急がば回れ
ここを任されてるのはTharer Rotheloth師。早速挨拶がてら紹介状を差し出すと、「文武両道だな」というようなことを呟いた。
文武ねえ。俺は暗殺の腕も磨いてるが、回復魔法や錬金術も使えるので、僧侶っぽいことも多少出来る。Templeの業務は基本的に福祉関係なんだが、いざとなれば異端者を排除しなくちゃならんので、荒事が出来る奴もそれはそれで重宝するらしい。
Templeの歩く不祥事の俺としては、普通の業務に従事しているだけでも、荒事に従事しても、Templeの仕事を探れることになるので願ったりというところだ。
さて。師は紹介状を畳むと、俺を連れて一通り寺院を案内した後、「お手並み拝見」と言わんばかりに早速仕事を申し付けてきた。
「ならば、Tel Moraに住んでいる村人が病にかかったらしくてな。Tel Moraの地にはTempleが無く、病を治癒しに行けないのだよ。Tel Moraに行き、Letteなる者の病を癒しにいきたまえ」
「Tel MoraのLetteさんですね…一応確認しておきますけど、無償でいいんですね? 信者ですか?」
この地には二つの宗教が存在している。国教のTribunal Templeと、帝国系のImperial Cultだ。どっちの寺院もしくは教会に行っても病とか治癒してくれるんだが、正式に加入していないと、TempleもしくはImperial Cultどちらでも寄付という名の金を取られる。んで、Templeだと、特殊な力を持つ石碑に触れると色々恩恵を得られたりする。例えば俺の場合、内定目的とはいえ一応Templeに加入してるので石碑の使用には金がかからない。まあ、毒も病もかからんから精々特殊な恩恵を得るくらいしか石碑の使い道はないんだが…。
それはさておき、信徒かそうでないかを確認したかったのだが、師は意外にも首を振った。
「Templeが改宗を強要しないことは知っているな。だが、我々は信者ではない者にも善き行いをせねばならない。Letteは、Tel Moraに住むRedguardで、Swamp熱に感染している。Swamp熱を治癒したら、ここに戻って報告すること」
「わかりました」
体面上、「病気治したいならTribunal Templeに入ればいいじゃない」ってなどこぞの王妃みたいなことは言えんのだが、格好いいところを見せて、宣伝してこいってことか。遠路はるばる来て無償で治癒してくれるってんなら、そりゃ素敵に見えるよな。まあいい。別に、病で苦しんでる人を助けることには変わりないわけだし。でも、出先がTelvanniってことは、それだけが目的じゃないよね。
「Swamp熱は高熱と精神の錯乱が特徴だ。しかし、眼に見えて解りやすい兆候は無い。病気平癒の標準的な薬か、あるいは魔法が使えるならそれで治すことができるだろう」
「わかりました。病なら魔法が使えますのでそれで治しましょう」
というわけで、早速Tel Moraに行くことになった。Telvanniは魔術師一家なんだからポーション作るくらいお茶の子さいさいだしフツーに買えるだろ…と思うかもしれないが、それはお金を持ってる人の話で、ポーションは普通の人には高価な代物なのだ。Telvanniがポーション無料配布してくれるかというと、そりゃちょっと怪しいわけで。
容態を考えるとなるべく早く行ったほうがいいんだが、ただ、ちょっと問題がある。
Tel Moraってのは、島の北端とは言わないにせよ、かなり北のほうだ。こっちは島の南側。船便で行くと時間がかかってしまう。とはいえ、ここはメイジギルドも無いので、転送サービスも存在しない。
どうしようかなー、と考えてたら、そういやMarkをMorag Tong本部で唱えていたことを思い出した。
つまりこういうことになる。Recallを唱えればすぐVivecに到着するし、外国人居住区のメイジギルドでSadrith Moraの支部に飛べばいい。それから船便でTel Moraに行く。これなら時間を大幅に短縮できる。
逆に、帰りはVivecから船なりSilt StriderなりでMolag Marに行けばいいので、帰りも時間をかけずに済む。
急がば回れ、とは、まさにこのこと。ふっふっふ。
というわけで、早速Recallを唱えて、
メイジギルドに行き、
Tel Mora行きの船に乗った。
一応TempleもDunmer系なんだからどうしてTelvanniの縄張りにTempleが無いのってな話なんだが、Telvanniって何ていうか、自分たちで魔法使えるし、超保守的な所謂「典型的なDunmer」って奴で、外部の人間をとにかく嫌う。友好的なギルドとか一切無し。TempleもRedoranやHlaaluと一緒に非友好的な団体リストに入っている。VivecにあるTelvanni区のTempleなんて蜘蛛の巣張ってる有様だし。逆に、他のHouseはTempleと仲が良い。特に、Buoyant ArmigerというTemple系の派閥があるRedoranは友好的なHouseだ。Indorilもそうだっけ?
おっと、話が逸れた。
簡単にまとめると、わざわざTelvanniの敷地に行って病人治して来いってのは、深読みするに、Telvanniに対する示威の意図もあるんだろう。下品な言い方をすれば、嫌がらせに人の家の門扉にチラシを貼ってとんずらするようなもんだ。ついでに、Templeがいかに素敵かアピールできるわけだし。
表向きは病の治療。裏の目的はTempleの宣伝。ついでにTelvanniへの嫌がらせ。一石三鳥。Rotheloth師はやるなあ。俺もTelvanniは好きじゃないしー。
ニヤニヤしながら船着場を降りたはいいが、残念なことにすっかり日が落ちてしまった。周囲の家々からは夕餉の炊煙が立っている。
いくら病を治しに来たといっても、みんなが夕食を食べてるような時間にLetteさんを訪ねるのもマナーがなってないし、病床の身ゆえ、食事もそこそこに就寝している可能性もある。
とりあえずここで船の切符を売ってるおねーさんにLetteさんの家の場所を聞くだけにして、また明日出直そうかと思ってると、意外な返事をされた。
「あの、Letteさんを訪ねに着たんですけれど。家がどこにあるかご存知ですか」
「あら、あの人なら北の海岸にいるわよ」
「え? こんな時分にですか」
「そうなの。病気なのに無理しちゃって。Redguardは身体が強いらしいけど、流石にねえ・・・貴方、彼女の知り合いなら止めるように言ってくれないかしら」
海岸・・・ってことは、はてさて。潮干狩りでもしてるのか、はたまた海草でも拾ってるのか・・・。でも、ただでさえ夜風と海の水は身体を冷やすのに、まして病身ではますます熱が悪化してしまう。明日をのんびり待っている暇は無さそうだ。RedguardはArgonianみたいに、病気にも強い種族みたいだから、無理をしてるのかもしれない。
「あら、どちらさま?」
北の海岸にいたRedguardの女性は、見知らぬ男を見て気だるげに頭をもたげた。簡単に自己紹介して、本題に入る。
「Swamp熱を患っていると聞きました」
「ええ、Swamp熱にかかってるわ。めまいもするし、かなり良くないわね。とてもだるいの。でも、すぐに良くなるんじゃないかって思う。ここはTempleも無いし、僧侶がこの辺りをぶらついてるなんて見たことないしね。それとも、あなた、私を治してくれるのかしら?」
「ええ。こう見えて実はTempleの者なんです」
「あら・・・本当に? まあ、あなたTempleからやってきたの? わかったわ。やって下さらないかしら」
「わかりました。呪文をかけますからじっとしててくださいね」
そう言うと、Letteさんはふらつきながらも真っ直ぐ立って俺を見据えた。
俺は軽く手を組んで、練った魔力を彼女に向かって放出する。
一瞬の光が彼女を包んだ後、Letteさんは驚いたように自分の身体を見回した。
「気分はいかがですか?」
「ええ! とっても。ありがとうございます、Yui-Liさん」
どうやら病気は治ったようだ。病後で身体が弱ってるところまでは魔法で癒せないから、無理はせず今日はゆっくり休んだほうがいい、と言い置いて町に戻った。これにて師のおつかいは完了。
とはいえ、まだ寝るには早い時間だから、その辺の店でも見て回るかな。
なんて思いつつ、その辺の扉をくぐると、店主らしき女性がいきなり俺に泣きついてきた。
「Corprus Stalkerをなんとかして!」
「Corprus?」
女性はおいおい泣きながら俺に話す。そういえば上からうめき声が聞こえるんだが・・・。
「みんなで上の階に閉じ込めるまではいったのよ! けど、みんな病気になりたくないから近づけないの。いつもならMaster Aryonが何とかしてくださるんだけど、最近忙しくなさってるようで・・・ねえ、どう? やってみないかしら?」
「んー。まあ、Argonianは病気にかかりにくいですしね」
遠距離攻撃が得意な魔術師のお膝元だってのに、Masterクラスじゃないと何とか出来ないなんて、だらしないのもいいとこだ。まあいい、ついでにTempleの評判上げちゃえ。上手くいけば貸しにもなるだろ。Telvanniが恩を感じるかはアヤシイが。
Dagoth Urの犠牲者だと思うとあまりいい気はしないが、俺も殺す以外に助けようがない。一撃で済むようにしてやった。
その後は一緒にTelvanniのガードに通報したり、死体を片付けるのを手伝ったり。ついでに服も買った。一張羅がダメになるとしばらく暗殺者スタイルですごさにゃならんくなるから予備が欲しかったのだ。黒い布地なら汚れも目立たないし、なかなか気に入ったぞ。
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(2009.3.28)