Night Motherの手指


「へー、これがガイドに載ってたAsh Maskなんですか」
「そうとも。Vivec's Ash MaskはGnisis Templeで飾られている聖遺物だ。Morrowindの各地からやってくる巡礼者たちはこの聖なるアーティファクトを見に来るのだ」

 Arethan Mandas氏の狂気が治ったことをAthyn Sarethi氏に報告しに行ったはいいが、Gnisisには武勇の聖地Koal Caveの他にも正義の聖地があることをすっぱり失念していて、また引き返すことになった。アホの見本である。ま、それはそうと、名物を間近で見られて満足だ。神にしがみついて救いを乞うほどの宗教心は無いが(だって、奴隷の頃酷い仕打ちを受けてどれだけカミサマに祈っても何もしてくれなかったし)、こういう話を聞くと、Morrowindの皆にTribunalの三柱は愛されてるんだなあと実感する。Templeに、反体制派司祭のような内紛や汚職の噂があるとしても、だ。


 ここで病気治癒のポーションを買って、早速三角柱の石碑にお供えしてみる。えーと。『正義を称えよ。Load Vivecの正義に感謝いたします。冷酷で身勝手な振る舞いを慎みます。愛、信頼、尊敬を得ても、皆と平等に分かち合います』か。


 さて、残りはあと一つ。Ghost Gate内部の聖地。いかんせん交通機関が無いことと、Blightの嵐が吹き荒れ、強力な魔物たちが徘徊する極めて危険な地域なので、最後にしようと決めていた。あちこち冒険に行ったりしているうちに腕もそれなりに上がったので、そろそろ行ってもいいかもしれない。
 俺はRecallで帰れる場所をBalmoraに設定しているので、必然的にBalmoraからの出発となる。長い道のりなので、食料などを用意し、装備もしっかり点検しておく。いつぞやのDwemerの遺跡に通じる橋から下の谷に下りて道なりに北上すると、Ghost Gateに着く。ただし、途中の遺跡っぽいところにDaedraの眷属が徘徊していることもあるので注意すべし。


 火山に近いために滅多に晴れることは無いが、この日は丁度、風が凪いでいた。幸先が良いな。


 聖地が近くにあるということと、対Dagoth Urの最前線という土地柄か、扱っている武器や防具も素晴らしいものが揃っている。戦士たちもDaedra装備やGlass装備を身につけ、動きや目つきにも隙の無い者たちが多い。ここは危険な土地なのだということを実感する。


 宿泊施設も揃っているので、十分体を休めると、門の中へ突入した。魔物が外部に溢れることを防ぐため、門はスイッチで開閉することになっている。Ghostfenceが無いとVvardenfellは終わりとさえまで言われたくらいである。聖地は門から近くにあるのだが、気を引き締めていくに越したことは無い。


 Blightに汚染された野生動物の他にはAsh Zombieに一回襲われたくらいで、左程問題なく聖地に着くことができた。良かった良かった。ただ、嵐のせいで祠の場所がわかりにくいので注意したい。門に入ったら斜め右の方角に進むこと。Levitateで上空から眺めればよりわかりやすいかもしれない。で、碑文は『誇りを称えよ。Load Vivecの誇りに感謝いたします。自分や周囲の人、信仰する神を疑わず、揺るがず、昔から正しいといわれていることを曲げません』だな。


 巡礼が終わったんで、入会を申し込んだのと同じEndynさんに会いに行き、巡礼終了を報告。これで巡礼者は卒業。俺はあっちこっち行く生活なので一つの場所には留まれないと言うと、各地のエライ人から仕事を貰えばいいと言ってくれた。これでいっぱしの聖職者なんだそうな・・・って、ちょっと待て。聖職者!? いや、なんていうか、自分でTempleに入っておきながら言うのも何だが、そういう「聖」とか頭につくお堅い職業、俺のガラじゃねえな・・・動機もアレだし・・・観光気分だったし・・・ま、いいか。俺はこの問題から目を逸らすことにした。


 本部には宿泊施設があるのでそこで一休みして、のんびりごろごろしてEnoさんの顔でも見ようかな、なんて思って挨拶に行ってみると、Enoさんはこんなことを切り出した。

「おやおや。White Thrall。Writを開けに来たのかな。それともNight Motherの撒き散らされた恵みに対しての特別な任務を受けに来たのかね?」
「Night Motherの任務? えーと、Night MotherってDark BrotherhoodのGrandmasterでしたっけ? それ絡みで何かあるんですか」

 Enoさんは重々しく頷いて、ゆったりと歩きながら話した。

「Dark BrotherhoodはここMorrowindでも操業中だ。そこで、Dark Brotherhoodのメンバーとの折衝を頼みたい」
「!!」
「Dark Brotherhoodは随分昔にMorag Tongに反旗を翻してね、それ以来奴等は、我々の敵なのだ。Mehrunes Dagonの崇拝者でForeign QuarterのLower Waistworksでエンチャントの店を開いているMiun-Geiと話せ。Dark Brotherhoodとの接触法を知っていると確信している。メンバーの名前を聞いたら、私に教えるように」
「わかりました」

 Dark Brotherhoodは元々はMorag Tongの一派なんだったっけ。Morag Tongは人に姿を見せないどころか歴史に名を残さないのが方針。Mephala様は仕事を全部公開するのもいいわねー、なんて言ってたけど、こう方針があるからこそだ。
 しかし、Night Motherは余程の目立ちたがり屋だったのか、第二紀324年にAkavirの偉い蛇人Versidue-Shaieを殺害した時にその血で身元を書き付けたせいで、Morag Tongは大陸中で非合法化、以降長い間潜伏状態になったという因縁を持つ。その間にDark BrotherhoodはMorag Tongから分派し、430年に皇帝と後継者全員、そしてVersidue-Shaieの息子でやっぱりエライ蛇人のSavirien-Chorakを暗殺する事件を起こし、半月経たないうちに王朝は崩壊、二紀終了のお知らせを流した。そして、Tiber Septimっつー、俺を解放したUrielって皇帝の先祖が現れてやっと帝国は統一したんだとか。


 空中浮遊魔法で近道できるので、のんびりと空の旅を楽しむことにして。
 問題のエンチャンターはまあまあそこそこ繁盛してるらしい。夜、寝静まった頃を見計らいRing of Khajiitで姿を隠して侵入し、何かそれらしいものが無いか家宅捜索を行うことにした。


 そしたらあったよ、厳重に鍵のかかった引き出しにこんなもんが。団体名こそ出していないものの、見る人が見たらバレバレである。Hirake Gomaの前には専用錠以外の鍵は鍵になどならん。思い知ったか。


 翌日、そのまま何食わぬ顔をして店に入り、客を装って店内を物色する。Ordinatorは居ない。まあ、好都合ではある。他の客がいなくなったのを見計らい、暇そうにエンチャントされた武具の手入れをしていたMuin-Geiに声をかけた。

「いらっしゃいませ、何か御用で?」
「ええ。Soul Gemを一つ。それから・・・ある筋の紹介で、こちらで人を紹介していただけると・・・そう。Dark Brotherhoodといいましたか。何でも、評判じゃないですか。『The Brothers of Darkness』を見ると、引っ張りだこだそうで」
「!! ・・・Dark Brotherhoodを雇いたいと? どうすれば私が貴方にお教えすることができると理解できましょう?」
「何、ここに紹介料として200ゴールドあります。これでいかがでしょう」

 Muin-Geiは差し出された金と俺の顔を見て、しばらく考えた後に口を開いた。俺の目つきが堅気に見えなかったからかもしれない。

「ガードのやり方ではないですね。ならば教えましょう。Dark Brotherhoodへの窓口は、KhajiitのTsrazamiです。彼女はここForeign QuarterのPrazaにいます。私が貴方を送ったと言って下さい」
「わかりました。ありがとう」

 俺はもう200ゴールド追加すると、店を後にした。あの手紙の差出人と名前は一致している。決まりだな。斬りあいになるかそれとも話し合いになるのかは彼女次第だ。Enoさんは、殺せとは言わなかったが、Dark Brotherhoodは潰したいはずだから、多分、Vvardenfellにいる組織の人員を把握して切り崩しを狙うつもりなのかもしれない。


「ArgonianがDark Brotherhoodに何をして欲しいの?」

 Muin-Geiの名を出すとあっさりと俺を信用して組織のものだと名乗ってくれた。俺は金をちらつかせて話しかける。

「Dark Brotherhoodのことを知りたいのです・・・あなたなら話してくれるかと」

 途端、Khajiitの耳がぴくりと動いた。俺は無意識に剣の柄に手をやる。しかし、Khajiitは俺を襲っては来ずに、何やら思案している様子だった。

「Morag Tongの人なのね。だって、Morag Tong以外にDark Brotherhoodのことに首を突っ込みたがる人はいないんだもん。いいわ。Grandmasterに、Tsrazamiは話すって言って」

 金で心を変えるあたり、Dark Brotherhoodも一枚岩では無い、か。


「それで、TsrazamiがDark Brotherhoodのエージェントだと。で、お前は既に自分の足で彼女にそのことを聞いてきたか。彼女との話し合いが本当に楽しみだよ。勿論、場所と時間は私が選ぼう。この巻物を取っておきたまえ。有意義につかうことだ」

 そう言って、Enoさんは高価な巻物を4本俺にくれた。

「次の任務を受ける気があるか?」
「何でしょう」
「昔々、Black HandsのMephalaは彼女の献身的な信奉者に与えるようにと、27のトークンをSanguineから受け取った。Dark Brotherhoodが我々からそのトークンを盗んでしまってね。だが、Mephalaは一つずつ、このVvardenfellに戻ってくるようにと手はずを整えた。それらのトークンの一つである、Belt of Sanguine Fleetnessを持ってきてもらいたい」
「あ、この前のベルトってもしかしてそれがらみだったんですか。それで、Fleetnessについて教えて下さい」
「歳月を経て、Webspinnerの糸が敵の手にわたっていることがわかった。Mephalaの巧妙な手さばきによるもので、これらの糸は全て我々の元に戻ってこなければならない。Hrordisはこのベルトを持っている。彼女はNordのSorceressで、Dark Brotherhoodのメンバーだ。PelagiadのHalfway Innにいる。このベルトを私の元に返しに来るように」
「わかりました」


 相手がDark Brotherhoodのメンバーなら手加減無用。話し合いで解決しないなら斬り合いあるのみ。


 Hrordisは、「何を考えてここにいるのか知りませんが、とっとと出てってください」の一点張り。話をしようとしない。説得も挑発も不可。なら、仕方ないか。


 俺が現れた時、すぐに反撃すれば生き延びるチャンスはあったものを。
 Hrordisを殺すと、異変に気付いた客や店主がドアを激しく叩く音が聞こえた。すぐにベルトを抜き取り、Recallを唱えてメイジギルドからVivecに飛ぶ。


「上手くいったようだな?」
「ええ・・・でもEnoさん、1000ゴールド下さい、というかWrit下さいよう。ガードに指名手配食らって払いましたよ。俺の全財産が・・・(泣)」
「ならば・・・もう一つ。Dark Brotherhoodのエージェントの中にも、時折Morag Tongに入るのに相応しい名誉のある者がいる。一人の候補が私の注意を引いてね。Movis Darysと話しなさい。彼はAld'ruhnのメイジギルドにいる。彼は帝国の大学の学生として振舞っているがね。彼と話し、説得に失敗して彼が我々の理想を拒否した場合は、息の根を止めなさい。あの男は他のDark Brotherhoodのメンバーとは違うようだ。彼を殺さなければならなくなったら、礼節をもってその死を取り扱うことだ」
「はい。なるべく引き入れるようにします」


 メイジギルドの転送サービスを使えば、隣町に行った程度の感覚である。早速、うっかりを装って適当に物なんか落としてみて拾ってもらい、そこから話を繋げてみることにする。で、頃合を見計らって、誰も俺たちを見ていないことを確かめ、話を切り出す。

「Movisさんは本当に魔法の才に長けておられ、しかも戦闘が巧みであるようですね・・・Morag Tongに入りませんか。ここでは歴史があり、暗殺者のギルドとはいえ人々に敬意をもって遇されます。通常は志願者は自力でGrandmasterに会いに行かなければならないのですが、当方のGrandmaster、Eno Hlaaluさんは貴方を見込んで俺にスカウトしろと言いましてね。悪い話ではないはずですが・・・」
「Morag Tong? しかし私はただ無学な魔術師ですよ。どうして斬った張ったができるでしょう?」
「何、ネタはあがっています。我々は貴方がどういう組織に所属しているのか把握していますよ。例えばそのベルト。Dark Brotherhoodの人が着けていますよね。そういうことです。もしMorag Tongに入ってくれなかったら、崇高な死を与えるようにと言われております。どうします? 少し考える時間を取りましょうか」

 Movisはシラを切るか暴れるかと思ったが、俺の言葉に以外に大人しく観念した。

「知っているのですか、ならばお終いだ・・・Dark Brotherhoodに誓った身ではありますが、彼らのやり方はMorag Tongのように崇高なものではないと知りました。Eno Hlaalu氏に話しに行くことを誓いましょう。それで満足なら、報告なさい。不満なら、あなたのスキルをテストすることになりますが。このベルトを心から信頼しているという証としてもって言って下さい」
「ありがとうございます。Morag Tongは貴方のお考えに最大限報わさせて頂きます。それに、同じメイジギルドのメンバーでもありますから、お互い助け合うこともあるかと思います」

 斬ればそれで向うの人員が減らせ、こちらに引き入れれば人員が減らせることに加えてこっちの人手も増えるから結構なことだ。うーん。それにしても、俺って悪人だなあ。今更だけど。


「Enoさーん。お金下さいよう、Movisは説得してきましたよ。近いうちに会いに来るそうです」
「入会に同意したか。宜しい。まあ、そう焦るな。もしMovis DarysにWritをもって暗殺したとして、それと同額な金額をあたえよう。これがその1000ゴールドだ」
「わーい! ありがとうございます」

 そんなこんなで、Dark Brotherhoodと俺は関わりを持つことになった。だが、この時は、知る由も無かった。
 Dark Brotherhoodは引っ張りだこ。この意味を、身を持って体験することになるということを。

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(2008.6.15)