僧が帝で手下が友で


 眼下に広がる帝都の優美な姿を横目に、てくてく歩くことしばらく。


美しい木立に囲まれたWeynon修道院が見えてきた・・・が、様子がおかしい。


 厩と牧場を管理しているEronorさんが血相を変えて走ってきた。DunmerだからかArgonianには冷たいけど、出掛けに修理用ハンマーをくれた良い人だ。

「助けて! 助けてってば! やつらがWeynon修道院のみんなを殺しているんです!」

 後ろにいたMartinの顔が一気に青ざめた。

「落ち着け、何が起こったんだ? 最初から説明してくれ」
「分からん! 奴らは私の真後ろにいたんだろ! 修道院長Maborelは死んだ!」

 Eronorさんは息を整えながら言った。
 Maborelって、この馬を貸してくれたいいおじさんじゃないか!

「誰が修道院を襲撃したんだ!?」
「私は奴等が、攻撃してきたときに羊小屋にいた。修道院長が、誰かと話しているのを、聞いた」

 ありふれた旅行者の服装をしていたが、突然その手に刃物が見えたかと思うと修道院長をきりつけたらしい。そして、襲撃者と目が合ったので逃げてきたという。Jauffreは礼拝堂にいるそうだ・・・って、後ろ、後ろ!!!




 倒すと鎧が消え、真っ赤なローブ姿になった。皇帝を襲った連中と同じだ。しかも、身元を証明するものは持っていない。抜け目がないというべきか。

 司祭のPinterが刀を持ちやってきて、Jauffreの居場所を聞いてきた。刀を持っているということは、こいつもBladesか。本当にBladesの溜まり場だな。

「厩の人は、礼拝堂にいたって」

 礼拝堂にも襲撃者はいたが、難なく倒す。


「奴らは突然攻撃してきました。Maborelの叫びを聞いた時、私は礼拝堂で祈ってたが、お陰で武器を身につける事が出来た」
「しかし、何のために・・・」
「王のアミュレット! それが奴等の目的だろう」

 皇帝の後継者と、アミュレットを奪う二重攻撃か!
 Martinが生きているからアミュレットを奪う方向に出たか、それともあらかじめアミュレットまで奪うつもりだったのか。アミュレットも結界を維持するための神具だからな。

「見に行こうぜ」
「我々も共に行こう。だが最悪の事態を心配している」


 入り口前にはMaborelさんの遺体があった。良い人から先に死んで行く世の中だ。


 どうやら戸棚に見せかけた隠し扉の奥にアミュレットを隠していたらしく・・・だが、Jauffreさんの顔は絶望的だった。


「王のアミュレットが無い!」
「敵は先手を打ってきているな」

 後ろについてきたMartinはひどく不安そうに辺りを見回している。次は自分・・・という番なのだから当たり前か。

「だが、Martinは生きてる。彼は安全だ」
「ああ、不幸中の幸いだ。しかし、ここに留まってはいられん。Martinが生きていることを知れば・・・」

 ここは拠点の一つだが、出入り自由という点では防御に欠ける。今回の襲撃者もそうした弱点を突いてアミュレットを奪っている。


「どこかMartinを匿える安全なところはあるのか」
「真に安全な場所などどこにも無い・・・が、時間を稼がなくてはならない」

 そこで、JauffreはBladesの砦であるCloud Ruler寺院を挙げた。Jauffreによれば、Reman Cyrodillの時代にBladesの創設者に建てられたもので、Bruma付近の高所にある要塞にして聖地なのだそうな。Remanって何ぞやと思ったが、まあそれは別の機会に勉強しよう。
 本当ならMartinが皇帝になるべきなんだが、それを証明できるのはBladesのJauffreだけ。証拠が弱い。だから、皇族のみが身につける事が出来るアミュレットが無いといけない。皇帝になるという意味でも、Oblivionの侵攻を食い止めるためにも。まあ、政治のほうは元老院のOcatoっつー人がやってるから何とか持ちこたえているようだ。

Pinterは言う。

「Talosに仕える修道士の多くはBladesのメンバーであります」


「各地の修道院は、ここWeynon修道院と同様に宗教施設としてだけではなく、旅行中のBladesには隠れ家としても使われています」


「現役から退いたBladesのメンバーの中には、修道士として神に仕えるようになる方もいます」


「グランドマスターであり修道士でもあるJauffreと共にあることを、私たちは光栄に思っています」


 見通しの良い湖沿いを抜けてBrumaへの道に入り、寺院を目指した。幸い、道中は野生動物と盗賊が襲ってくるくらいで、襲撃者は来なかった。とはいえ、Martinは、夜通し駆け続ける強行軍にかなりへとへとになっていた。まあ、それほど遠出したことの無い中年オヤジなんだし、ここ連日張り詰めた日々を送っていたから仕方がない。

 Jauffreが堅く閉ざされた門を叩いて向こう側と話している。どうも話が通じているらしく、閂が外されるようだ。それまでの間、俺はMartinに話しかけてみた。

「Oblivionのあの門について、どう思う?」
「あれは我らの世界とOblivionを繋げる安定した通路になっている。存在自体がDaedric魔法の基本法則のほとんどに反しているんだ。ありえない。何かが根本的な法則を捻じ曲げ、それを可能にしている」
「その何かって、Sigil Stoneのことかもな。あれを外したら門が閉じた」
「私はこの件について多くの疑問がある。Jauffreがそれらに答えてくれることを願うよ」

 その時、門を開けてBladesの具足を纏った男がやってきた。


「この方こそ前皇帝のご嫡男、Martin Septim殿下である」

 Jauffreの言葉に、一瞬Martinの顔が引きつった。やはり、Septimと呼ばれることにはかなり抵抗があるようだ。とはいえ、出迎えた人はCyrusというんだが、その人を始め、彼等Bladesの面々は歓迎ムード。長年皇帝をお迎えすることなんてなかったし、光栄だと感激している。
 Martinは今や嫡男とはいえ庶子なんだし、そうしたことで折角の安息の地が針の筵にならないとも限らないのだが、そうはならなさそうなので俺もホッとした。

「あぁ、うん、ありがたいな! 誇りに思う。無作法ゆえ、返す言葉も判らないが」

 Martin、かなり緊張してるな・・・大丈夫だろうか。

「Martinさん、萎縮しないで良いって。もっと顔上げて、胸張ろうぜ」
「ああ・・・ところで、『さん』づけは止めてくれないか」
「ん、殿下だもんな。よく考えたら俺より二回り年上だし。敬意を払わなきゃな」
「いや、そうではなく。命の恩人なのに他人行儀に過ぎるではないか。それに、彼等は、Jauffreも含めて、私を皇族だと見ている。居心地が悪いわけではないが、どうも距離があるように感じてならない。君は隔てなく私を見てくれるし、私の立場上、今後も君のような存在は現れないかもしれない。何が言いたいかというと・・・その、友と呼んでもいいだろうか」
「いいよ。しかしまあ、この国に来て最初の友達が殿下なんてなあ」

 俺はあえて素っ気無く応じて笑った。表情に乏しいArgonianの笑みなので通じているか怪しいが、Martinはほっとしてくれたようだ。
 未来の皇帝と友達になるとは、俺の人生も色々凄まじいな。
 Bladesたちの挨拶があるそうで、部外者の俺はどうしたもんかと思ったがJauffreさんは招き入れてくれた。Martinはカチコチに固まって俺の方ばっかり見るので、まあ横についていることにする。


「Bladesたちよ! 我らは暗黒の時にいる! 皇帝と息子たちは我らの目の前で殺められ、帝国は混沌としている」


「しかし、希望はまだある。ここにMartin Septim様が、Uriel Septim様の真の御子がいらっしゃるのだ!」


 Jauffreの激に、Bladesのメンバーは刀を振って呼応する。
 
「万歳、Dragon Born万歳! Martin Septim様万歳!」

 うっわー。こりゃ引くわ。Martinはいきなり舞台の中央に引き出された通行人Aみたいなもん。どうしたらいいのかかなり混乱していることだろう。人数が少なかったのが不幸中の幸いだな。
 俺はBladesのようにMartinを一段高いところに据えて信奉しているわけじゃないからな。Martinも恐縮そうに見てるし、万歳するのは止めておいた。あくまでも俺は友人だ。この先どうなるかわからんが、一応対等、ということになる。

 万歳が済んだ後、Martinは皆を呼び止めた。

「皆が私に皇帝たれと望んでいるのは知っている。全力を尽くすつもりでもいる。しかし、私にとっては何もかも初めてのことだ」

 まあな。五十の手習いだし。暗殺騒ぎが起きなかったらこんなところにはいなかった。

「え、演説するのも慣れてはいない。ただ私を迎え入れてくれたこと、大変ありがたく思っていることだけは判って欲しい。いつか君たちの忠誠に私が応えられる日が来ることを願っている。以上だ。ありがとう」

 ここで顔合わせは終わりとなり、各自任務(っつっても警護とかだが)に戻っていった。


「大した演説ではなかっただろう? もっとも、聴衆をウンザリさせるほどのものでもなかったみたいだが」
「声が少し震えていたし、ちょっと噛んでるところもあったな。けれどまあ、そんなもんだよ。俺が演説したらもっとひでえぜ」
「BladesがMartin Septimとして私に敬礼し、私を迎えてくれる・・・恩知らずであるかのように取られるのは本意ではない。君がいなかったら今頃生きていなかっただろうことは分かっているよ。ありがとう」
「まあな、成り行きだったけど、アンタだけじゃなくてKvatchの他の人も助ける事が出来た」
「しかし、皆は私が何をすべきか瞬時に理解するように求めてくる。どう振舞えばよいのか。彼等は、皇帝にどうしたら良いか指示してもらいたいのだ。そして、私には最も信頼に足る知恵が無い・・・」
「それは・・・彼等だってわかってくれてるさ。時間はまだあるから、帝王学でも何でも、出来ることから覚えればいい。まあ、何にせよアミュレットが無ければ始まらないが。で、取り戻したら皇帝になるのさ」
「皇帝か・・・それも多少は慣れるための、一つの考えだろう」
「環境が人を変えるっていうし。居心地は悪いかもしれないけど、殿下として扱われているうちに慣れるかもな。愚痴言いたくなったら聞くから。俺もアンタほどじゃないが、英雄扱いされて居心地が悪いし。ああ、そういやDaedric魔法のこと詳しいのか? さっきOblivionのこと言ってただろ」
「ずっと僧侶だったわけではない。若い頃、私は違う道を歩んでいた。Daedric魔法の蠱惑的な力を知っているつもりだ」
「どういうことだ?」
「各地にある洞窟や遺跡を拠点として、本来、Oblivionに生息するDaedraやAtronachを呼び寄せて、共に活動している召喚士たちがいる。勿論ギルドは死霊術士たちと同様に、彼等の存在について否定的だし、彼等も部外者に攻撃的だ。・・・つまり、そういうことだ」
 MartinのClassはConjurer。つまり召喚士。「そういうこと」らしい。昔のことは聞かないことにした。俺にもあまり人に言いたくないことがある。
 ま、これで「Martin司祭」という存在は消えて、「Martin Septim」になる。でも、やっぱり迷いがあるらしい。Septimを名乗るのは躊躇ってる。本人が覚悟を決めれば・・・そのうちSeptimを名乗る日が来るだろうか。


 話が終わると、Martinは中に入っていった。俺も、トカゲの身には寒さが堪えるし、部外者とはいえちょっとくらいなら休ませてもらえるだろうし、ついでに見学でもしようかと思ったが、Jauffreに呼び止められた。Martinを助けたことで帝国の忠実な僕って言われちゃったよ。俺Martinにはともかく、帝国には不忠実だけど。俺が忠実なのはMelphara様とAzura様とEnoさんくらいだぜ。って・・・俺をBladesに勧誘してるじゃねえか!

「うーん、義務とかってあるの?」
「TalosのDragon Bloodを代表する皇帝への忠誠を誓っている」

 まあ、Talosとか皇帝はともかく、世界の危機だし。Martinのことは放っておけないし。実を言うと、俺はBladesやあのUrielの狸ジジイのことは好きではないからJauffreはかなり危険人物をBladesに招き入れてしまったんだが別に変なこと言わなきゃいいか。俺もMartinやBladesをどうこうする気は無いし。了承すると、Bladesの証明としてAkaviri製の片手用の刀がもらえた。刀はMorrowindではありふれてるのだが(TantoとかWakizashiあるし)Cyrodiilの市場には滅多に出回らない逸品だ。芸術品としても、すばらしく美しい。

「そういえば、この寺院も何かこう、異国風って感じがするが。なんかこう、エセ和風っていうか・・・
エセ和風言うなwww ゴホン! 前にも話したが、ここは第二帝国の建国時、Reman CyrodiilのAkaviri竜護兵によって建てられたのだ。それ以来、本部、要塞、聖地としての役目を果たしている。ああ、そうそう。武器庫があるから装備が必要なら取りに行くと良い」
「ありがとうございます。色々力不足だし、何か情報が入るまで修行してこようかと」
「現在、Baurusに暗殺者どもについて調べさせている。何かあったら君に伝えよう。そうだ、君自身の拠点でも作っておくと良い。安くても良いので、家を買うといいだろう」
「そうですか」

 そういえば帝都に安い家が売っていた気がする。無職は回避したものの、住所不定というのは世間体が厳しいし、丁度いいかもしれない。
 ついでに休ませてもらおうと、中にお邪魔した。武器庫からAkaviri Dai-Katanaを一本もらう。この刀は優秀で、両手用武器にもかかわらず振りが非常に速い。ああ、言い忘れたが、というか言わなくてもわかると思うがAkaviriってのは言わずと知れた某国がモデルだ。


 Martinは早速何か勉強している。本も比較的充実しているので、なんとかなるだろう。しかし、着の身着たままとはいえ、Martinの格好は司祭服のままだ。もっと上等な服はあるはずだが・・・まだ心は司祭のままなのだろう。

 Martinに倣って、俺も勉強してみることにした。アミュレットのことが気になったので、いかにもというタイトルの本、『王者のアミュレット』を読んでみた。

 1st Eraの初期に、Daedraと仲良くしていたAyleidsという、今は滅亡した古エルフを倒すために聖Alessiaが時の神竜、Akatoshに救済を求めた。はあ、教会のステンドグラスに砂時計が描かれてるのは彼の「時」を象徴しているわけだ。


 Akatoshは心臓から血を提供して聖Alessiaを祝福し、一族が竜の血に忠実である限りOblivionの門を封印することにしたそうな。契約の印が件のアミュレットとDragonfire。んで、彼女は赤いダイヤモンドになってアミュレットの真ん中に納まってるそうな。魂を込められる宝石をソウルジェムっていうんだが、あれは極めて強力なソウルジェムってことか。へぇー。

 帝都。


 俺は家を買うため、それに技術を磨くため、闘技場に来ていた。


 Oblivionの化け物を一度に複数相手にすること比べれば、生身の人間相手の一対一の戦いは楽な勝負なんだが。
 今までの経験から予想すると、十中八九、俺は近い将来、帝国を纏め上げるためにKvatchを解放した「黒衣の英雄」として表舞台に上がることになる。現在、Bladesの中で表舞台にいるのは俺だけだからな。
 その時俺は、俺の象徴である黒衣を纏っていなくてはならない・・・が、防御力の全くないそれを纏い続けるのもこの先の戦いでは厳しい。とはいえ、エンチャントによって武器防具に魔力を込めれば別だ。
 ただ、エンチャントの設備があるのは、限られた人しか入学できないアルケイン大学に入学の構内。なるべく早いうちに全土を回って大学入学の推薦状を取る必要があるだろう。あれも欲しいこれも欲しい、そして世界は破滅に向かっている。中々つらい状況だなこりゃ。


戻る      進む

(2007.1.3)