神殿を探せ!


 盗賊ギルドの試験から一夜明けて。
 俺は昼近くまで眠ってから、大学図書館に出向いた。


「悪いわね、もうちょっとで閃きそうなの」
「はあ」

 当のTar-Meenaはもう一日待って欲しいと呟いた。どうも、ひらめきが喉元まで出掛かっているようだ。ここは余計なことをせず静かに引き下がるのが得策。授業を受けて、大学を後にした。しかしまあ、大学って意外に冷たいところだな。支部の人よりも、自分のことしか考えていない傾向が強いような。大勢の人に門戸を開いている支部と違い、冷たい門と高い壁に囲まれているから、どうしても閉鎖的になるんだろうか。魔術師の自己中がよく現れてるなあ。


 時間が出来たので、早速盗賊としての仕事を開始することにした。
 服装も目立たないような上等なものに着替える。人ってのは大抵の場合、人柄を服装で判断するものだしな。試験の時のようなワイルドな格好だとアレだ。
 まずは商業地区を狙う。盗賊として振舞う場合、昼間から店に入ることは出来ないが、別の入り口から入ればOKだ。


 そう。帝都を縦横に走る下水道。いくつかの家は下水で繋がっているので、地下室ならば簡単に出入りすることが出来る。特に、今は店員がカウンターに釘付けになっている時間だ。


 ここは「Best Defence」の地下か。ふむ。
 ちなみに、根こそぎ盗んで行くのも品が無い。常連だしな、俺・・・。それに、泥棒ってのは表立って名乗ることは出来ないが、手法でサインを残すものだ。俺の場合、無くなってもそれほど困らないようなものを狙う。すなわち、嗜好品で簡単に手に入るもの、ワインを、だ。


 おっと。この白い小瓶はSkoomaか・・・。思わぬ情報を手に入れてしまった。この家業は人様の裏の顔を見ることも出来るってわけだ。


 ちなみに、仕事が終わったら完了の印として矢を突き立てておく。俺は食うに困って泥棒するわけじゃないし、同じ家に何度も入るのも、その家の人に悪いからな。こんなことしている時点で十分悪いんだが。


 仕事が終わったらさっさと立ち去るのも泥棒のつとめ。次の仕事場に行くべ。


 ワインをせっせと盗み続けて一夜が明けた。俺は早速図書館に向かう。
 Tar-Meenaさんは寝不足なのか目をとろんとさせながらも、徹夜特有のハイテンションで俺を出迎えてくれた。

「各段落の最初の文字がメッセージになってる!
 こう書いてあるわ。『苔生した皇帝の道にある塔が真昼の太陽で輝く』。ホラ、宮殿の周囲にある庭のことよ。そこで何があるのか、ワクワクするわ! 仕事が無かったら見に行くのに!!」
「アハハ、じゃあ代わりに俺が見てきますから、分かったら最初に教えますね。でも、皇帝を暗殺したカルトに関わることですから、神殿をマジで探さないでくださいね。ヤバイですから」
「んもー。あったりまえよ! 秘密主義の教団って一度入ったら抜け出せないような危ないのが多いしね。私は知識欲は人一倍って自負してるけど危険なことに首を突っ込むのは御免よ」

 はしゃぐ彼女は子供のようだ。俺はつられて笑うと、宮殿地区に向かった。


 しかし、ある程度見当をつけることが出来てもここは広い。流石にどこから調べていけばいいものか。
 まず色々可能性を削ぎ落とす。『塔が真昼の太陽で輝く』っつっても塔の壁ってのは無しだ。衛兵が気付くだろう。歩道も無いだろう。石とはいえ、風雨や人に踏まれることで風化するからな。普段散歩や見回りに来る人間の視界に入りにくいものだろう。ならば、目立つところではなく、ある程度人目に付かない墓石か、外周の壁に仕込みがあるのか・・・。


 既に時刻は正午。俺は塔をちらちら見ながら、周囲に何か変わったものが無いか探し回った。


 これは・・・。
 霊廟に刻まれた、あの赤いローブと同じ色が俺の目を刺激する。
 夜明けのシンボルと、Cyrodiilの地図。そのある一点に、印がつけられている。ここに神殿があるらしい。俺は地図を取り出して印をつける。神殿は湖の側にあるようだ。場所はCheydinhal北。
 俺は地図をしまうと、一旦大学に戻ってTar-Meenaさんにこのことを教えて、それから家に戻って出かける支度をした。あの人はとても喜んでいた。地図を見るだけなら大丈夫! と言ってたから、近いうちに霊廟を見に行く気だろう。それに彼女のことだから神殿まで行く無謀なことはしないはず。まあ、神殿の所在がバレたからには奴等も無事では済まない。恐らく皆殺しになるだろう。


 これまでのことを報告するため寺院に行きたいが、いつまでも盗品を家に保管するのもまずい。まず盗品で重くなった身を軽くしなければならない。幸い、Brumaに盗賊ギルド御用達のバイヤーがいるので、まずそこに立ち寄る。


 えーと、ここか、盗品を買ってくれる人の家は。俺は戸を叩いて中に入れてもらった。


 Ongerは帝都の俺の家と同じようなあばら屋に住んでいる。早速ワイン泥棒のことを冗談混じりに突っ込まれた。いいじゃんかよう。ワインだって集めれば結構な額になるんだし。


 換金が終わったら寺院に寄って、神殿のありかを報告する。今のところ情報を知っているのは俺だけだし、その俺が行方不明になったら目も当てられない。しかし何だって本部はこんな寒いところにあるんだ。もっと気軽に帝都の近くにないものか。


 Jauffreからは「やって来い!」と言われたわけだが。ただ、まずMartinを守ることが第一なのでオフェンスは俺以外に人員が割けられないようだ。それに、信者候補が一度に何人もいるわけが無い。入り込むのに適切な人数は一人。顔の割れてなさそうな新参で尚且つ地獄のKvatchから生きて帰った俺しか候補がいないというわけだ。


 Baurusも無事に寺院に辿りついて、Martinの護衛をしているようだ。御礼に剣術を少し教えてもらった。
 ここの守りは今のところ磐石だ。しかし、攻撃に割く余裕が無い。それに、大勢送り込んでも戦場ならともかく狭い場所では不利だ。それに、俺はあまり人を気遣えない。範囲魔法ぶっぱなして巻き添えなんて目も当てられんし。ならば一人で行ったほうが楽だ。


 神殿か・・・。まず間違いなく信者が大勢いると見て間違いない。恐ろしいのは大勢で一斉に斬りかかられること。しかも奴らは死を恐れない。あー、まあやるしかないんだがねえ。終わったら観光したいなあ。


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(2007.12.30)