船宿と盗賊団


 一日暇をもてあました俺は、とはいえ遠くに行くことは出来ないので市内の観光で潰すことになった。元々この国に来たのは観光目的だったから丁度いい。
 大学もあれこれ見たし、寺院も見たし、植物園も見たし、Martinが住むことになる宮殿も見たし。てなわけで、夜は家の側にある船宿で飲むことにした。


 この宿はあまり評判が良くないんだが・・・なんでだろな。盗賊が多く住むというWater Frontにあるからだろうか。


 久しぶりに酔っ払った俺は、話のタネに泊まっちゃえーって気分になってベッドを借りることにした。俺の家のベッドと同じであまり質はよろしくないが、こんなもんだろう。一室しかないので、普段は食堂で、たまに酔客を泊める程度だろうか。俺はベッドに横になって、うとうとし始めた。


 何時間経っただろうか。ふと、何か物音を聞いた気がして目を覚ました。それに、船が揺れているような・・・って、出航してるんかい!!おいおいどこに行くか知らんが俺は明日、杖を取りに行かなくちゃいけないんだから困るだろ。


 寝ぼけ半分酔い半分で寝室のドアを開けて足を踏み出すと、見知らぬ男が憤慨しながら近づいてきた。

「おい! Oblivionから飛んできたおめえは何者だ? Blackwater盗賊団には見えないが」
「えー? 確かにOblivionならこの間門を一つ閉じたけどさー、ただの乗客だよう」
「何だ? オラは二人しか乗っていないって聞いたべ。倉庫に用心棒のやつを閉じ込めて、彼女が船長になるんだべ。そしてあんたは置き去りだ」
「へぇー・・・って、オイ」

 俺は一気に酔いが吹き飛んだ。盗賊団、閉じ込める・・・って。乗っ取りに遭ったのかよ!

「ああ、もっかい聞くで。おめぇは誰だ」
「・・・都市警備隊?」

 Bladesだから近いっちゃ近いな。うん。
 俺は自分の答えに納得したが、男にウソこけ! と言って襲われた。そりゃこんな魔術師の格好してりゃな。


 ちっ、剣は家に置いてきてしまった。おまけにクソ狭い船室内だから魔法を撃って魔力が溜まるまで逃げるという戦法が使えない。男もそれに気付いたのかニヤニヤしながら迫ってくる。魔法使いはいかな達人でも接近戦には弱いのが当たり前。


 だが、甘い!
 俺は男の顎に一発見舞った。足がふらついたのか、よろけて隙を見せる。フン、剣は既に達人クラス。格闘だってそこそこやれるんだぜ。鈍器は見習いレベルだが・・・。ま、とにかく。重装武道派魔術師を舐めるな。


 盗賊? フルボッコにしてやんよ。


 それ!
 俺は止めに氷魔法をぶっぱなして息の根を止めさせた。出来ることなら客商売の宿で殺人事件は避けたいが、仕方がない。
 彼の死体を探ると、鍵とメモが見つかった。

 リンチへ
 お前への指令は、船底の甲板に行き、全ての部屋を制圧することだ。おてんば娘の邪魔をしないこと。彼女は一人で自分の仕事をすることになっている。船を自沈させたら、三日後にBravilで落ち合うことを忘れるな。内容を覚えたらこのメモを破棄するように。

 S


 ・・・男がアホだったということはわかった。
 倉庫に用心棒兼舵取りのOrcが閉じ込められていたので、解放して事情を聞く。どうも、盗賊の襲撃で用心棒さんと主人のOrmilさんは捕まり、船は出港したらしい。用心棒とはいえ、酔っ払いの喧嘩専門で、今回のような武装強盗は専門外だそうな。


 詳しく話を聞くと、彼等の人数は四人。この船は三層からなり、ここが最下層の宿のデッキ、中層が居酒屋、最上層は舵があるところだ。
 武器は持っておらねど、着替えは持ってきたのでいつもの格好に着替える。用心棒さんが「アンタがあの黒衣の英雄かね」と口笛を吹くのが聞こえた。リンチが剣を持っていたので、それを拝借する。


 俺が居酒屋に上がると、DarkElfの女が近寄ってきた。

「おい、そこのお前! どこに行くつもりだったのだ! Seleneはこういうつまらないミスを許さないだろう・・・邪魔者はいなかったはずなのに!」
「この船を解放している」


「この船からあんたが降りん方法が一つだけあるで。うちらがあんたの死体を船の横っちょから投げる! ぎゃははははははは!」


「うるさい、二日酔いの頭痛がひどくなるだろ」


 女の心臓を貫いて、勝負は終わった。


 「おてんば娘」を殺すと用心棒さんが上がってきた。主人の部屋には鍵がかけられていたが、女の持っていた鍵では開かない。となると、操舵の鍵か。恐らく、そこを制圧しているメンバーが一人はいるはずだな。


 舵のある外の甲板に出ると、俺を見咎めて男がやってきた。

「お? あんたは一体ここで何をしているんだ? あいつらはもうGolden Galleonを見つけたのか?」
「なんだそりゃ。まあいいや、その舵からとっとと離れろ。俺は眠いんだ」


「わしの目の黒いうちはそんなことさせんぜよ!」
「あっそう」


 まー言って聞く連中ではないしな。俺は「憤怒」という男を斬り飛ばして用心棒さんに、舵輪は安全だと報告した。だが、主人のOrmilが救出されるまで船を動かす気はないらしい。確かに。これまで倒した賊は三人。俺と用心棒さんと亭主の三対一で、賊の形成不利だが、主人を人質にとられるとまずい。なにも悟られずにいきなり賊を襲撃したほうがいいだろう。
 しかしまあ、三対一なら賊も降伏してくれるかもしれない。余罪の追及というのもあるし、客商売だから人死には多ければ多いほどまずいだろう。俺はどうすればいいだろうかなーなんて思いながら最後の扉を開けた。


 ドアを開けると、彼等のボス、Selene、「月の女神」が俺を出迎えた。彼女の背後には亭主さんがいる。怪我はしていなさそうだが油断は出来ない。

「憤怒からここの鍵をもらったよ」
「憤怒がだって? 彼には舵輪を守って、誰とも話すなってアタシは言っといたんだけど。お前は誰だ?」

 少し考えて、

「仲間にいれてもらうために来た。あんたがボスだろ」
「ハッハッハ! アタシたちは誰もギャングに紛れ込まれないように鉄の掟を作っといたのさ。その約束は・・・」

 俺はメモの内容や仲間が話していたことを思い出して、女を動揺させた。

「全員処刑した。アンタが最後。どうする? どうしてもっていうならKvatchを救った『黒衣の英雄』がお相手するが」

 あんたがあの・・・とSeleneは青ざめて口をぱくぱくさせたが、ついに降伏した。


 タマネギ頭の主人さんは無事だった。なんとか説得できたお陰で斬りあいに巻き込まずにすんだが、どうも事件に関して心当たりがあるようだ。事情を話すのは彼女を船倉に閉じ込めてから、という。


スタミナを吸収する武器も取り上げたので、さっさと押し込めた。




 主人が言うには、最近景気が悪かったため(衛兵の口コミのせいかもな)前の持ち主が「金のガレオン」という金の彫像を隠したっつー話をでっち上げたという。この船は退役したものを買い上げて改造したものなのだ。案の定、物好きな連中が集まったが、あいつらみたいなならず者も集まったわけだ。まったく、人騒がせな。


 翌朝。
 死体は綺麗に片付けられていた。主人に話を聞くと、衛兵がやってきて、Seleneは引き渡されたという。ついでに掃除もしていったのか。やっぱりというべきか、彼女の首に賞金がかけられていたそうな。これから余罪を追及するんだろう。主人からちょっとしたお礼をもらって、俺は船を後にした。
 やれやれ。長い夜だったな。


 早速魔法大学に赴き、Delmarさんから杖をいただいた。ためしにあれこれものを動かそうと使ってみたが、人は重すぎて持ち上げられないみたいだ。どっちかというと、手の届かないところにあるものを持ち運んだりするもの専用か。ふむ。どういう使い道があるのか研究するのも面白いな。



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(2007.1.10)