昔の自分
Ashkhanに見つかると、俺に寝床を貸してくれたWise Womanさんの立場も悪くなる。
朝早く起きると、感謝と別れを告げてそっとテントを抜け出した。ここから北東の方向に、枯れ木に囲まれた蒸気の噴き出し口があると言っていたな。
お、これか。
でも、『帝国小史』の断片が三枚ほど落ちてるのが気になるんだが…。
ちょっと行ったところにも、またページの切れ端が落ちていた。でも、こっちを追いかけてしまうと行き先が違う。今は仕事に専念するべきだ。
さて、ここがSarayn Sadusが潜伏しているという洞窟。気を引き締めていこう。
道すがら、何人か取り巻きのいかにもな連中を見たが、説得を聞くような相手ではない。本気でこちらを殺しにかかってくる。追われているという自覚はあるようだな。暗がりから矢を放つと、頭部や喉に矢を受けて、声を出さずに倒れ付す。
しかし、何の気配も無くなれば、不穏な空気を感じようというもの。しばらく進むと、襲撃を察したのか、扉の奥から大剣を担いだDunmerの男が飛び出してきた。こいつがSarayn Sadusか。
「死ね! Morag Tongの犬が!」
「お生憎さまだな!」
なかなか出来る男だ。だが、距離を詰めて斬り付ければ手数の多いこっちのもの。間もなく、その辺に転がってるごろつきの仲間入りをしてもらった。
外に出れば、涼しい風が吹き渡っている。火山地帯のため、空気にはかすかに硫黄の臭いが含まれているが、血の臭いよりはマシだな。俺は仕事で殺してるだけで、殺しは趣味じゃないからな。
空気が美味いっていいねえ。
そう思っていると、また別の断片を見つけた。
不思議に思って遠くを見ると、また一枚あるのを見つけたので足を向ける。
紙切れを辿っていくと、誰かがいることに気がついて、ふと足を止めた。相手も俺の存在に気づいて、こちらを見ている。しかも緊張しているようだ。
あれは…。
「こんにちは」
「こ…こんにちは」
こんな人気の無いところを半裸のArgonianが一人で居るのはおかしい。それに、まさか…。
「ど…どこのどちら様ですか? 構わないで下さい! 放っておいて欲しいんです。家に帰るところなんですから」
「おいおい、俺もArgonianだってば。家って、アンタどう見ても奴隷だろ。ご主人様の家にでも帰るってのか? ほら、大丈夫だって、とにかく話してくれ。力になれるかもしれないから」
「ご…ご主人様の家ではないんです。あいつらに見つかる前にEbonheartのArgonian Missionに行きたいんです。Tel Aruhnのハンターが私を探しているに違いありません。もし奴らがReeh-Jah、自分のことですけど、を、見つけてしまったら!」
事情は飲み込めた。逃亡してきた奴隷なのな。確かに、Tel系の街などでは奴隷市場は良く見かける。かなり遠い距離なのに、よくここまで逃げてきたもんだ。
「逃げてきた奴隷なんだな? わかった、Missionまで連れてくよ」
「助けてくれるんですか? 話を聞いて助けてくれるなんて。行けても行けなくても、ここにいるよりとにかく歩いたほうがマシです」
地獄に仏な状態のReeh-Jahは俺の言葉を聞くとわあわあ泣き出したが、とにかく落ち着かせて出発することにした。Recallで早々に帰らなくて本当に良かったな…。さもなければ、こんな魔物だらけの山の中、だ。
ハンターに見つかるか、悪いAshlanderに殺されるか、さもなくば、こういう化け物に食われるか…全く、見つけて幸いだったよ。
Tel側に抜けるとハンターたちに見つかる、と怯えるので、山を突っ切ってSuranまで行くことにした。そこからならSilt StriderでVivecに行くことができる。そうすれば、Ebonheartは目と鼻の先だ。
幸い、溶岩も流れる火山地帯なため、それほど寒くないし、Argonianはむしろ暑さに強い。有毒ガスも効かないから、ハンターを撒くにはうってつけだ。
街についたところで誰かに不審に思われても、わざわざMorag Tongの人間に楯突こうとする者は馬鹿くらいだ。最悪、金か暴力で解決できる。
「ありがとうございます。いくら元逃亡奴隷だからって、助けてくれるなんて…」
「いいって。どーせVivecに用事があるんだから。俺に礼でも言う暇があったら、今後の身の振り方でも考えておけよ」
うむう。暗殺に連れてくわけにはいかないから、まずEbonheartだな。仕事が少し遅れてしまいそうだ。Enoさんが怒らないといいんだけど…。
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(2008.11.26)