつぐんでるとなると、よっぽど強力な団体が背後にあって、麻薬や鉱石、工芸品や装備品よりも見返りが大きく危険過ぎるものを扱ってるか、喋ったら命は無いと脅されてるとか。うーん、両方かな?


 しかし、地下って物騒なところやな。


 こんないかにもでございな秘密神殿まであるし・・・。Mehrunes Dagon?


 しかも、お供え物の宝石盗んだらDremoraに殺されかけたし・・・(泣)
 でも、その代わりにメチャ強なDaedricの長剣を信者の一人から拾えて良かった。序盤でメタルキングの剣拾うようなものだ。こんな敵にどうやって対抗したかというと、ポーション飲みまくり+Golden Saintのおねーちゃんを召喚する巻物使ったんでござい。
 そういえば、教徒の人がSanguineの名のついたベルトを持ってたな。Mehrunes Dagonを祀ってるみたいなのに、おかしいなあ。まあ、色んな事情があるんだろう。

 何はともあれ、これでVivecの用事は済んだ。
 これから先は、俺個人の用事だ。



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(2008.5.27)