Daedraの三日月刀

 一体どれくらい時間が過ぎただろうか。
 床に響くDwemerの機械の稼動音とかすかな振動で、うっすらと目を覚ました。

 生きている。

 咄嗟に起き上がって武器を構え、周囲の状況を確認したが、無防備な状態で気絶していたにも関わらず、不審な存在は見当たらなかった。先に敵を殲滅していたことが功を奏したか。その代わり、俺を殺そうとしたと思われる武器が祭壇の前に転がっているのが見えた。
 「命を吸い取られる」とでも言えばいいのだろうか。疲労にも似た急激な倦怠感に襲われ、状況を把握することも出来ずに昏倒した。思うに、この短剣しか原因が無いはずだが、俺の魔術師としての見立てではHealthに害を与えるようなエンチャントは施されていなかった・・・とはいえ、エンチャントの腕はそこまでではないので何とも。武器の中にはもっと複雑な術式が組み込まれているものもある。いわゆるスクリプ・・・ゲフゲフ。
 まあ何だ。そのような術が仕込まれてるとすると、今この場ではすぐに判別できない。


 触らなければ安全らしいので、近づいて観察した。
 祭壇にこれが安置されていたということは、Sixth Houseにとって何か重要な意味があるはずだ。しかも、チートと思えるくらい馬鹿げたエンチャントが施されたDwemer製の短剣。これをエンチャントしたのは紛れも無く凄まじい才能を持つ魔術師だ。逸話か伝説の類があるはずなので、一冊もらっていた『Tamrielic Lore』を開いてみたが、それらしい短剣は存在しなかった。
 外れか? 世に出ていないアーティファクト? と首を傾げつつ眺めていたが、ふと、俺はあることを思い出して紙を鞄から取り出した。反体制派司祭の長、Gilvas Bareloさんがいつぞや俺に渡してくれたまとめ書きだ。Kagrenac's Toolsについての。


 Kagrenacは、強大な魔力が付与された三つのArtifact、「Kagrenac's Tools」と呼ばれるものを造りだした。Wraithguardは、心臓の力を取り出すときに、着用者を死の危険から保護するよう魔力を付与された篭手である。Sunderは心臓を打ち、望んだだけの量と質の力を搾り出す、魔力を付与されたハンマーである。Keeningは、心臓から湧き上がる力を剥ぎ取って一箇所に手繰り寄せる魔力を付与された剣である。

「これが・・・」

 唸らずにはいられなかった。悪名高いあのKagrenac's Toolを目の当たりにして、平常心でいるほうが無理というものだ。
 だが、背中に汗をかくと同時に、疑問も忍び寄ってきた。

 これは現在、Tribunalの三柱が所有しているはずのものだ。

 さて、どうだろう。これが紛れも無く本物であることは、先程俺が「鍋つかみ」のWraithguardを装着せず触って大火傷を負ったことで既に明らかになっている。俺が気を失って倒れた拍子に手から離れたので大事には至らず済んだが、さもなければ師は別の者に俺の捜索指令を出す羽目になっていたかもしれないな。大事な聖遺物持ってないけど。
 つまり、これが敵の拠点にあるのは大いに不自然だ。心臓の力を得るための道具をTribunalが手放すはずが無い。それもよりによって敵などに。ALMSIVIたちはDagoth Urの手の者に先んじられ、これを盗まれた、と考えるのが論理的か。とすると、他の道具のSunderやWraithguardもこうした拠点のどこかにあるかもしれない。

 いずれにしても、この道具は回収したほうが賢明だろう。心臓の力を引き出すのに使われるのだから、Dagoth Urの増長に繋がりかねない。
 手に握ったり腰に挿したりなど、身体になるべく接触させなければいいらしいので、手近な布などでぐるぐる巻きにして鞄の中に厳重にしまっておいた。


* * *



「こんにちは、Archmage」


「釣りに行きたいのですが、穴場を知っていますか?」


「こ、これがKagrenac's Tools・・・私も見るのは初めてだ」

 俺はKeeningを預けるため、Holamayanの僧院長、Gilvas Bareloさんの所に向かった。
 Ghostgateでは働きづめだったので、暫く休養が欲しいというと意外にもすんなり許可してくれたのだ。砦をいくつか潰したためだろう。その代わりGhostgateでは手に入りにくい薬草や備品を買ってくるように言いつけられたが、まあお安い御用だ。

 Keeningを持って出歩くのは物騒この上ないので、隠しておきたかった。かといって、危険極まりないのでその辺の貸し金庫に預けるのは心配の種が一つ増えるだけのこと。道具のことをよく知っていて、かつ信頼できるとなるとこの人しか浮かばなかった。加えて修道院はAzura様の加護の効いた安全な場所だから、Sixth Houseからも見つかりにくいはず。

「ありがとうございます。預けるのをお引き受けくださって」
「いやいや、私たちも興味があったのだ。勿論扱いには細心の注意を払おう」

 興奮と動揺を隠せず、生唾を飲み込むばかりの僧院長さんに後を託し、最後のDwemerさんの元に向かった。Kagrenacの直筆本を入手したので、何か分かるのではないかと思ったのだ。


 ・・・が、そうそう甘い考えを天はお許しにならなかった、というやつなのか、これだけでは分からない、と悲しそうに首を振るばかりであった。


 これも持って出歩くのは以下略なのでここに置いておくこととして、ついでなのでFyrさん自慢のアーティファクトを見せてもらうことにした。まあ、持ってってもいいらしいんだけど、あくまで見るだけである。刀あればいいし。
 これがVolendrung。なかなかゴツいハンマーだ。
 

 こっちがScourge。Daedra LordでさえもOblivionに追い払う効果があるらしい。


 そしてこれが・・・何のアミュレットだろう。もっとよく見てみようかな。
 触れた瞬間、転送呪文の独特の発動音が聞こえ、世界が暗転した。


あれ? 俺Fyrさんの目の前にいたはずなのに・・・。


どわーっ!!?(゜д゜;)


Dremora Lord!? そしてあの三日月刀はまさか・・・!



「我はMagas VolaのDregas Volar! Daedric Crescentが欲しくば勝負!」


 やっぱりか! Tamrielの秘宝ガイドの最後を飾る三日月刀に巡り合えるなんてな!!
 だが、俺もRed Mountainで揉まれて来たんでね!


 刀が欲しいわけではないが、あっちがやる気なら仕方が無い。刃を防いでも付呪の効果で動きを止められ、服の下に着ていた皮鎧が劣化していく嫌な感触を散々味あわされたが、辛くも勝利を収めることが出来た。
 Ghostgateでの日々は、確実に俺に力を与えてくれたようだ。


 エンチャントは装甲破壊と麻痺という凶悪な組み合わせだったが・・・武器破壊でないだけマシか。美しいが、動けず丸裸にしてじっくり調理するという凶悪な武器・・・ん?


あれ?

 気が付けば、俺はどこかのDaedraの神殿ではなく、Fyrさんの玄関でDaedric Crescentを構えて立っていた。
 まるで夢のような出来事だったが――この致死の武器の感触が、夢ではないことを物語っていた。


戻る      進む

(2009.9.30)