彼氏はハイエルフ

「お願い、すごく協力が必要であなたにしかお願いできないと思うの!」
「落ち着いて、何があったんですか」

 師は俺に泣きついたが、すぐハッと身を引いて俺に事情を打ち明けてくれた。何でも、HenantierというKud-Ei師の彼氏を見つけて欲しいらしい。大学時代に一緒に研究しているうちに恋をしたそうだ。いいなあ。俺にもそういう人が欲しいぞ。ただ、魔法使いは頭のいい馬鹿が多い。彼氏もその例に漏れなかったようで、どうも「危険な実験を行うときは必ずギルドの仲間の監視があるところで」という規則を無視して、自宅で一人で危険な実験を行ってしまったらしい。彼はどうも規則を無視する傾向があり、今度これがバレたらギルドを追放されてしまうそうだ。杖のこともそうだが、師は、身内のためにしばしば温情で、あまりよろしくない行為に目をつぶる事が多いようだ。が、これがBravil流なのかもしれないな。俺も、師が安心するようにあえてビジネスライクに話を進め、何も見ない振りをすることにした。






 師が案内したのは一軒の何の変哲も無い家。ベッドで眠る彼氏さんを見て驚いたが、彼はHighElfだった。Elfは俺たちと違って寿命が長い。それに、Argonianは卵で生まれてくるから、他種族との混血は基本的に不可能だ。つまり、子供は望めない。それを乗り越えたんだから・・・愛だな、愛。いいなあ、種族を越えた愛って。
 一人で妄想に耽っている俺を小突いて師は続けた。彼氏さんは夢の世界に捕らわれてしまったらしく、3日も目を覚ましていないそうだ。俺が推薦状を貰いに来る直前か。道理で見た事がないと思った。Henantierさんは相当悪い夢を見ているのか、うんうん魘されている。

「人の夢を旅するなんて危険だと彼には言ったのですが、聞いてくれやしない。いつも我が道を行くんです」

 うーん。Elfって色眼鏡的に言えば俺様な傾向が強いわけだけどね。よく別れないもんだ。で、救出方法だが、彼氏さんが作ったDreamworld Amuletっつーアミュレット型の魔法装置を首にかけて近くで寝れば夢の中に入れるみたいだ。通常の夢と違い、異世界に飛び込むようなものらしい。ただ、持ち物は当然のこと、魔法ももっていけないそうだ。これはキツそうだ・・・特に魔法使いにとっては。Elfといえば魔法使いだからなあ。彼氏さんが出てこれないわけだ。師が助けに行かないのは、なまじ身近な人だけに自分の夢が作った偽者だと思って相手にしないかもしれない、と恐れているからだ。愛している彼氏に冷たくされるのが怖いっつーのは、俺はされたことはないが理解できる。だから初対面の俺に白羽の矢が当たったらしい。杖の件を解決したこともあるせいだろう。
 夢の訓練場か・・・。天国だったらいいんだが、訓練場だけにそうはいかんよな。良い夢より悪夢が印象深いように、多分そんなもんだろ。


 夢の主である彼氏さんには危害を加えないように言い含められ、俺は眠りについた。師が寝ている間、俺たちに危害が無いようにしてくれるらしいが、一応武器を携帯したままにしておく。

 眠ってすぐ、俺は夢の中で目が覚めた。俺は裸で、彼氏さんが目の前にいて・・・。


 ぎゃああああああああああああ!!!
 いくら荷物もってけないとはいえこれはねーよ! と涙目になりつつ、彼氏さんも闖入者に驚いているので非礼を詫びつつ、そこら辺の箪笥を探って身なりを整えた。


 どうも彼氏さんは、挙動がおかしい。元の彼氏さんを見た事がないからわからんが、どうも状況を把握していないらしい。彼の心にある、勇気とかそういったものが夢の世界の中に隠されてしまったようだ。ははあ。これを探検するわけか。部屋の中には四つの扉。ここを順番に攻略すればいいらしい。



 最初に向かったのはTest of Resolve、「決意」の部屋。中は鎧だの武器だのが用意されている。闘技場か・・・。魔法が使えんからキツイな。攻撃はおろか、召喚も回復も、他の支援魔法も使えない。己の身一つで戦わなければならないのが、どんなにキツイことか・・・。



 肉弾戦オンリーだと俺でも死んだと思うが、幸い、高いShock効果の杖もあったので、バンバン撃ちまくって魔法が切れたら剣で応戦する。しかし魔法使いにこんなことせいとは、彼氏さんはマゾか。なんとか倒して「不屈のエレメント」をゲットすると、彼氏さんのいる部屋に戻された。ちょっとは落ち着いているらしいので、継続して他の部屋を探った。


 Test of courageの部屋は水で満たされた洞窟。ポットには水中呼吸の薬が用意されていた。


 水中呼吸はArgonianで無い限りは変成魔法か魔法がエンチャントされた装備が要る。俺はArgonianだから全く平気だが、他の種族が暗い水の中を泳ぐのは勇気がいるだろうな。


 今度は楽に「勇気のエレメント」をゲットした。うふふ、こういうのは地味に便利なArgonianに生まれて良かったなーって思うよ。





 今度はTest of Patience。特定のブロック以外を踏むと弓矢が飛んでくる仕掛けを、

 ポットに入れられていた右の図を参考にして進め、と。なるへそ。入り口から出口まで続いている同じ記号を見つければちょちょいのちょいだな。前世は画質を滅茶苦茶落としていたから図が判読できなくて強行突破するハメになったが。
 小技なんだが、待機することは出来るので回復魔法が使えなくてもある程度はなんとかなるのだ。




 こうして「忍耐のエレメント」ゲット。







 次の部屋はTest of Perception。罠がてんこ盛りだ。





 「知覚のエレメント」ゲット。遺跡探索なんかでこの手の罠は目にしているので、頭上と足元に気をつけていれば大体OKだ。







 何とか正気を取り戻した彼氏さんはすっかり参ったようで、状況を把握すると、速やかに目を覚ました。俺も同調している彼氏さんと同じように、目を覚ます。

「現実であんたに会えるとは嬉しいよ。悪夢から救ってくれたこと、感謝してるぜ」

 彼氏さんはそう言うと、謝礼としていくつか巻物をくれた。俺はあまり巻物は使わないけど、気持ちは受け取っておく。
 ・・・。


 服を着て寝ていたのに、何で起きたら裸になってるんでしょうね(泣)
 師も彼氏さんも俺の問いかけに目を逸らしてギルドに戻っていった。まさか師に男を剥く趣味でも・・・いやいや、しかし、世の中には変わった性癖の人も・・・いやいやいや。俺は特に何もされていないことを確認すると、街を後にした。


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(2007.1.8)