推薦状と強盗殺人


 最後の街は、海に面した港町であるAnvil。
 Carahil師が推薦状を扱ってくれる。


「私から推薦を得るには、単に貴方が熟練であり、今までの過程で何かを学ぶ心構えがあったことを証明すればいいだけです」

 彼女は竹を割ったようなさっぱりした人だ。早速推薦の説明をしてくれた。帝都とAnvilを結ぶGold Roadに強盗殺人を犯すごろつき魔術師が出没し、評議会は魔術師の名誉のために状況を打破するよう指令を受けたという。Kvatchが壊滅した今では、ここのギルドが現場に最も近い。

「わかりましたが・・・どうして俺に?」
「あなたは新参だから、メンバーだと気付かれる可能性が低いわ」
「なるほど。でも、危険じゃないですか?」
「確かに、そうかもね。でも、ギルドが日常茶飯事に扱う状況から貴方を庇う理由なんて無いでしょ」
「弱いものは推薦を受ける資格が無い・・・」
「そういうこと。存分に実力を証明なさいな」

 HighElfの割りに武道派だな。俺も武道派だが。
 それにしても、と思う。魔術師は基本的に自分の身が一番可愛い。つまり自己中だ。端くれの俺もそうなんだが、MartinがかつてDaedric魔法に心酔していたように、倫理を踏み外したり、魔術を強盗に使うわで人の迷惑を顧みない連中も多い。
 ・・・ふむ。Martinは元気にしてるかな。風邪をひかないといいが。今度ジャガイモパンを差し入れしてあげよう。


「犠牲者の共通点はBrina Cross Innに宿泊したこと。バトルメイジを送ってあるから、そこに行って渡りをつけて頂戴。Arielle Jurardよ。若い女性。彼女が手引きしてくれる。宿の従業員が犯人かもしれない。気をつけて」

 それと噂を耳にしたが、Cheydinhalでは行方不明になったFalcarの後釜にDeetsanがギルドを運営するという。思慮深い彼女なら大丈夫だろう。


 ここが宿屋か。何の変哲も無い、街道沿いの旅人がよく利用しそうな感じの、普通の宿屋だ。


 一応いつものローブ姿じゃなくて、そこそこお金持ちみたいな格好をしてみた。似合ってるかなー。評価をしてくれる人が居ないのでアレだが。


 この人がArielle。見かけは可愛い女の子、といった感じだが、若い割りに実に狡猾だ。


 見知らぬ他人の振りをして、俺がギルドから派遣された者だとわかると、部屋を借りるように命令した。そこで込み入った話をするらしい。

「もし誰かが訪ねたら、行商人だと名乗って、それ以上は言わないこと。それか誰にも何も言わないこと」
「わかった」
「いいえ、Cheydinhalがどこかは存じませんが、でも頑張ってくださいね、失礼致します」
「いえ、こちらこそ」


「食べ物をお求めですか、それともお泊りですか?」

 宿屋の亭主さんだ。俺は、宿のものが事件に関わっているかもしれないという言葉を思い出した。

「パンとチーズとハムを。それに、部屋を一つ」
「仕事の旅をしているのですか? 外をほっつき歩くような人には見えないね」
「ハハ、よくそう言われますよ。商人だからですかねえ」
「ああ、そうでしょう。そう思いました。多くの方がここを通られるんですよ。えっと、そうだったんですが・・・最近は、ホラ、人殺しで」
「ええ、皇帝も暗殺されるわ、Oblivionの門も開くわで物騒なことこの上ないご時世ですよねえ。だからといって行商しないと飯のタネが無くなるんですよね。Bladesだか帝都兵だかの皆様にはもっと頑張っていただきたいと思いませんか? ともかく、ベッドをお借りしましょう」


 鍵をもらうと、Caminaldaという女性が馴れ馴れしく話しかけてきた。

「失礼ですが、あなた行商の方だと仰いませんでしたか?」
「ええ、その通りです。馬を持っておりましてね、それに乗って旅をしています」

 女はほっとしたような顔でべらべら喋り始めた。


「心配じゃないのですか、最近の人殺しが? 私なら怖くてしばらくは宿に引き篭もってしまうでしょうね! とにかく、お気をつけて!」
「ええ」

 部屋に上がると、すでに彼女が中で待っていた。
 俺は誰も見られていないことを確認すると、扉を閉める。一応、隣の部屋も生体探知の術で探ったが、誰も居ないようだ。


「ここなら話しても安全だわ。ここで休息したら、Gold RoadをKvatchに向かって東へ進み続けて。仲間のバトルメイジと一緒に貴方の後を追うから。例のメイジが現れたら、躊躇せずに自分の身を守って」
「わかった」

 言いたいことを言うと、さっさと彼女は出て行った。


 あの女は、まだ若いが狡猾で冷酷だ。悪人とはいえ人を殺すことに躊躇いが無い。相当な場数を踏んでいると見える。流石はCarahil師のギルドにいる者か。ギルドを回って、アホな人を多く目にしたが、これは評価を改める必要があるだろう。


 翌朝。


 相変わらずの雨だが、俺は宿を出た。既にArielleさんたちが待機している。


 俺は何も言わずに馬に乗ると、獲物を誘うようにゆっくりと馬を歩かせる。草むらでバトルメイジが俺や周囲を見張っているのがわかる。


 程なくして、岩陰から昨日の女が飛び出してきた。

「お前の旅もここで終わりのようね、旅の人。持ち物を頂戴しますよ。最後に殺った奴より多く持っていればいいのだけれど。あれにはがっかりだった」
「・・・・・・」

 俺は何も言わずに馬を下りて、剣を掴もうとしたが、それより先にArielleたちが飛び出してきた。


 正直、俺は何もする必要がないくらい見事な連携だった。俺が攻撃を仕掛ける前に、強盗に致命的な一撃を見舞ったのだ。


「よくやったわ。これでGold Roadも少しは安全になるはずよ。Anvilに戻って、仕事が完了したことをCarahilに伝えてちょうだい。私たちはここに戻って後始末するから」
「わかった。それにしてもアンタら強いな」
「まあね」

 その後、宿に向かう彼女を見たが、それが彼女を見た最後だった。


「彼女? その女は死んだのね。ArielleとRoliandは為すべきことを果たしたわね。罪の無い人たちの死は無くなるわ。少なくとも、今後は。Raminusに推薦状を送ることに致しましょう」
「ありがとうございます」
「言っておくけど、それが最終的に役に立つかどうかは怪しいわ。力の無い人たちのことを彼等がすぐに忘れてしまうことにあなたも驚くでしょう」
「ご忠告、感謝します」

 厳しいが、いい人でもある。
 俺はAnvilを発って、メイジギルド本部、アルケイン大学に向かった。


 Arielleとは、何年も後に衝撃的な再会をすることになるなど、この時は思っても見なかったのだが・・・。




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(2007.1.10)