吸血鬼狩り・前編
「・・・というわけで、特に怪しい陰謀が渦巻いてるとか、そういうのはありませんでしたよ。Sixth House Cult以外は」
師は俺の報告に「そうか、近頃は物騒になってきたからな。それは良かった」と呟いて何やら考え込んでいる様子だ。うーん、普通なら一部隊を送り込んでもおかしくない規模の基地を一人で壊滅させたんだからな。ちょっと驚いてるのかもしれない。
「その規模の基地を一人で潰せるのなら、死霊術師の討伐も出来るだろう。Delvam Andarysという死霊術師にTempleより天誅を与えてほしいのだがな。Maiwaに住んでいるのだ。南の小島に住んでいるという情報を得てな」
「Mawia? 南の小島?」
俺の脳裏に、いつかの光景が蘇った。
その日、薬草摘みに出かけたはいいが、夕方になってしまったので、雨露だけでも凌げそうな場所で野宿でもしようかと思っていたのだが、見事死霊術師の根城を引き当ててしまったわけで。
薬草摘みがそのまま死霊術師討伐になってしまったわけだ。特に報告しなかったのだが、そのせいで情報が行き違いになってしまったようだ。
まあ多分、Telvanni系の魔術師なんだろうな。こういう建物に住んでるのは大抵がTelvanniだから。
祭壇には、骨がきっちり組み立てられた状態で安置されていた。これから蘇生の儀式でも行おうとしていたのだろう。
というわけで、既に討伐をしてしまったことをRotheloth師に改めて報告すると、大して気にもせずに「既に天誅を下したのかね? では前倒しして次の任務にしようか」と話を進めた。
「次の任務は、Vvardenfellの吸血鬼を一掃することだ。Galom Darusという場所が吸血鬼の根城になっているという情報を掴んだ。Templeの最も素晴らしい吸血鬼ハンターの聖なる武具を持っておきたまえ。準備が出来たら、光より隠れてDwemerの遺跡Galom Daeusに潜む古の吸血鬼Raxle Berneを倒しに行きなさい。Uvirith's Graveの場所を地図に記しておこう。ここから溶岩が川となって流れる場所まで南に下れ。その川を西のほうへと伝って終点まで行くこと。もう一つの溶岩溜まりに辿りつくころにはGalom Daeusは見えているはずだ」
「Raxle Berne・・・Berne Clanですか。親玉の根城を襲えということですね」
「Quarraは戦士、Aundaeは魔術師系の吸血鬼の一族だが、Berneは隠密を好むそうだ。あまり戦いは長引かせないほうがいいだろう」
吸血鬼は人間社会からの追放と引き換えに多大な恩恵を得ることが出来る。長く生きることが出来るし、戦士にも、魔術師にも、暗殺者にもなれる。俺が相手にするのは暗殺に長けた者が主に集まる血統のようだ。そうこうしているうちに、師が指環と戦槌、ベルトを持ってきて渡してくれた。使った後は取っておくといいと言ってくれた。今回の報酬も兼ねているらしい。前倒しってことは、かなり気をつける必要がありそうだ。
Uvirith's GraveはTel Fyrの西にある。Sadrith Moraまで行って、徒歩で本島まで行かなくてはならない。人里離れた所に根城はあるようだ。まあ、人里近くにあったらそれはそれで大騒ぎになるか。
吸血病は血友病の一種で、血液(唾液とかも含まれるだろうか)を媒介として伝染する。つまり、夜寝ているときなどに吸血されたり、戦ったりして血を浴びると感染の恐れがある。ただ、空気中に吸血鬼のもとが飛散して、それ吸ったら発症とかそういうことは起こらない。だから感染力それ自体は高くないし、潜伏期間中ならば薬を飲むか寺院で病気平癒を祈祷するかすれば簡単に治すことができる。でも、発症してしまったら現代の医学では治せない。
ただ、人間離れした力と不死を得られるから、わざと吸血病にかかる者が後を絶たないらしい。寺院も度々兵を送っては根城を殲滅してるのだが、それでもいたちごっこが続いているのが現状なのだ(と、師が教えてくれた)。
そうこうしているうちにTel Fyrの塔が見えてきた。休憩ついでに顔を見せに行くかな。
見舞いがいないせいか、Yagrum Bagarnさんは俺が来てくれたことを喜んでくれた。
「こんにちは、Yui-Li君。具合はどうかね?」
「特に変わったことはありません。すこぶる元気ですよ。研究はどうですか?」
「ちょっと悪いニュースがあるね」
「悪い?」
変人先生はうーん、と頭を掻いて苦笑した。
「薬が他の患者に効かないみたいなんだ。二人の末期患者に試してみたんだが、飲んだ途端死んでしまった。ニンニクで炒られたカタツムリよりもしぼんでね」
「うーん、じゃあ俺はCorprusじゃなかった?」
Divayth Fyrは首を振った。間違いなくCorprusの症状だった、と。
「君には効いただろ? 不思議なんだよねえ。他の患者にも効くはずなんだが。勿論、注意して研究をすることにするよ。きっと君は特別なケースなんだろうね」
「特別な、ね・・・」
薬草を刈り取っている間、ぼんやりと、「どうして俺は特別なのだろう」ということばかりが頭に浮かんだ。薬が効いたのは単なる偶然に過ぎなかったのか? それとも、俺と他の患者を分ける、何か決定的な要素があるんだろうか? そればかりが。
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(2009.5.22)