奴隷解放組織との接触

 Reeh-Jahのことなんだが、弱い割りに義侠心でも出してるのか、敵を察知したらそっちに向かっていってしまうんで注意が必要だ。虫とかならともかく、Golden Saintに丸腰同然で殴りかかった時は冷や汗が出た。


 火山地帯を抜けると、新鮮な風が吹き渡る。山を降りてすぐ綺麗な湧き水にありつくことが出来て幸いだった。Recallで帰ろうと思ってたので、手持ちの食料が少なく――それはまあ、道中の獣で賄えたのだが、(二人とも元奴隷だから、それほど味にうるさくないし)水だけはじりじり減ってったからな。火山地帯なせいで、湧き水も見当たらなかったし。


「これ、お腹一杯食べていいんですか?」
「ああ。焼くと美味しいよ」

 歓声を上げんばかりに、焼けたカニをパクつくのは見ていて微笑ましいが、あまり旅慣れておらず、体力も無いReeh-Jahには山を越えるだけでもきついものがある。それに、逃亡の際にかなり消耗しているはずだ。きちんと食べさせて休ませれば、ある程度はもつだろうが、それも限りがある。早く、もっときちんと休める所に連れて行かなくてはならない。

 水辺で一晩過ごして、翌朝出発したのだが、何とか昼ごろにはSuranに到着することが出来た。そこからSilt Striderを使ってVivecに到着する。


 ここまでくれば追っ手が来ることは考えにくい。Reeh-Jahを見て、おっちゃんもちょっと胡散臭げな顔をしていたが、そこまで追求する気は無かったようだ。


「大きな街ですねえ」
「そうだなー。一つの居住区が一つの街クラス。俺も始めて見た時はびっくりしたもんだよ」

 大きな口を開けて街を見つめているReeh-Jah。その気持ちは分からんでもないし、満足するまで薬草でも摘んで時間を潰すことにした。しばらくすると、ちょっとした道草に満足した様子で俺の元にやってきたので、船着場に行く。


「お連れさんは…あ、いや、Morag Tongの人かい」
「悪いねー。チップは弾むからさ」

 うむ。Morag Tong万歳。二人分の料金と袖の下を弾んで、何も見なかったことにしてもらった。
 VivecからEbonheartまではとっても近い。旅の疲れでうとうとしていたReeh-Jahを揺すり起こして、Ebonheartの船着場に足を下ろす。


 Ebonheartは、Duke Drenや色々なHouse、帝国系の会社、その他、外国のMissionも事務所を置いている、政治、経済の中心だ。Vivecは神の住んでる「聖都」でTempleの総本山であるので宗教色が強く、どうも浮世離れした感じはあるにはあるが、こっちは地に足がついてるって感じがする。


 さて、Argonian Missionに到着。ここを仕切っているのは、黄色いローブを着たIm-Kilayaという人らしい。俺と、その連れを見て事情を察してくれたようだ。軽く自己紹介を交わして、Reeh-Jahを拾った経緯を説明した。暗殺のついでに見つけたことは伏せておいたが。

「あなたは良い行いをなさいましたね、Yui-Liさん。見返りなど約束されていないというのに、危険を冒して我らが民を助けてくださった。この道が続くことを期待いたしますよ。ランプのともし火があなたを明るく照らしますように。感謝の印にこれを贈りましょう」

 そう言って、俺に魔法がエンチャントされたベルトを渡してくれた。
 うむ、今度からもし逃亡奴隷を見つけたら、ここに連れてくることにしよう。「Twin Lamps」の話を耳にしたことがある。「ランプの光が〜」という言葉からして、ここは奴隷解放組織の拠点なんだろう。

「さようなら、Reeh-Jah」
「さようなら、Yui-Liさん」

 普通の奴隷は狩りに遭って誘拐されてきたものだから、大抵国に帰りたがる。だから、Reeh-Jahとこの先会うことは無いかもしれない。最後に握手をしっかり交わして、Missionを後にした。


 …「ここは変な場所だ。沼から遠い」という言葉をこの地に住むArgonianはよく口にする。
 俺は沼を知らない。予言が確かなら、帝国のどこかで生まれたんだろう。でも、物心ついたときはMorrowindにいて、それからずっと国境付近で奴隷やってて、主人刺したら何の因果か帝都刑務所にぶち込まれ…それで解放されたんだっけ。
 それから色んなことがあったな。色んなことがありすぎた気がする。まだ四ヶ月しか経っていないのが嘘みたいだ。
 俺の故郷はどこなんだろう。種族の故郷Black Marsh? 生を享けたであろうCyrodiil? それとも、本当にNerevarの生まれ変わりだとしたら、Morrowind?

 …どこも違う、という気がする。本当の居場所は、どこなんだろうなあ。


 …と、感傷に耽ってみたはいいが、今は自分探しをしている時ではない。とっととターゲット暗殺しにいくべ。
 えーと、Telvanni居住区のPlazaのTemporary Housingか…。Prazaは上流階級が暮らすトコだ。殺人したのにDukeが手を出さないってことは、Telvanniの貴族…がみみっちくTemporary Housingに逃げ込むワケないから、殺人犯の後ろ盾になってるんだろうな。二人はOathman(下から三番目)みたいだし。


 さっそく入ってみたが、ベッドが沢山並んでら。ああ、Temporary Housingって、Telvanniの部下が暮らす、寮みたいな場所なのな。右奥に、寝床が見える。ははあ、慌ててここに逃げたはいいが、ベッドが塞がってたから、隅に布団だけ敷いたのか。
 同じ部屋に居たTelvanniの戦士は、しかし、顔を背けた。見てみぬ振りか。俺の姿を見て、Morag Tongだと察したっぽいな。まあいいけどさ。


 奥に女性二人。こいつらがEthal SelothとIdroso Vendu。なりからして魔術師。魔法を唱えてくる前に倒すべし。挟まれたらピンチだが、魔術師は体力が無い。初手で一人を倒すのがベスト!

「あら、私は今は忙しくて…」

 顔を上げようとした女に歩み寄りながら素早く抜刀し、不意を突いて飛び掛った。


 そんなまさか、と、言いたげな女の口から、血泡が滴り落ちる。詠唱する暇も無く、深々と剣を突きたてられた女は絶命した。
 手早く剣を女の身体から抜き取ると、相棒の方に向き直る。


「Vendu! おのれ、死になさい!!」

 片割れのほうは状況に気づいたようで、スケルトンを召喚してきたが、はっきり言って、俺の敵ではなかった。振り上げた剣を打ち下ろすことも叶わず、一撃目で肋骨を、二撃目で頭蓋を断ち割られ、呆気なく無に帰る。


 しかも、何をトチ狂ったか、それとも頼みの綱の骸骨があの世に送り返されて慌てたのか、俺に向かって毒魔法を放つ始末。おねーさん、Argonianに毒は効かないよ。


 今回は二人とはいえ、体力もそんなに無かったし、魔法もアレだったから割と楽に片付いたな。ささっと血を払うと、Temporary Housingを後にした。
 うん、やっぱり黒服を新調して良かった。前のローブとかだと、返り血が目立っちゃうからなー。


戻る      進む

(2008.11.28)