推薦状と透明化


 苦い結果に終わったCheydinhalのギルドを辞すと、俺は湖畔の道を通ってBrumaに向かった。厩で買い求めた黒馬は帝都の家より高くついたが、その分よく走ってくれる。


 北上するに随い寒くなり、息が白くなっていく。Argonianにはとてもきつい。あまり屋外で活動する試験ではないことを祈るばかりだ・・・。


 ギルドに駆け込むと、Jeanne Frasoric師が迎えてくれた。まだ若いBretonだ。俺が推薦状のことを切り出すと、丁度困ってることがあるからそれを解決して欲しいという。

「J'skarを見つけたら、すぐにでも推薦状を書いてあげましょう」
「J'skar? 名前からすると、Khajiitですか」
「ええ。誰も、何日も彼を見ていないの。Volanaroは魔法が暴発したんじゃないかって」
「なるほど」
「評議会の誰かが立ち寄ったときにJ'skarが居なくなったと知れたら私の監督が甘かったんじゃないかって思われるし・・・」

 Kud-Ei師のことを俺は思い出した。どちらかというと自分よりギルド員のことを気にかけていた感じがあったが、こっちは自分の評判を気にするタイプか。とりあえず、彼を見つければいいので早速ギルド員に聞いてみることにした。
 ところが、錬金術師のSelena Oraniaさんは、不可解なことを呟いた。

「VolanaroとJ'skarが自分たちの楽しみに耽っているならそれもいいでしょう。私は参加しないだけ。それ以上何も言うことはない」
「え、一体・・・」

 彼女はそれ以上何かを言いそうになかったので、とりあえずVolanaroに話を聞くことにした。


「J'skarを見つけたいだって?」
「ああ。推薦状がかかってるんだよ」

 すると彼は、J'skarを見つけることと引き換えに、彼の「ちょっとしたいたずら」を手伝うことを約束させられた。どうも、Janne師の魔法マニュアルを盗んでこいというらしい。若くして支部長になった彼女に、やっかみの感情があるようだ。とはいえ、Brumaは帝国人が住むには適さない土地だ。ガイドブックの評判も悪い。ギルドも、戦士ギルドやメイジギルド共に良い人材を派遣していないのだ。ギルドの内部事情には詳しくないが、ここに飛ばされることは左遷と言ってもいいだろう。事実、各都市のギルドが必ず何かの系統の魔法を売りにしているのに対し、ここは売り出せるものが何も無い。
 鬱屈した感情が溜まってるんだろうなあ。しかしまあ、盗みか・・・こいつら俺が停職になったらどうするつもりなんだよ・・・。大方J'skarのことも、いたずらの一つだな。


 ふうん・・・。なるほどねえ。なかなか上手に透明化できてるな。
 ま、実を言うと解呪の呪文は覚えていない。本を盗んでもって行くしかないようだ。幸い、俺はJ'skar探しを頼まれているのでギルド中を探し回っていても不審に思われない。支部長の部屋に入ったとしても不案内だったからとでも言えば済むことだ。やるならJanne師がロビーにいる今だ。


 てい。
 ま、ふつーにピッキングもできるんだがな。俺は魔術師だからこっちの方が得意だし、魔法の方が時間をかけずに済む。
 本を持って行くと、午後10時にギルド員の部屋で会うことを約束させられたので、その間時間つぶしにいく。ずっとギルドにいてもいいんだが、何となくJanneと顔をあわせ辛いので、とりあえず宿で飯でも、とギルドを出た矢先にいきなり話しかけられた。


「こんにちは、BrumaのNarina Carvain伯爵夫人の使いの者でTolganと申します。夫人はあなたの都合がつき次第、親交を深めたいと仰っております」

 そう言って使いの彼は俺にコインを握らせてきた。

「伯爵夫人が俺に? 一体彼女は何を考慮しているんですか」
「お前が夫人と直に話せば、夫人はお喜びになるだろう。また夫人は、後々の俸給の一部として、この固定給を提示すると言っていた」

 なんだろ。スカウト? 俺を囲い込む気かな。でも俺は元々観光に来たくらいなんだし、自由にやりたいんだが・・・。
 ま、このままも気味が悪いし、時間なら余ってるので早速伯爵夫人に会いに行く。城のホールは雪国の閉鎖性が表れているのかどうも重苦しいが、そんなホールの奥に伯爵夫人はいた。


「私はBrumaの人々からたくさん貴方の事を耳にしました。黒衣の英雄・・・そうですね?」
「ええ、まあ。巷ではそう言われているようです」

 このまんまの格好で街中を歩いたので耳に入ったらしい。

「それで? Tolganが示した俸給に貴方は満足したのかしら」
「ええ。まあ、結構な額ですからね。しかし、なんでまた俺を?」
「よい指摘ですね」

 不敵に微笑むと、伯爵夫人は正式に自己紹介をした。俺も改めて自己紹介すると、さりげなく周囲の展示ケースを示し、これらが全てAkaviriの遺物であることを告げた。彼女はAkaviriの遺物のコレクター、という。なるほど、話が見えてきた。「黒衣の英雄」としての腕をトレジャーハンティングに使いたいわけだな。案の定、どうしても欲しい逸品が欲しいと俺に持ちかけてきた。その名は「Draconian Madstone」。身に着けたものを毒から護るという。毒の効かない俺には必要ないな。Pale Passの遺跡で最後にそれが見かけられたらしい。

「Pale Pass?」

 伯爵夫人は説明した。第一紀の終わり。Akaviriの侵略者がCyrodiilにやってきた。小さな派閥に分裂していた帝国は、Reman Cyrodiilによって統一。Akaviriの軍勢も強かったが、Morrowindを通過したことにより現人神Vivecの怒りを買った。彼はDreughのTrident-Kingsと同盟を結んでいたため、Akaviri軍は背後から攻撃され、海からの補給を絶たれた。Reman CyrodiilはAkaviri軍を征服するだけでなく彼等を説得し、こんにちの帝国を建国するのに協力させたという。ははあ、Bladesもその副産物か。彼がなした功績は大きく、王のアミュレットの作成も含まれているという。
 んで、Pale PassはAkaviriの拠点だったようだ。しかし、どこにPale Passがあるのかは今も行方不明という。
 夫人はDraconian Madstoneと引き換えに金貨と他の遺物を報酬として差し上げると言ってくれた。が・・・今は推薦状が先のため、何日かかるかわからない遺物探しはちょっと。今は無理だが近いうちに必ず探すと約束して、その場は引き下がった。


 その後はCloud Ruler寺院の様子を見に行ってみた。Martinは相変わらずBladesの面々から尊敬・・・というか崇拝されているが、やっぱりちょっと居心地が悪いようだ。まだ当分、ただのMartinでいたいらしい。Brumaが近いから、気晴らしに街に連れ出せればいいんだけれどな。が、刺客がどこにいるかわからん時点でそれはできない。
 午後を宿屋で過ごして、俺はギルドに向かった。


 約束の時間。Volanaroと・・・J'skarか。


 Volanaroが解呪をかけると、彼は姿を現した。やれやれ。このいたずらに飽きたので次の遊びを考えるんだってさ。なんだかねえ。若いって損だな。俺も、実を言うと俺も30がそろそろ見える年齢なんだが、年齢の割りに若く見えるから気をつけよう。Argonianだから年は分かりづらいかもしれないが、用心用心。


 翌朝。J'skarが見つかったことをJanne師に告げると、推薦状を書いてくれると約束してくれた。が、どうもそわそわしている。何か、このいたずらについて彼女は悟ったのだろうか・・・。腐っても支部長、か。

「訓練を終えても私のことを忘れないでね! きっとお互いに助け合えるはずよ」


 にこにこと微笑むJanne師の顔。俺も笑顔でギルドを後に、次の街、Chorrolを目指した。




 忘れないでね、と言った彼女の言葉。
 その後、忘れたくても忘れられないことになるとは、俺も予想だにしていなかったが・・・。


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(2007.1.9)