高い代償
吸血鬼Berneの血統を滅ぼすという目的を達成したので、商人に依頼されていた仕事をこなすことにした。盗まれた荷物を取り返すこと。相手はそれなりの腕を持つ。手際も良いことから、何度もこうした強盗行為に及んでいるのだろうか。展開次第では流血沙汰になるかも、と思いながら、協力してくれそうな人の所にこっそり行くことにした。Wise Womanさんのところだ。ここのキャンプはリーダーに問題はあるようだが、あの人ならこっちの話も聞いてくれるだろう。
Wise WomanのManiraiさんは、俺が来てくれたことに喜んでくれた。頃合を見計らって、強盗に遭った商人のことを話すと、さっと顔が曇った。
「貴方が話してくれたことに心当たりがあります。TintiとHairanは誉れ高い戦士ですし、決して盗むようなことはしません。多分その商人は彼らを邪魔したか、頭から盗みを働こうかしたのでしょう。勇気があるなら、彼らと話し合ってください。二人はここにいますから」
はて、このキャンプの有様については以前Wise Womanさんの口から聞かせてもらったし、商人さんの話では強盗に遭ったみたいなことを言っていたはずだから、てっきり・・・まあいいか、とりあえず話すだけ話してみよう。
テントを出ると、それらしい二人組みが眼に入った。この人たちがその問題の戦士か。なかなか隙が無いな。そう思ってると、取り付く島も無いような高慢な態度で「無礼者のよそ者め、失せろ」と言われた。かなりちょっとムっとしたが、商人とその積荷について何か知っていることがあるかどうか尋ねてみた。
「この辺りは我らの土地だ。だから、その商人が運んでいたとかいうGuarの皮も我らの家畜の皮なのだ。取り戻すのはごく当たり前のことでもあるし、何か言われる覚えも無いな。何故そいつがお前などを使い走りにさせたのだ? 自分自身さえ守ることもできないというのか? まあ・・・あいつの代わりに友誼を結んだお前がこうして来たのだから、皮は返してやろう」
おお、てっきり金銭か何かでも要求されるかと思ったが、意外にも話がまとまった。同じ鎧を着てるんでどっちがどっちかまでは分からんが、重そうな皮の包みがその手に差し出されてる。良かった良かった。
「ありがとうございます。商人さんに皮を返し――」
「結構なことだ。二度と我らの土地には足を踏み入れさせないとその商人にみっちり教え込んでやろう! 俺たちは情けもかけんし、お前と縁があろうとなかろうと関係ないのさ! そら、逃げるがいい!!」
皮の包みを持たせられて無防備になった瞬間、背中から矢を打ち込まれた。痛みと衝撃で足がふらついたが、何とか踏みとどまり、続く二射目をかわす。ああもう、Wise Womanさんの言葉だから信じたのに!!
まあ、確かに不意打ちされたのは痛かったが、こっちもそれなりに戦闘の経験は積んでいる。飛んでくる矢をよけながら壁際に追い詰めて一人ずつ刀で斬りとばす。死んだことを確認すると、魔法で姿を消して、騒ぎを聞いた誰かに見られる前にキャンプから逃げ出した。当分ここには近づかないほうがいいな。よそ者を嫌うキャンプらしいんで、人目に触れないよう忍んでやって来て幸いだった。
完全に人気の無い場所まで無視の呪文を何度かかけ直しながら走り、ようやく商人さんのところまで帰ってくることが出来た。やれやれ、予想はちょっとしてたけれど、まさか不意打ちでしかけられるとは思わなかったな・・・あいつらの言葉ではないが、商人さんはこの辺りには近寄るべきではないだろう。皮を手渡して何があったか手短に話すと、商人さんもきちんと耳を傾けてくれたようだった。じゃあ親御さんのところに報酬をもらいに行きますか。
鳩でも飛ばしたのか、俺が街についた頃には事件のことは親御さんの耳に入っていたようだった。
「息子が仕事のことで助けてくれたと話してくれました。ご助力感謝いたします。おかげさまで仕事も上手くいきそうです」
と、こんな感じで丁寧に礼を述べてくれて、200ゴールドの包みを頂いた。仕事とかで最初からそうと決まってるならまだしも、成り行きで人を斬るのは後味が悪くないでもない。大切に使おう。
そこからRecallの魔法で戻り、船に飛び乗ってMolag Marの寺院に帰還して師に吸血鬼を退治したことを報告し、ついでに頂いた戦槌などを返却した。使わないものがあっても宝の持ち腐れだからなー・・・。他の才能ある奴に使ってもらったほうが武器も喜ぶだろ。前払いの任務だからこれ以上報酬はもらえないけれど、吸血鬼の奴らから高級武具は貰ってきたから、元は十分取れてる。
「任務ご苦労だった。ところで、お前が難しい問題を片付けてくれたお陰でこちらのほうも随分楽になってな。Ald'ruhnのTuls Valen師が邪教徒討伐の任務を受けられる者を欲している。Berneの時と同じく武力を必要とするものだから、行ってみるといい。一人で吸血鬼の根城を殲滅したお前なら無事に戻ってこれるだろう」
「はい、わかりました。今までお世話になりました。ありがとうございます」
寺院のみんなと挨拶を交わして、そんなに重くない荷物を抱えてMolag Marを後にした。
掃除しても掃除しても灰が屋内に入り込んでくるような街で、奴隷商人もいたからそんなにいい街だなんて思えないけれど、やっぱり異動するってなるとちょっと寂しいな。永遠の別れというわけでもないにしても。
「こんにちはー」
「よく来たな。Berne Clanを潰したそうではないか」
「本拠地を潰しただけで、手足はまだ残ってますので油断はできませんよ・・・それで、討伐任務とMolag MarのTharer師から伺いましたが?」
「腐りきった儀式を行っている邪教が、ここから目と鼻の先にあるHassour洞窟という場所に巣くっていてな」
「相手はどんな奴らなんですか?」
師は忌々しそうに歩き回りながら説明した。そういえば、ここを離れる前に「やってほしいことがある」みたいなことを言われたっけ。大分前から位置は突き止めていたんだろうな。
「Hassour洞窟にいる邪教徒どもめ。Hassourへ行き、Tribunalの鉄槌を下せ。この教団の指導者はDagoth Fovonという」
「Sixth House Cultですか、またけったいな教団ですね・・・場所はどこですか?」
「ああ。Hassourに行くには、Balmoraまで行き、そこからMoonmothの駐屯地まで東に歩けばいい。Foyada Mamaeaに入ったら、南にまっすぐ行けば辿りつく」
「それ、ここから目と鼻の先とは言えませんよ」
地図を見ればわかるが、Vivec市のほうが位置的には近いくらいだ。それを目と鼻の先と言ってしまう師の距離感覚はどうかと思うが。Balmoraの目と鼻の先と言うならともかく。道に迷っても知らないぞ!
「そ、それくらい目障りだということだ! 迷わず行けるな?」
「はい。それは大丈夫です」
Balmora近辺はよく知ってるんで、帝国軍の駐屯地まで迷わず行ける。ただ、Balmoraは洗脳されたSleeperがいて、俺の顔を覚えられてしまっているので最近立ち寄ってない。襲われても困るし、街をぶらぶらして装備を整えることも出来そうに無いな。買えるものはAld'ruhnで買っておくか。
刀や防具を鍛冶屋に出して、飛び道具を買うついでにAld'ruhnの支部に顔を出して、Mages Guildの転送サービスでBalmoraに送ってもらった。外に出たらすぐに無視の呪文をかけて街を出る。
特に迷うような道ではない。溶岩が流れて自然に出来た道は、岩が多少ゴロゴロして空気も灰っぽくはあるが、干上がった川のように真っ直ぐだ。
古い溶岩の川の終わりに、その洞窟はあった。邪気が外からわかるほどムンムン・・・ではないが、気を引き締めてかかろう。
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(2009.7.9)