安全と信頼は金では買えない

 そろそろ小遣いが欲しくなった頃なので、ポーションをギルドに納めようかとForeign Quarterのギルド前に行った時のことだった。
 ギルドの前でチラシを配っている男を見かけた。何してるんだと思いつつ、多少興味もあったので、帰りに一枚もらってみた。


「ほらほら、大切なことが書かれてるんだ。目を通しておいたほうがいいよ」

 大量に刷られている一枚をもらって、ついでにご飯でも食べに行くことにした。しかし、そろそろ冒険に出かけてみようかな。腕も鈍ってしまうし。


 警告!!!

 Aurane Frernisからものを買うな!!!
 彼女の扱うものは、不正なものであり、倫理にもとるものである!!!
 使っている材料は粗悪で危険なものである!!!
 この女の作るものを使うと、多大な被害を受ける恐れがある。
 何を持ってしても、彼女の店は避けるべし!!!


 これらの証言を参照すべし:
「ポーションを飲んだら病気になった。ランチが不味くなったじゃないかッ」――Grugbob G。
「彼女の扱う材料は、古くて腐っているように見えた。錬金術に用いるべきものではない」――Daren O。
「あの女のはらわたをぶちまけて、Nix Houndどもに投げ与えてやる」――Hlorngar F。

 …なにこれ。告発ビラ? 大分強い調子で書かれてるなあ。


 ふーん、と思いつつ、丸めて火種にでも使おうかな、と、紙をヒラヒラさせつつ店に入ってご飯を頼むと、マスターが俺の持っているチラシに気付いたようだった。


「あんたもそのチラシをもらったのかい?」
「ええ。名指しされてる人って、ここの区で営業している錬金術師ですよね?」
「そうだよ。そんなことをする人には思えなかったんだけれどねえ。最近不況だろう? そういう汚いことをする人も出るのかもしれないな」
「嫌な話ですよねえ」
「全くだよ。あそこの薬にはよく世話になったもんだが。まあ、幸いというべきか、常連や身内は飲んでも平気だったって人ばかりだったけれどね。自分も先週飲んだけれど、特に変な症状は出なかったな」
「へえー…」

 最近、外国人居住区の店の評判が悪くなってるよね。あのおっさんみたいなことをした人が他にもいるのかな。


 ここがその店だ。俺も一応錬金術で小遣い稼ぎをしているし、ここの店からは材料を買ったこともある。チラシのことを聞くくらいなら問題は無かろう。

「あらいらっしゃい。何かお探しですか?」
「いえ、こんなチラシをもらいまして。これって本当なんですか?」
「チラシ? 何ですって?」

 俺から渡されたチラシを見て、店主の顔が見る見る怒りに染まった。こりゃチラシが嘘か?


「なんて馬鹿なことかしら! 全部嘘っぱちに決まってるじゃないですか! どうしてこんなことに…って、誰かのやらせよね。Yui-Liさん、何があったのか話してくれませんか?」
「ええと、ここのPrazaのメイジギルド前にいたRedguardの男が配ってたんだよ」

 そう言うと、Auraneさんはしばらく考えていたが、何か決心したようだった。

「ね、この誹謗中傷の黒幕をつきとめてくれれば、それなりの報酬は支払うわ。このチラシを渡した人に、どういうつもりなのか聞いてくださらないかしら。全く、馬鹿馬鹿しい!」
「俺の本業は探偵業じゃないんですけれど…」
「Morag Tongの人だってことは知ってるわよっ! 別に殺せってわけじゃないから、いいでしょっ!!」

 とまあ、こんな感じで押し切られてしまった。まあ、斬った張ったな展開にはならなさそうだし、気楽に引き受けることにした。


 肝心のAuraneさんの腕のほうなんだけど、自分でレシピを書くほどだ。材料も悪いものじゃないし、やっぱりチラシが嘘みたいだな。

 チラシを配っていた人は、幸いまだいたので、早速つかまえて賄賂を捻じ込んでみると、あっさり白状した。


「まあ友よ、聞いてくれたまえ。最近不景気の波が押し寄せてて、懐がアレなのさ。だからBelanが俺ん手に金握らせて頼んできたときな、よっしゃーって飛び上がったよ。ほら、わかったかな? Belanがチラシを作ったんだよ。俺はただ配ってただけさ」

 Belanさん。お金で心を動かす人って、沢山かき集めたがるもんなんだよね。もうちょっと信頼できる人に頼めば良かったのに。


 さて、Telvanni区にいることをゲロってくれたので早速向かうことにした。透明化の呪いをかけたおっさんの店も近くにある。
 Belanは、「チラシを作ったの、あなただって聞いたけど」と言うと、最初はしらばっくれてたけれど、Morag Tongの人間だってわかると、あっさり崩れ落ちた。


「仕事をしても人が来ないの。でも、Rernisは繁盛しているのよ。ねえ、100Drake払うから、黙っててくれないかしら。どう?」

 Morag Tongもお金で雇われて仕事をするんでしょ、と言われた気がする。まあそうなんだけれどさ。でも、Rernisが繁盛しているのは、ポーションの研究をしたりと、せっせと努力して腕を磨いているからじゃないかな。

「折角だけれど、Auraneさんから頼まれてるんだ。彼女に教えるつもりだよ」
「なんですって? そんなことをされたら身の破滅よ! 私の信頼も壊れてしまうじゃない! あなたはいいわよね。部外者なんだから」

 そうは言ってもね…。

 Belanがチラシを作っていたことに、Auraneさんは激怒した。同業者のせいか、名前は知っていたようだ。

「Galuro Belanが? あの女狐! そんなことをする女だって思えなかったのよ! 判事に報告するわ! 全くアホくさい。助けてくれて感謝するわ。約束の金額よ」

 そう言って、Auraneさんは金貨の包みを握らせてくれた。
 Morrowindでは、外国人が商売をするのはなかなか難しいようだ。Auraneさんみたいに才覚があっても、悪意を向けられて潰される人もいるだろうし、助けてくれる人が必ずしも現れるわけじゃない。一体どれだけの人が、泣き寝入りする羽目になっただろうか。景気が悪いのはDagoth Urのせいなんだろうけれど、みんな、身近なところを叩きたがる。異物となれば尚更だ。

 あーやだやだ。


 これ以上市内をぶらついてると余計な騒動に巻き込まれそうだったので、気分転換にVivec近くにある洞窟Besharaに出かけてみることにした。


 中はごろつきの巣。


 いくら水中呼吸が使えるからって、Argonianに水中戦をしかけるのは無謀だよ。しかもそんな泳ぎにくそうな格好で…。



 弓矢もいいけど、投げナイフもいいね。


 お、レア本発見。TelvanniのCouncilerの名前が載ってるみたいだ。ジャンプのコツが掴めた気がする。ためになる本をゲットできて良かった良かった。洞窟内のものをまとめて売り払うといい金になったし、これでしばらくは困ることもなさそうだ。


戻る      進む

(2009.2.7)