嵐の口付け
Mount Kandから戻ってきたはいいが、一日がかりの強行軍だったため、帰る頃にはくたくたになっていた。戻ってすぐにベッドに倒れこみ、起きると既に日が高くなっていたくらいだ。ご飯を食べたら早いところ報告しに行かなくちゃな。
現在は巡礼者用の宿を借りて下宿している。Templeは今、ベッドに空きが無いので、別のところで寝なくてはいけないのだ。食事なども頼めば出してくれるから、楽っちゃ楽である。まあ、巡礼者用の宿は寝るだけ用といった感じだからとても狭いけど、壁があるから着替えで人目を気にする必要が無いからいいか。まあ、獣種なんて裸でも何も言われないらしいけどな。
食事を終えると、上層の寺院に行き、Mount Kandの巡礼に行ったことを報告する。嘘ではないことを証明するために、多少質問されたが、Atronachや石碑のことなどを話すと、師は納得したように頷いて告げた。
「そうか。Mount Kandにて、謎かけでDaedraに打ち勝ち、Vivec様の恩恵を授かったようだな。お前の成功を祝福しよう」
「ありがとうございます」
「・・・今は特にすることもないから、そうだな。南に行き薬草でも摘んできてくれたまえ。この辺りでは傷に効く薬草はあまり採れないからな」
というわけで、旅の用意を整えてTel Branora方面に向かうことになった。この辺りは小島が多く点在しており、岩礁も多い。船乗りにとっては難所の一つになっているようだ。とはいえ、ここまで南だと、灰が降ることもほとんど無い。それに比べれば、Molag Marは、人も建物も、落としきれない灰の匂いを漂わせていたし、眺めてみても、枯れ木と間欠泉、岩の裂け目から沸き立つ湯気がもうもうと立ち上がり、彩の無い景色がどこまでも続いていた。
扉の前に、骨壷やら何やらが散乱しまくっているいかにもな感じの墓に潜ってみたが、案の定だった。不謹慎なパーティ会場に乱入し、ちゃっちゃっと退治する。Daedraの心臓や「塩」などは優秀な錬金術の素材となる。いいお土産が出来たな。でも何でDaedraは人間を食べたがるんだろう。流石に俺は人食べたことは無いし、そんな気も無いんだが、美味しいとは思えないんだけどなあ。
最近良く思うんだが、大抵の墓はアンデッドが住み着き、そうでないならDaedraか吸血鬼の巣窟と化している。アンデッドについては、氏族以外が侵入したってことでご先祖様が怒ったとか説明がつくかもしれないが、それを差し引いても墓として機能していない墓が多いなあ。
俺が入った墓も、そのうちの一つであるはずだった。何の変哲も無い、普通の墓。
しかし、その奥には、厳重な鍵がかけられた扉があったのだ。普通、こういうところの墓は簡単に開錠してしまえるのが多い。咄嗟にハイクラスの開錠魔法を唱えようと思ったが、ふと、あのNordのおじさんのことを思い出した。Telvanni居住区の居酒屋で、お酒をおごってくれないかと頼んできたあの人だ。故郷に帰るからと言って、俺にNordの宝の在り処と、古びた鍵を教えてくれた。そう。Tel Branoraの近くにあるとかいう・・・。
「!!」
ポケットの奥にしまい込まれてた鍵を探り出して鍵穴に差し込んでひねると、「カチッ」という、小さな、快い音が響いた。これは・・・当たりか。以前、Urshilaku Campの近くの遺跡の地底に眠っていた名も知れぬ貴人のことを思い出した。思わぬ高揚感に心臓が跳ねる。
「うわあ」
地下の扉を抜けた先には、思いもよらぬ地底迷路が広がっていた。墓荒らしを迷わせるために作ったと見える。これだけの規模の墓を作るのに、一体どれだけの金がつぎ込まれたことか。Nordの王、Haraldの庶子の、Olmgerd the Outlawの墓。庶子とはいえ、いい待遇受けてるな。ええと、Harald王が死んだのが第一紀221年で、SkyrimがMorrowindとHigh Rockを征服したのが同240年(と、メイジギルドの講義で教えてもらった)から、その辺の年代の墓かな。俺は年代鑑定には明るくないから、その辺の詳しい調査は専門家に任せたいが。
む、早速お出迎えか。
そっちのお迎えはまだいらないってば。
迷路を真っ直ぐ進もうものならドツボにはまりそうだったので、Levitateの薬を飲んでショートカットすることにした。この扉も、おじさんに貰った鍵で難なく開いた。
扉を開けた次の瞬間に目に飛び込んできたものに、言葉を失った。地底湖に浮かぶ船の上には、Olmgerd the Outlawと思わしき白骨化した遺体と、副葬品の鎧やポーション、そして「Stormkiss」。
元がNord様式の戦斧で、EbonyやDaedric鋼で作られたものではないから、武器として使うならば、それほど威力があるわけではない。同じNord関係のアーティファクトなら、現在俺が所有してる「Fists of Randagulf」のほうが強いエンチャントがかけられている・・・だが、この斧の価値は威力だけでは測れない。
見たことは無いが、多分バイキングの船ってやつだな。船の中に、ご丁寧に水に浮かべて埋葬されていることを考えると、死をあの世への船出ととらえているということか?
Nordの文化や死生観が現れているようで、中々興味深い。上に作られているDunmer様式の墓は、Nordの墓と気付かれないためのものなのかも。でなければ、Nordの王の息子の墓だ。墓荒らし対策というのもあるかもしれんが、反Nordの機運が高まった場合、Dunmerに壊されかねない。実際、NordとDunmerとの間には戦争も起きてるし、今だって中は良好とは言いがたいしな。まあそこまで考えてたのかはさておき、結果として俺が来るまで墓は破られなかった。めでたしめでたし。
後日、俺はメイジギルドに墓の所在を記した手紙を送付した。これだけの墓だもの、荒らしてしまうのはつまらないし、かといって誰にも注目されずにこのままひっそり、というのは、もっとつまらないからな。
おじさん、ありがとう。お酒のお返し、凄く大きいものだったよ。
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(2009.4.20)