狂気と正気


 洞窟内は地下を流れる溶岩からあふれ出る熱気で乾燥している。奴らが好んで用いる赤い蝋燭が何とも不気味だ。
 ここでのさばるのも今日限り。Hassour洞窟に潜むSixth House Cultの首領を殺すことが任務だが・・・。


 洞窟内は洗脳されたDreamerや、Ash ZombieやAsh Slave、異形の僧官などで溢れかえっている。どの道彼らは言葉を尽くしても、術をかけても救うことが出来ないし、一人でも逃すとどうなるか分からない。今日ここで、みんな死んでもらう。


 時折、何かに祈りを捧げるように手を合わせて跪き、ここではないどこかを仰ぎ見る元人間たちの姿が目に入る。彼らにはDagoth Urの姿が見えているのだろうか。


 信者たちを斬り殺しながら奥に進むと、溶岩が流れる広間に入った。物陰から目を凝らすと、祭壇らしきものと赤い像が目に入る。


 祭壇に祈る僧侶・・・ここが最深部らしいし、あれがDagoth Fovonで間違いないな。Dagothという家名がついてるからには、恐らく戦前からHouse Dagothの者だったか、何か功を立てて家に入れてもらったんじゃないかとは思うが。
 けれど。
 死人のように生気のない手足、戦慄を覚えるようなねじれた容貌・・・ああいう姿になることが祝福と呼べるのだろうか。


 俺は否定するね!


 多少呪文を食らったが、物陰から突然姿を現した俺に対処しきることはできなかった。手下も周囲にいなかったしな。肉体的にも魔力的にも超人的な力を授かってはいるんだろうが、注意力は人並みらしい。これでこの洞窟のSixth House Cultの連中は壊滅した。


 奥には、宝石などの供物と共にTribunalの聖典が置かれていた。敵対する神の聖典が置かれていることに違和感を覚えて何となく手に取った。Tribunalの三十六巻あるうちの聖典の、最後の巻だった。

 これらはRedsdaynの徒然なることである。当時、ChimerとDwemerは知恵と慈悲深きALMSIVIと、彼らのチャンピオンであるHortatorの法の下に暮していた。しかし、Dwemerは愚かになり、主に反旗を翻した。
 要塞にて、自走する金色の投石器と強大なAtronachたち、炎を吐くもの、歌を引き裂くものと共にやって来た。彼らの王はDumac Dwarf-Orc。しかし、そこには高僧の災厄たるKagrenacがいた。
 Dwemerとの戦で山々の地下、そして地上は荒れ狂い、Kagrenaの応援に北方の者どもが駆けつけて、Ysmirを再び呼び出した。Chimerの軍勢は不死なる奴隷のように導かれ、HortatorのNerevarは、Ethosのナイフと彼の斧を交換した。彼はRed MountainにてDumacを斬り飛ばし、初めて心臓の骨を目の当たりにした。
 真鍮で作られた人間たちはMourning Holdの十一の門を破壊し、それらの後にDwemerの技師たちがばらばらとやってきた。Ayemはマントを投げ捨てて、Three in OneのFace-Snaked Queenと化した。彼女を見た者は、星の導きによって打ち倒された。
 海の中では、Sehtが硝子と珊瑚の城で作り上げていた軍勢を蜂起させてやって来た。ぜんまい仕掛けのDreughたちはDwemerの戦人形を嘲り、海から上がって相対した者を海の中へと引きずり込んで、逃すことがなかった。
 HortatorがSharmatを探して奥まで入り込んでしまった時、Red Mountainは噴火した。Dwemerの高僧KagrenacはVivecの姿に似せて作ったものをひけらかした。それは歩ける星であり、Triuneの軍を燃やし尽くし、Velothの中心地を粉々にし、Inner Seaを作り出した。
 ALMSIVIの面々は共に一つとなって飛び上がり、世界に六本の道筋を示した。Ayemは星からその火を取り、Sehtはその神秘を取り、Vehkはその足を取った。それはMolag Balの贈り物を受ける前に作られたものであり、そして真なる法による破壊、大いなる鉄槌の音が響き渡った。Dwemerの魂が動けなくなると、この世から消えていった。
 Resdayniaはもう存在しなかった。その地はあらゆる愚か者の過ちの手から救い出された。ALMSIVIはRed Mountainの灰がDwemerの災厄であり、中つ世の全てに望ましい影響を与えることを知っていたので、始原の地から網を手繰り寄せてそれをとらえて食した。ALTADOON DUNMERI!

 なるほど。Red Mountainの戦いについてか。何分どこにも全巻が揃ってないし、俺も飛ばし飛ばし読んでるせいで前後の関係性がさっぱりわからなくて困ってるんだが、この巻の内容は割りと纏まってて助かる。だが、戦争の原因がはっきりしないし、この巻に限ったことではないが抽象的な表現が多すぎてDwemerがどうしていなくなったのか判然としない。
 どうもDwemerはヒトガタ・・・機械人形を作るのに長けてて、(遺跡を見れば今でも稼動中のやつがあるし)それがChimerに生理的嫌悪を与えていたらしい。元々火種は抱えていたようだ。その火種に盛大に油をぶちまけたのはLorkhanの心臓だろう。ここでは語っていないが。
 Dwemerの消滅については、ALMSIVIがどうこうって書いてあるんだから、この物語ではAlmalexiaとSotha SilとVivecが何らかの魔法を使ってDwemerをこの世から消し去った、みたいな感じなんだろうけど。これもさっぱりだな。Tamriel七不思議の一つに入れるんじゃないか?

 さて、NerevarはDumacを斬って、「心臓の骨(heart bone)」を見て、そこからどうしたんだろう。Sharmatだから・・・つまりDagoth Urを追いかけてRed Mountainの奥深くに入り込んでそのまま消息不明になっているが。Dagoth UrとNerevarは仲良く生き埋めになりました、ってか。
 一つ言えるのは、本や伝承によってNerevarの死に方が微妙に違ってるってことだ。これだけ色々あると、一つくらいは当たってそうなもんだが。Holamayanの僧院長のGilvasさんもNerevarの死はこれだ! と断言していないからなー。死因次第で国が揺れるくらいとんでもないことになるから軽々しく決められないんだろうけれど。あの人、Dagoth Urが単なる加害者ではない、とは言ってるけれどね。

 ただ、可哀想だとはちょっと思っても、やってることは否定する。


 ちょっと覗くと、この通り「謎の肉」がごろごろ。ああ、Yagrumさんところも切り出した肉片は置いてあったが・・・こんなに量は無いし、研究用だろう。

「新興教団のSixth Houseのことを聞いたことがあるかい? 奴らは洞窟にみんなでうずくまって、自分の肉を切り取って食べてるそうだ。それがCorprus病――肉体を強くして発狂させるんだってよ。肉片を切り取って、他の奴の肉片を糧にして、逞しく、より素晴らしい存在へとな。ガードが言ってたよ。『捜査中だ』ってね。そうとも、それを聞いて安心だよ」


 夢で洗脳して、人肉を口に押し込ませるのが祝福?
 そんなふざけた話は聞いたことが無いな。Dagoth Urは俺を迎え入れると言ってやがるが、こちらから願い下げだ。


 * * *


 あまり爽快感の無い任務だったが、いいことが一つだけあった。
 街に帰るころには疲れていたので、うっかり透明化の呪文をかけることを忘れていたのだ。
 こちらにふらふらと向かってくる人を見てつい「大丈夫ですか」と声をかけたらいつぞや俺を襲ってきた奴だったから「しまった!」と思ったんが、意外なことに殺気が完全に消えていた。


「あの、まるで夢・・・Sixth Houseの恐ろしい夢から覚めたような感じがするんです」
「Sixth Houseの? そういえば、Sixth Houseの連中を倒してきたけど・・・」
「それは一体・・・自分は・・・呪文で洗脳されていたんですか? そしてそれはSixth Houseの教徒どもの仕業だったと? なんということでしょう。何ということをしていたのか・・・何もしていなければいいのですが・・・でも、お陰様でありがとうございました。無作法をお許しください。感謝してもし尽くせません。その代わりみんなに、あなたが自分の命を救ってくれたことを知らせようと思います」
「え? あ、はあ。もし気分が悪ければ寺院に相談しに行ってくださいね」


 そういえばもう一人Sleeperがいたな、と思い出して、恐る恐る様子を見に行ってみると、こちらも正気を取り戻したようだった。
 あの洞窟の奴が人・・・もっと言えば、Dunmerを洗脳する夢を飛ばしていたようだ。俺の見た夢がそいつらの仕業か、あるいはDagoth Ur直々によるものかは知らんが。
 正直なところ、救える人はいないと思ってたから、びっくりしたし、何より嬉しい。ほとんどの人は無理矢理信者にさせられた人たちだから、いくら暗殺者だからとは言っても、そこまで殺しを割り切ることは出来ない。・・・みんなが聞いたら、甘いと笑われるかな。


 * * *



「ふむ、Dagoth Fovonを倒してHassourを邪教より浄化したようだな。この教徒どもは時折Blightの病を振りまく。これらのポーションと巻物が役に立つだろう」
「ありがとうございます」

 病にはならない体だが、公にすることも出来ないのでいつもの通りありがたく頂いた。

「ところで、BalmoraでDagoth Urの洗脳の影響下にあったらしき人たちが今回の作戦で正気に戻ったようです。Ald'ruhnや他の街では、何か聞いていますか?」
「そういえば、Balmoraの他にPelagiadと、Tel Aruhnの暴力事件の件数が減少したと聞いている。もしかしたら、Dagoth Fovonを倒したことが影響を与えているかもしれないな。Sixth House Cultの教団を見つけたら、報告するか、そのまま殲滅を図ると町の平和にも繋がるだろう。ところで・・・」
「また任務ですか?」
「いや。今君に任せたい仕事は無くてな。Ghostgateの寺院か、それともVivecの寺院なら君の仕事もあるだろう」
「つまり・・・異動ですか」

 師はちょっと困ったように手を振った。

「お前は寺院への貢献も十分にしている。しかし、Vivecの寺院の前にもう少し『戦歴』を重ねておいたほうが周囲も納得するだろう。幸い、吸血鬼も倒せるし、Sixth Houseを相手にしても遅れは取らない。病気にも強い。だから・・・Ghostgateに行っても生きて帰ってこれるだろう。勿論、Red Mountainの魔物を相手にするばかりではないが」

 なるほど。師の思惑とは少々ずれるが、俺としても受けて損は無い。Red Mountainは、俺が本当にNerevarの生まれ変わりなら・・・いずれ行くことになるんだろう。その場合はTempleや、推薦してくれるTuls師のような人たちを裏切ってしまうことになるけれど、どうせならばあちこちに顔を売って信用を積んでおいたほうがいいかもしれない。それに、魔物と戦って強くなれるなら暗殺の腕も磨けるし、Enoさんも喜ぶだろう。Ghostgateで生き抜く価値はありそうだ。


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(2009.7.19)