ジャガイモパンを救え!

 Leyawiinから北上し、Bravilに到着した。領主の評判は芳しくないが、それを表す様に町全体が雑然としている。Skoomaを昼間からやってる奴もいるし、どうも湿っぽい街だ。そうそう、俺は黒衣の英雄、なんて世間では騒がれてるが、推薦を貰うには知名度がある方が有利だと思われるので、隠密の任務に就かない限りはこのままの姿で旅を続けることにしている。俺もこの衣装気に入っているし。


「こんにちは、Associateさん。推薦状のためにいらっしゃったのかしら。用意は出来ていますか?」
「よろしくお願いします」

 ここの支部長は思慮深そうなArgonian、Kud-Ei。よく椅子に座って本を読んでいるという。ただ、型どおりのものを用意する余裕がないらしい。ここの錬金術師、Ardalineさんをある事情で心配しているという。Kud-Ei師は何とかそれを解決したいが、同じ支部というどうしても近すぎる関係のため、かえって首を突っ込めないらしい。逆に俺なら新参の上、特定の支部に入っていないフリーであるので、彼女の目に留まったようだ。俺は勧められた椅子に座り、彼女の横で話を聞いた。

「Varon Vamoriと少しお話してもらえないかしら、そしたらその過程で幻術の力を学ぶいい機会にもなりますし」
「はあ」

 全国の支部はそれぞれ扱っている魔法に特徴がある。前のLeyawiinは神秘魔法。ここの支部は主に幻術魔法を扱っている。Kud-Ei師は、「魔法使いらしい」おつかいになるように配慮してくれたらしい。

「まず・・・その、事情を伺えませんか。Varon VamoriさんやArdalineさんはどういう方なのですか?」

 Kud-Ei師は、彼女に何も言わないこと、と俺に言い含め、周囲を気にしながらひそひそと話した。

「理解できません。男特有の馬鹿げた発想だと思うのだけれど。Varon Vamoriは毎日Ardalineに付き纏うのです。それどころか彼女のMage's Staffを盗み出したのですよ!」

 彼女の持っていた本が細かく震えた。彼女のことを余程心配しているようだ・・・ってか、ストーカーですか。 しかも持ち物を盗むって。何だそりゃ。いい年した男が・・・思春期じゃあるまいし。
 何はともあれ、Kud-Ei師から魅了の魔法が使える巻物を貰った。これで杖のありかを吐かせろとの支持だ。当然、人の心を操ることを心優しいこの師はよしとしない。だが、みんなのお母さんなこの人にとっては、娘たちのためなら何でもやる、と息巻いている。Ardalineは可哀想な事に、仕事に手がついていないらしく、事情を知らないみんなはイラついている。これはなんとかしなければならない。俺はギルドを出て探しに行った。


 で、当人はどこかなーと思ってたら、それらしいDarkElfが前を横切ったので呼び止める。Ardalineさんのことを聞くも、良く知らない、とはぐらかされた。幻術の巻物を使おうかと思ったが、話術でなんとかならないかな、とちょっと話題を変えてしばらく世間話をし、頃合を見てそれとなく聞いてみると、Varonはぽつりと言い出した。
「彼女に構って欲しかっただけなんだ。こっちが気にしてる分だけ彼女もそう思ってくれると感じたかった。でも彼女は素っ気無い」

 そりゃ、彼女にも好きな人とか他にいるかもしれないし、好みのタイプとかあるからお前の都合ばっかり聞いてられんだろ、と心の中で毒づいたが口に出すのはやめておいた。

「粘ってみたけど、効果無いし。そのせいで時々、頭に来るんだ!」

 頭に来てるのは俺とKud-Ei師とArdalineさんの方だよ!
 剣に手が伸びかけたが、ここはじっと我慢する。

「彼女に手を出したことはないよ。怒ってそんなことしたり・・・彼女を傷つけたことは決してない、分かったか?」

 エラソーに言うな!!!
 全く。手を出してたら師は麻痺呪文でもかけてゴブリンの巣にでも放置して来いとか言っただろうな。うん。

「で、杖はどこやっちまったんだ? 彼女は困ってるって話だぞ」


 頭にくるので身勝手男の話は省略するが、要するに「フラれてカッとなった。杖は返すに返せなくて帝都の高級住宅街に住んでいる友人に売ってしまった。一応反省している」らしい。杖はSoris Arenimっつー人が今では持っているようだ。これは困ったな。人手に渡ったのならもう一度、師に相談しなくてはならない。


「売ってしまったって? うぅん、この件は事態が悪くなっていくばかりです」

 俺の報告に、Kud-Ei師は頭を痛めた。無理も無い。アホ男が余計なことをしたからだ。師は、更に俺に杖を取り戻すように命令し、巻物を下さった。内密に、と念を押して。

 帝都に向かうことになったが、途中、Faregyl Innで食事を取る事にした。が、隣のKhajiitに俺が冒険者と見て泣きつかれた。




「ああ! 無くなった巨大ジャガイモを探すの手伝ってくれない?」
「巨大ジャガイモ?」

 聞いたことの無いジャガイモに、俺はついつい身を乗り出してしまった。
 何でも、このS'jirraさんの作るジャガイモパンはその美味しさで有名らしい。当然、使っているのは彼女特製のジャガイモだ。収穫したものを外で太陽に当てている間に盗まれたらしい。犯人らしい人影が西、つまり森の中に逃げていったのを見たようだ。しかし、森の中は魔物や野生動物が出るため、怖くて出て行けないらしい。一つ一つ、子供のように世話を焼いて、心を込めて作ったジャガイモ、か。これくらいなら時間を取られることも無かろうと、俺は了承して宿を出て西に向かった。


 それらしい奴はいるにはいたが・・・。


 「人」じゃねーじゃん!!


 犯人はOgre。確かに、手足がついてるからとっさに「人」だと見間違えたんだろうとは思うが・・・まあ、S'jirraさんが下手に追っていって危険な目に遭わずに済んだことを喜ぶべきだろうか・・・。


 こいつの懐からでかいジャガイモが出てきた。こいつが話題のものなのだろう。俺はそれを持って宿に走った。

「なんて親切な人だい! あぁ! キスでもしてやりたい気分だよ!」

 キスは丁重にお断りした。(キスには物凄く嫌な思い出があるのだ・・・)が、S'jirraさんはとても喜んでくれて、俺に作りたてのジャガイモパンをくれた。一口かじってみたが、ジャガイモの風味が何ともいえない美味しさを醸し出していて、何個でもいける。一瞬、魂の光が見えたようだ。なお、ジャガイモパンはここでしか売っていない限定品らしく、欲しかったらここに来ると良いといってくれた。俺はジャガイモパンの美味さをありったけ伝えると、宿を後にして帝都に向かった。

 帝都。

「ええ、Varonが売ってくれた杖は私が持っています。手放すわけには行かないですね。大金を払いましたからね、とにかく。当然、お察し頂けるかと思いますが」

 魔物相手は斬ればいいが、人相手はそうも行かない。Soris Arenimのお宅を訪問して伺ったが、けんもほろろに断られた。そっかー、と引き下がった振りをして、


 えい。
 人心を操るのはどうかと思うが、これ限りにして聞いてみると、対価として200ゴールドくれれば杖をお返しすると、ニコニコ話してくれた。200ゴールドか。無ければ盗むって手もアリだが、それだと後々問題が生じる。あのアホ男がどうなろうが知ったことではないがギルドに文句を言われると厄介だ。ここは多少身銭を切っておいたほうがいいだろう。俺は言われたとおり200ゴールドを手渡して、杖を譲ってもらった。


 Bravilに帰還すると、Kud-Ei師はとても喜んでくれた。人心を操る巻物を贈ったせいか、俺が具体的に何をしたのかについては話さなくてもいいと言ってくれた。合法的に済んだわけだが人心を操ったことには変わりない。師は、今回の件を解決したことに対し、推薦状とちょっとした魔法をプレゼントしてくれた・・・が、次の瞬間、血相を変えて師は俺に泣きついてきた。

「お願い、すごく協力が必要であなたにしかお願いできないと思うの!」

 はい!?

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(2007.1.8)