ご利用は計画的に
Suranですることも終わったし、長居はしたくない街なので、さっさとAld'ruhnに帰ってきて、早速師に報告した。
ボロボロの格好で戻ってきたので「まさか殺したのか」と思われたようだが、それはたまたま街のごろつきに襲われて、と適当なことを言ってごまかすと、納得したようだった。
「偽のIncarnateを説得できたかね?」
「ええ。何とか納得してくれましたよ。自分が本物ではないと。これを所持してたんですが、Dreamerと接触があったようです。本人も正気に戻ったんで、Dagoth Urの影響からは間一髪で逃れたということなんでしょうね。これ以上変なことはしないと思いますよ」
そう言って、スリ取っておいた像を見せると、師はとても驚いていた。Nerevarine(仮)が出現したことは耳にしていても、Dagoth Urの手の者と接触していたことは知らなかったようだ。
「Elvil Vidronは悔い改めるだろうが、それにしても、君が彼を殺さなくて良かったよ。上手く立ち回ってくれた君に回復ポーションをあげよう」
それと、これは預かっておこう、と言って像を取ると、師は高価な体力回復のポーションをくれた。そんなに死にそうに見えるんだろうか・・・まあ、傷は塞がってるとはいえあまり激しい運動はしたくないのは事実だ。その後いくらか世間話をして、寺院を退出した。
うん、俺もNerevarineだと言われてるし、寺院がどう行動するか予測できてよかった。
Ordinatorのような武道派はともかくとして、普通の寺院の対応としては説得が基本方針みたいだな。それでダメなら黄色い救急馬車とか、しかるべき場所に監禁とか、あるいは殺害とかするわけだな。俺もどうなるかね・・・反体制派司祭に書類は貰ってるから、いつでもWise WomanのNibaniさんに話を聞きにいけるんだけど、まだ決心がつかない・・・。おんなじ人間のUmbraにさえ殺されかけたのに、Dagoth Urなんか相手に出来るんだろうか?
暗い考えがよぎったが、とりあえず渡されたポーションを飲みつつ、体力が戻るまでのんびり休むことにした。次にさせたいことはあるが、急ぎではないので、体調を整えてから来るといい、と師は言ったので、この間にUmbraとの戦いでボロボロになってしまった服を仕立て直してもらおうと服屋に行くことにした。
「あら、Yui-Liさん。何か買い物かしら? それとも・・・ちょっと頼まれてみないかしら?」
「この服を修復・・・って、何ですか、頼まれものって」
「あら! 大きな穴!! 何か鋭いものですっぱりやられた箇所がほかにも・・・これは新しく作り直したほうが早いわねえ。ああ、そうそう。頼みってのはね。Ienas Sarandasって人に錦織のシャツと絹仕立てのズボンを作ったのよ。で、半分は支払ってくれたんだけれど、残りは後で支払うって約束してくれたのね。だけど何週間経っても音沙汰なし。というわけで、ツケを払って欲しいの。Ienas Sarandasを見つけて、支払いが遅れてるツケ360Drakeを支払うか、ブツのシャツとズボンを取り戻してきて欲しいの。やらないかしら? ちょこっとサービスするわよ」
うーん、と考えたが、ここで暮らす以上は、多少は店主さんに便宜を図るのもいいかもしれない。俺も得をするわけなので、頷いて店を後にした。
その前に、エンチャント屋に行くことにした。同じSkar内にある店だし、ソウルジェム売ってないかなーなんて思ったのだ。
だが。
「ちょっとした仕事を引き受ける気はないかね?」
「…はい?」
「光源付加のエンチャントをかけた、なかなか意匠を凝らした靴を売ったんだよ。その輝きぶりといったら装飾としても実用としても使えるものでね――夕暮れで、夜が近いときなんかにいいものさ。それを買ったのがIenas Sarandasという奴でな。靴を買ったとき120Drake貰ったのだが、流行のファッションに120Septimでは足りない。そこでIenas Sarandasのところにいって、靴を返すか、ツケの120ゴールドを取り立ててきてくれないか。そうすれば君の働きと努力に応じて50Drake払おうではないか」
「あー・・・はい」
Skarを出て、俺はその辺の店に飛び込んだ。
「炎翡翠のアミュレットを顧客のIenas Sarandasに作ったのよ。配達したときに、最初の金額を受け取ったのね。でもあのIenasさんはまだ残りの金額を払ってないし、もうこれ以上待てないのよ。アミュレットを取り戻すかツケの50Drakeを支払ったら25Drake(略」
「Ienas Sarandasって奴を探してるんだ。とってもいいEbony鉱石の指環とGlass鉱石の指環を売ったんだがね、150Septimのツケがまだ残っているんだ。Sarandasを見つけ出して、Ebonyの指環とGlassの指環を(略」
「Ashlanderの手製のRacerの革ベルトを顧客に作ったんだがまだ残りを払ってないんだ。Ienas Sarandasのとこにいってベルトを取り戻すか50Septim(略」
なにやってんだそいつ(´д`;)
・・・話を聞く限りでは、着道楽で高級服だのアクセサリーだのを注文して最初のローンを支払ったはいいが、買い込みすぎて首が回らなくなったようだ。幸いというべきか、本屋と武器屋、錬金術店には彼は足を向けていないらしい。
取立て・・・というと話がやや物騒になってしまうが、今回悪いのは買い込みすぎたIenasのほうで、店主さんたちが代金を督促する権利は当然ある。俺もここで暮らす以上、商人さんたちからある程度信頼されておいたほうがいいし、多少のお金はもらえるしー、なわけで。
早速お邪魔すると、Dunmerの男が一人部屋にいた。着ているものからして、こいつが本人だな。
男はこちらの用件を察したらしく、ツケを催促しに来たんですね、と呟いた。
「ええ、僕、このあたりの商人さんたちにツケがあるんです。でも今すぐ支払えないかもしれないんです。ほら、持ち合わせがありませんし。でも、何とか工面の見通しはありまして、もうじき払えると思いますよ」
うーん、こう来たか。
とはいえ、借金逃れがよく口にする言葉だ。持ち合わせが無いのにあれこれ注文しまくったことをアホと見るか踏み倒し上等でやってるかのどちらかだが、いずれにしても、ここで俺が家を出たら夜逃げなんてことになりかねんな。商売柄、脅迫したほうが効果がありそうではあるが、それでは品が無い。
「そんなこと言ったってさ、これ以上待てないってみんな怒ってるんだよ。ほらー、『無駄に財を溜め、盗むこともせず、宝を無闇に追いかけません』なんてLord Vivecの宮殿前に書いてあるんだしさー。流行のファッションを追いかけるのは悪いことじゃないと思うけど、きちんとお金を出さないってのは道理に反するだろ。あんたのやってることは宝を無闇に追いかけて、お金を払わず、人が頑張って作ったもんをふんだくってるってことだよ。これ以上待てないけど、今ならツケを払うか商品を返すかで許してくれるっていうからさー、ねえ、考え直そうよ」
しばらくIenasは考えていたようだが、溜息をついて口を開いた。
「確かに、『・・・無駄に財を溜め、盗むこともせず、宝を無闇に追いかけません。しかし、喜んで家の暖炉の前で分け合いましょう』と言うとおりですね。Lord Vivecのお言葉である「寛容を称えよ」の文句を忘れていました。あなたのお陰で『Saryoni's Sermons』の言葉を思い出しました。僕は馬鹿でした。家族の財産や、大事にしていたものは捨てましょう。家と家族の大切な贈り物を無駄に浪費するくらいなら、自由に分かち合おうではありませんか」
え!? そ、そこまで言ってないんだけど。
「はい、これらの品を返してくださいませんか。錦織のシャツと絹織りのズボンはBivale Teneranに。Racerの革ベルトはTiras Sadusに。Ebonyの指環とGlassの指環はDayner Redothrilに。ブランドの靴はLlether Variに。炎翡翠のアミュレットはBevene Relethに。みんなAld'ruhnにいる商人ですから。品物を返却すると共に、謝罪の意を伝えてください」
「は・・・はあ。ちょっと待て、あんたが返しにいかないのか?」
「いえ、何をするべきか知りましたから。両親の家をTempleに寄付しなくてはなりません。それにTempleに入るつもりですし、そこで自分の人生を見定めることができればと思います。ありがとう、Yui-Liさん、あなたは素晴らしいことを教えてくださいました。今日のこの日から、この世の正直なる道を歩み、他者に尽くそうとおもいます」
「・・・・・・」
俄然やる気を出したIenasに、いや、商品を返してくれるだけでいいんだけど・・・とは今更言えず。頑張れよ、なんてお茶を濁してその場を後にした。
どうしよう! まさかあいつ、思い込みが激しくて流されやすい性格なんじゃないの!? 人の進路に口を出せないし、別に悪いことをするわけじゃないから黙ってたけど・・・。
俺はその場を後にして、品物を返して回ることにした。かなり反省して出家をするつもりらしいということを伝えるとみんな一様に驚いていた。そりゃそうだ。俺も驚いた。
その後、彼は言葉通りAld'ruhnの寺院の門をくぐったようだ。
人生何が起こるかわからんもんである。すったもんだの末、エルフの王の生まれ変わりだとか言われるようになったどこぞの元奴隷のように。
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(2009.3.10)