潜入・地下神殿


 帝都に戻って商業地区で神殿に出かける支度をした。
 急襲するのもいいが、一人だと急襲もクソもない。ここは、熱心な信者候補になりすますが吉。現在俺は「黒衣の英雄」として人の口に上っているので、それを連想させる黒いローブや鎧の類は着用できない。魔術師御用達の杖とローブの店で連中がよく着ている真っ赤なローブに似た感じのローブを見つけたのでそれを着て出かけることにした。


 Cheydinhal北部。人の住まわない地域だが、こんなところにも道がある。信者が踏み固めてきた道だろうか。


 ここか。俺は気を引き締めて木の扉を開いた。


 しばらく行くと、ローブを纏った男性が見えた。そして夜明けをモチーフにしたタペストリー。ここで間違いないようだ。
 俺に気がついた男は、こちらに近づいてきた。

「夜明けは来たりし」


「新しい日を迎えます。Camoran様とDaedra LordのMehrunes Dagon神によって」
「ようこそ、信仰の友よ。もう遅い時刻だ。だが、主はまだ自ら誰かを助けようとするものを必要としている」

 良かった。とりあえず騙すことが出来たみたいだ。俺は内心ホッとした。
 神殿の中に入る許可を貰い、Harrowという人が俺を案内するそうだ。扉を開けてもらい中に入ると、早速それらしいDarkElfが俺を出迎えた。



「私はHarrow、Dagon神殿の監督官だ。我らが主、Manker Camoranの書物に隠されたDawnの道に従うことで、お前は選ばれし者の地位を手に入れるだろう。良い時に来た。お前は主自身の手で教義の手ほどきを受けるという名誉を与えられる」
「主がここに?」
「そうとも。主は気前が良いので、Mythic Dawnの一員になら、必要なもの全てを与えてくれるだろう。荷物を差し出し、この入門用のローブに着替えるのだ」

 ヤバ、と思ったがそうもいかない。いざとなれば魔法で何とかするしかないか。俺は荷物を全てHarrowに預けた。


 内部は大勢の信者が生活しているようだ。それらしい生活空間をチラッと見ることが出来た。秘密神殿だけに、迫害されている者が集まってるということか。そして所々に歩哨が立っている。俺は奴等の目を盗んで、Harrowからエンチャント済みの指輪とアミュレットをスっておいた。いざとなればこれが役に立つだろう。


 ついて行くと、広場のような大きな空間に出た。誰かが集まって壇上を見ている。ここが地下神殿の要、最深部か。


 Mehrunes Dagonの像。その足元に誰かが横たわっている。どう見ても生贄だよな・・・。これはまずいぞ。


 丁度ホールに入ったとき、誰かが壇上で話し始めた。見ると、HighElfの男性が王のアミュレットを首にかけて機嫌よく語りかけている。俺は神妙に聞き入る振りをしてチャンスをうかがった。それにしても、アミュレットは王族以外は着用できないはずなんだが・・・いかな術を持ったものか。

「竜の座は空位である。称えよ、そならの兄弟姉妹らを! 楽園での汝らの報酬は莫大なものとなるであろう! 称えよ! これよりDagon神の御言葉を聞くのだ。『私がもう一度大地を歩む時、汝の新とは汝からの報いを受け取るだろう。他の全ての定命なるものの上に永遠に立つことになるのだ。後のことについて。弱きものは選別されるであろう。臆病なる者は目を伏せ、強きものはひざまづき、許しを請うことになるであろう』。ゆえにDagon神は言いなさる。称えよ、と。我らにはDagon神に仕えるものとしての義務を負うことを望む、新たな信仰の友たる男性がいる。そして我らは王のアミュレットを手にしている! 兄弟姉妹よ、そなたらの報われんことを! 浄化のときは間近である。これより私は楽園に行く。黎明のとき、Dagon神とともに私は戻ってこよう!」


 語り終わるとCamoranは光る門を開いて、行ってしまった。しまった、取り逃したか・・・。


 畜生。しかし、『神聖なるXarxes』はあの壇上にある。門外不出のアレが、どうにかして手に入らないだろうか。


 しかし・・・「浄化」に「楽園」、選民思想か。いかにもカルトが使いたがるおキレイな言葉だ。はっ、今、世界は穢れた闇に包まれていて、夜明けになればMehrunes Dagonを信仰している奴ら以外皆殺しにするつもりかね?
 彼等が欲する世界は、人の歴史が刻まれる前、AyleidたちがCyrodiilを治めていた世界。Oblivionとこの世の境界が無かった世界。近頃、HighElfは彼等の故郷でDaedra信仰が盛んになっている噂を聞いた。それと関係あるかな。それに、HighElfの故郷は帝国人に追われたAyleidが逃亡した先だ。そのような気質になるのも頷ける。


 ここでHarrowは、俺に入門儀式として「赤き飲み物」を捧げることを要求してきた。まさか・・・と思うと、Ruma CamoranというHighElfが(こいつもCamoranか)手招きして、俺に話しかけた。

「Lord Dagonの敵の血である赤き水で、この契約に封をしなければならない。ダガーを取れ。そしてLord Dagonにお前の血の誓いとして、生贄のいまわの赤き水を捧げるのだ」


 ダガーって・・・これか。側に例の本が置いてある。俺はとりあえずそれを取った。


 逃げられない。かといって、殺すのもねえ・・・。どっちみち本を取ってトンズラしたら誅殺命令出すに決まってるし。Morrowindの祠でDagonのお供え物をパチったためにDremoraに襲われたことがあるが、あのようなことになるだろう。


 俺はチラッと生贄を見た。敵の血ってことは、Nineに仕えてる僧侶を誘拐したってことか。いくらBladesでも殺害は嫌だな。それに、救出できれば貴重な証言をしてもらえるだろう。そうすれば、皇帝を暗殺したカルトがいかに狂ってるか知らしめることが出来るはずだ。

 いかにも殺しなれてないウブっぽく、息を荒げると少し心を落ち着かせる余裕を下さい、と言って壇上から降りた。俺は腹を決めた。こちらの武器は銀のダガーのみ。しかし、魔法がある。俺は頭の中で算段すると、振り向きざまに、俺の荷物を持っているHarrowに魔法を見舞った。


「お前は・・・!」
「黒衣の英雄、と呼ばれている」


 信者が一人魔法で吹っ飛んだが、流石にHarrowは持ちこたえたようだ。他の信者も俺が敵であることに気がついたようで、すぐに変身する。そうでない下級のものは武器や素手で応戦してくる。俺はすぐにClanfearを召喚してHarrowの首を掻き切り、荷物を取り返した。


「遅い!」


 辺りが静かになったのを見計らうと、生贄を解放した。しかし、相当怯えている様で逃げ回って怯える始末。


 落ち着くまで俺が先行して道を開かなければならないだろう。とりあえず、丸腰の彼に防御魔法を唱えると、俺は壇上の本を手に取った。


 ・・・わからん。
 じーっと見ていても何か浮き出てくるわけではなさそうなので、俺はさっさと懐にしまった。Martinが昔Daedic魔法に心酔してたから何か教えてくれるかもしれない。


 そんなことを考えていたら、背後の石像が音を立てて崩壊した。大きな音だったから外の信者にもバレただろうな・・・どのみち生贄が逃げたことは発覚するし、ここの信者は生かしておけない。ならば、出口まで突っ切るまで。


 おらー! どいたどいたー!!


 出口近くになってようやく我に返ったArgonianは、非礼を詫びて自己紹介をしてくれた。

「Jeeliusといいます。いやホント、申し訳御座いません。あなたが誰か知りませんが、きっとAkatoshがあなたを導いてくれるでしょう」
「まあ、殺せとか言われてたしね。所で、アンタ僧侶?」
「ええ、帝都のTemple of the Oneの僧侶です。もし帝都に寄ることがあれば、歓迎いたしますよ」
「ありがとう。そうそう、出来ればいかにMythic Dawnの連中が非道で狂ってるか官憲にでもいいから伝えて欲しいんだが。奴等、多分Nineに仕えてる人たちを狙って誘拐してる」
「本当なら忘れたいんですが、同胞が襲われているとなれば・・・。幸い、寺院には話術がCyrodiil一巧みな方もおりますし、信じてもらえると思います」


 俺はそこで彼と別れ、再び洞窟に入り込んだ。
 まだ信者がいたので、皆殺しにして教本を奪い取る必要があったのだ。ローブはともかくこういうのが万が一人の目に触れるようなことがあってはならないだろう。俺が去った後にBladesも調べに来るかもしれないが、無関係な冒険者が入り込む可能性があるし、こういう本が発見されて市場に流れると困る。

 俺は洞窟を出ると帝都に帰り、一旦休息することにした。血の臭いが立ち込めた場所から出た直後の空気は本当に美味い。


 とりあえずあの人が無事に戻ってるか確認してからChorrolの連絡所に寄って、Brumaに向かうとするか・・・眠い。


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(2007.2.16)