本のありか


 杖を手にして家に戻ると、手紙が投げ込まれていたのに気がついた。差出人はJauffre。なるほど、とうとう「おでまし」のようだ。
 調査をしていたBaurusに渡りをつけて欲しい、とのこと。本人は特定の家を持たず、宿で下宿しているらしい。ふむ。目立つ服装はまずいだろうな。いつもの黒ローブではなく、地味な見習いローブを着てBaurusがいる宿に向かった。




 あいにくの雨模様だったが、それに乗じ、雨宿りをする振りをして宿に飛び込んだ。さて・・・。


 おっと。久しぶりに見るな。元気そうでなにより。隠密のためか、一般人の服装をしているし、俺が来たことに気付いているだろうが特に話しかけることもしない。俺はさりげなく隣に座って店主に「身体が冷えてねえ」と笑いながらエールを注文した。それが干される頃。Baurusは俺に囁きかけてきた。

「いいか、私は数分でここを出るつもりだ。私の後方の角にいる男は、私の後をつけるはずだ。そして君は、彼を尾行するんだ」
「わかった」


 俺がエールを干すと、Baurusは立ち上がった。さりげなくBaurusの後方角を見たが、本を読んでいる男が一人。




 Baurusは宿の倉庫に入って行った。俺も後をつける。


 倉庫内。男は突然、あの暗殺者の服装を召喚するとBaurusに斬りかかった!
 だが、さすがBladesというべきか、Baurusはあっさりと返り討ちにする。持ち物を探ってみたが、これまでの何の手がかりも残さなかった暗殺者と違い、本を一冊入手する事が出来た。俺も見たことのない豪華な装丁の本だ。俺はBaurusにこれを見せた。

「どう? なにか分かったことある?」
「ああ。暗殺者はDaedraの崇拝者集団、Mythic Dawnとして知られるものたちだ。Mehrunes Dagonを崇拝している。私は帝都の諜報員を追跡していた・・・が、気付かれたようだ」
「なるほど」

 Mehrunes Dagonか。破壊と天災の君主。信者もそれなりに凶悪で、Dark Brotherhoodの者に入信者を見かけることができる。このような神格なので、Morrowindでは公に礼拝することは許されておらず、人里離れた祠に信者がいたりする。ここCyrodiilでもそれは同じのようだ。

「情報交換と行こうか、良い知らせと悪い知らせ。悪い知らせから先に言うと、アミュレットは敵に奪われた・・・が、皇帝の息子は無事だ。Martinという。Kvatchのことは知ってるだろ? あそこから救い出して、今はCloud Ruler寺院にいる。幸い、真面目な性格で、自学に励んでるところだ」

 皇帝を守る、と息巻いていながら成し遂げる事が出来なかったBaurus。この知らせで、息子が生きていたことを確信できたようだ。今度こそ、と息巻いている。

「で、これからどうする」
「大学に学者が居る。Tar-Meenaが彼女の名前だ。Daedra崇拝の専門家だよ。君は見たところ大学に入学したんだろ? だったら君が彼女のところにその本を持っていってくれないか。手続きが要らないからね」
「わかった」


 俺は早速、大学図書館に居る彼女に会いに行った。


 この人がTar-Meenaさん。Bladesの使いということをほのめかして、Mythic Dawnについて聞いてみる。
 Oblivionにおいて、Daedraの君主は十六柱いる。それらを崇める教団が、穏健派から過激派まで無数存在するが、その中でも、Mythic Dawnは最も秘密主義を通している一派であるという。マスターはMankar Camoran。俺の持ってきた『Commentaries on the Mysterium Xarxes』の著者。
 当然、奴等を見つけなければならないが、秘密主義の教団だけに容易ではない。彼の『評論集』は全四巻あり、その本の中にMehrunes Dagonの神殿の在り処の暗号が示されているという。この本を手に入れて暗号を解読し、神殿を見つける事が入信への第一歩・・・か。


「んなもんどこかで大安売りしてるわけじゃないでしょ? 一体どうやったら見つかるんですか」
「図書館に第二巻を所蔵してるの。これ、写しね。慎重に扱いなさいな。それで、三巻と四巻は、私は見た事がないの。でも、そうね。商業区のFirst Editionなんてどうかしら。収集家相手に商売をしてるから希少本について心当たりがあるかもね。他には何か質問ある?」
「著者のMankar Camoranはどんな人物ですか?」
「恐らくMythic Dawnの指導者。『神秘なるXarxesの評論集』を執筆したの。でも、Tiber Septimと同時期、四百年以上前に書かれたものだから・・・・彼が生きているなんてありえないんじゃないかしら」
「神秘なるXarxesって?」
「Mythic Dawnの聖典。Mehrunes Dagonが自ら書いたそうよ。もし存在するなら、強大にして邪悪な力の遺物ってところ」
「なるほど、ありがとうございました」
「いえいえ。何か分かったことあったら教えてね。特に本については」

 流石Bladesに頼りにされているだけあるTar-Meenaさんだ。俺は早速本屋に向かった。ここの店主さんから何冊か本を買った事がある。俺も、熱心な魔術師になりきって話を聞いてみた。


「『神秘なるXarxes』について何か知りませんか?」
「君は『神秘なるXarxesの評論集』を調べなくてはならない。よくやる間違いだ。全四巻からなっており、一巻と二巻はたまに見かけるが・・・三巻と四巻は見つかるまい」
「一巻と二巻はあるんだ。三巻と四巻がどうしても必要なんです」
「うーん、たまたま三巻の写しを手にしたんだが、これはValenwoodから来た他のお客さんの注文なんだ。すまないね」
「・・・・・・」

 わざわざ隣国からか。まさかそいつMythic Dawn入信志望者だろうか。皇帝暗殺に関わったこと知ってるのかな。知らなかったらまだ説得の余地はあると思うが・・・。


 ん。考え事をしてる間にそのお客さんが来て本を受け取ってしまった。WoodElfの国から来ただけあって、WoodElfのようだ。




 早速呼び止めてみる。

「Mythic Dawnを探してるんですか? 俺もMythic Dawnについて知りたく思ってるんだけど、その教団についてどれほど知ってるのか教えてくれませんか」
「Mythic Dawn? 私には君が何のことを言ってるのかサッパリだね! 私は狂信集団とやらについて何も知らない」

 ほう。狂信集団ということは知っているのか。

「そんなひでえこと言うなよ。ホラ、俺だって一巻と二巻持ってるぜ。なんでアンタは狂信集団の頭が書いた本だっていうのに三巻を欲しがったんだ?」

 男は少し考えて言った。

「いいでしょう。あなたはMankar Camoranの『評論集』のことをよくお知りのようだ。Daedra崇拝は一般に受け入れられていないが、それは偏見、迷信というもの。好奇心に富む、偏見無き思索家にとって、Daedra崇拝は実り多きものなのです。Mythic Dawnもその一つ」

 うふふふ、と自慢顔で言うWoodElf。まあ確かに、俺も興味が無いことはないが・・・。

「皇帝暗殺事件、知ってるだろ。犯人はMythic Dawnの信者だ。お前、そんな奴等の仲間になりたいのか? 今Bladesが殲滅のために血眼になって探してるって噂だぜ。馬鹿な真似は止めた方がいいんじゃね? 殺されるぞ」

 ぽかんとした後、彼はガタガタと震えだした。ふむ、様子から見てMehrunes Dagonを信仰しているということ以外、奴等の内情については知らなかったようだ。本を渡すように言うと、押し付けるように俺に手渡した。

「四巻について知ってるか?」
「四巻はMythic Dawnのメンバーから直接入手するしかない。彼等が私に接触してきて、メモを渡してくれたんだ。私はもうMythic Dawnと関わるのはごめんだからね!」
「うん。ああ、これ、少ないけれどとっておいて」

 俺は謝礼としてコインを握らせると、Baurusが待つ下宿に向かった。そういえば宿で殺人事件を一丁こしらえてしまったんだが、もしかしたらこの宿もBladesの息がかかったところなんだろうか。


 早速メモを見せると、待ち合わせの場所に向かおうと言い出した。メモの指示した場所は何と下水道。だが、隠密任務で知られないように移動するため、Bladesは下水道についてよく知っているという。なるほど、そういえば皇帝の脱出通路は下水に通じていた。そういうことか。


 Baurusさんに案内され、俺は近くにある入り口から中に入った。臭いが仕方ない。


 下水道はネズミやゴブリンの巣窟。中には犯罪者やその上ヴァンパイアまでいるんだから、帝都は本当に凄まじい場所だ。規模の大きい都市は下水も発達しているが、同時に犯罪者や獣、幽鬼の類がそこに住み着いてしまうことがある。
 しばらく行くと、Baurusは足を止めて俺を振り返った。

「このドアをくぐってすぐにテーブルの置かれた部屋がある。常々、誰がそれを置いたのか疑問に思っていた。そこの階段を昇れば、会合場所を見下す有利な位置につける。君はそこで見張っていてくれ」
「わかった」
「・・・俺は生きて帰れないかもしれない。だが、あんたは生き残るんだ。生きて、必ず王のアミュレットを」
「縁起でもないこと言うなよ。失敗なんかしないから、俺がなんとかするからさ」

 俺の言葉にBaurusさんは笑うと、所定の位置についた。俺も上にあがって無視の呪文を自分にかける。


 ・・・おいおいアブねえな! 魔法かけてなかったらみつかったじゃねえか!


 心臓をばくばくさせながら様子を伺っていたが、Baurusの面が割れていたのかどうもバレた。仕方なく斬り合いになったが、難なくやっつけることに成功。Baurusさんも無事だった。しかし何だ、奴等の頭、Raven Camoranが持ってた指輪、耐魔法50%防御に魔法反射までついてるぜ。一体何のチートだよ。それにしても、CamoranってMankarだけじゃないのか。気をつける必要があるな。


「四巻が奴等の懐にあったぜ。どうする」
「私はCloud Ruler寺院に行こう。Martinの側にいる」
「そっか。じゃ、俺はTar-Meenaに四巻をゲットしたことを伝えに行くよ。無事でな」
「ああ」


 Baurusさんは地上にまっすぐ帰還したが、俺はその辺を探ることにした。どうも奴らは下水に住んでいたようだ・・・物好きだな。


 早速Tar-Meenaさんに会いに行った。評論集に隠された謎を解き明かすのにやる気になったようだ。明日以降に来て欲しいと言われたので、俺はひとまず家に帰って寝ることにした。これからやることがあるのだ。


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(2007.1.13)