背徳の英雄に死を

 Best Defence。軽装備のMaroと重装備のVarnadoがコンビで店を開いている店で、裏方ではいつも街をぶらついているGin-Wulmが鍛冶を受け持っている。
 寺院に出かける前に、身を軽くしようといつものように武器や防具を売りに行くと、重装備が専門のVarnadoから声を掛けられた。

「オイ、新しく入荷した防具を見ていかないかい! アンタみたいな黒っぽい重装魔術師にピッタリの防具があるぜ」

 進められるままに試着してみると、これまた黒い装備。(フードは非売品である)


「見かけはSteel製の防具だが、壊れにくいし魔術師っぽく仕上げてある。どうだい?」
「結構いいね。なかなか黒い防具はないから買わせて貰うよ」

 こうして俺はBlack Mailを一式買い取ることになった。なかなかいい防具だ。大学に寄り道してエンチャントでもしようかと考えて店を出たら、いきなり「For Lord Dagon!」と叫ぶ声が聞こえたのでビックリして声の方角を見たら、あの装備一式を召喚するとき特有の空気の揺らぎが目に入った。


「帝国の犬め、死ね!!!」

 いきなりの事態に、人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
 俺は迎え撃とうと咄嗟に構えを取ったが、それより早く巡回中の帝国兵が弓矢を腹部に命中させた。俺はよろめいたMythic Dawnのエージェントの首を掴むと、渾身の力を込めてへし折った。骨の折れる致命的な音がして、俺の腕を掴んだ手がだらりと下がる。


 男の名前はUlen Athram。帝都に住んでいるDarkElfだ。
 恐らく、帝都に潜伏してスパイ活動を行っていたスリーパーなのだろう。今まで俺は頻繁に商業地区に出入りしているから、こいつとも何度かすれ違ったことがあるに違いない。それなのに今になって襲ってきたのは、俺のツラがバレたというわけか・・・。まずいな。一日経ってるから、既に俺の人相が隠れ信者に伝わった可能性が高い。

「これは一体・・・」
「皇帝を暗殺したカルトの連中だと思います。Mehrunes Dagonの名前を叫んでいました」
「なんだと!・・・わかった。検分するから、後で刑務所に来るように。事情を聞くから」

 今までの成り行きを説明するのも面倒なので、嘘ではない程度の話を作っておこうと考えながら俺は寺院地区に向かった。


 Jeeliusの顔を見る前に適当に飯でも食ってくか、と、裏通りにあるThe All-Saints Innに入ると、また叫び声が上がった。


「For Lord Dagon!」
「またかよ!!」



 エージェントは二人。Marguerite DielとStyrbjorn。最近この宿屋に泊まっていた客のようだ。
 俺はClanfearを呼び出すと剣でバッサリと斬り飛ばした。幸い、他の客や亭主に累は及ぼさなかったもののいきなり始まった殺し合いに帝都兵が駆けつけてきて俺を刑務所に引っ張って行った。


 おっさんに、事情を説明して釈放してもらう。
 噂になっているカルト教団の手の者であることが「For Lord Dagon!」という叫び声から推定できたし、何より先に向うから襲い掛かってきたので正当防衛が成立した。まったく、いつの間に都会は恐ろしいところになったんだ・・・。


 やっとこさJeeliusに会いに行くことが出来た。あんなことがあったとは思えないほどピンピンしており、命の恩人だとありがたがられて、回復魔法を教授してもらえた。成り行きで救助することになったが、助かる命が助けられてやっぱり嬉しい。


 俺は朝早くに出発した。昼食と連絡を兼ねて修道院に行った後はChorrolの宿に立ち寄ったが、ここにもスリーパーが潜んでいた。


 そいつの家を漁って見たが、Mythic Dawnのローブと教義書が地階に放置されていた。俺は教義書を取ってBrumaに向かう。


 JauffreとMartinの乗ってきた馬は、ここの厩で世話されているようだ。


 俺は早速、あったかい大広間に飛び込んだが、すぐJauffreに捕まった。

「よく無事で帰ってきたな。して、アミュレットは?」
「・・・Camoranはそれを身に着けて『楽園』というところに逃げていった。奴等のいう『夜明け』・・・まあ、Mehrunes Dagonがこの地にやってくる日まで引き篭もるつもりだからどうにもならない」
「何か良い知らせは無いものか・・・」

 Jauffreは明らかに落胆した顔で溜息をついた。

「Mysterium Xaxesを奪うことに成功した」
「よし。ならすぐ殿下のところに行きなさい。彼はDaedraのことを研究中だ。しかし、君が出発してからほとんど寝てなくてね・・・」
「待て。MartinはKvatchが陥落してからロクに眠れてないってChorrolに着く前に言ってたぞ。ってことはずっと寝てないってことじゃないか。結構トシなんだし、倒れたらどうするつもりなんだ」
「私たちが言っても効果がなくてね・・・是非君からも進言してくれ」

 その道の者ってのは没頭すると寝食を忘れがちだが、Martinもその気があったようだ。


 いたいた。


 Baurusが影になってMartinの背後を守っている。Martinは以前はBladesたちの休憩所みたいなところで本棚を漁っていたんだが、ここに移動したようだ。Bladesの出入りが多い場所なので気が散って仕方がなかったのかもしれない。出入りが多いということは顔を合わせやすいということで、つまり崇拝の言葉を聞く確率が高くなるということだ。以前、Martinの顔を見に来たときに、Bladesの隊員におっかなびっくりな言葉を言われていたのを見たことがある。そんなのに辟易して逃げてきたのだろう。確かに顔をあわせるたびにエエエエクスキューズミーセラみたいなこと言われりゃ嫌気が差すわな。


「Martin」

 俺は机に手を突いてMartinの顔を覗き込んだ。

「少し待ってくれ。この段落が終わったら・・・」

 Martinは栞を挟むと、メモに走り書きをして本を閉じた。


「すまないな。私のことは心配するなとJauffreには話していたんだが」
「俺はアンタが安心して寝られるようにここに連れてきたのに肝心のアンタが寝なくてどうするんだよ」
「昔からこういう性質でね。しかし、以前は何日か徹夜しても大丈夫だったのが、もう出来なくなったことが残念だ」
「そりゃ年だからだろ」
「もう50になるからな・・・君はまだ若そうだが、40を越えるとガクっとくるぞ」
「そっか・・・」
「Argonianはヒトにとっては年齢などが見分け辛いが・・・二十歳というところか?」
「いや。26・・・今年で27くらいになるかな」
「何だと、また随分童顔だな」
「そうなんだよねー」

 他愛も無い言葉だったが、Jauffreが肩をぴくっと動かした。俺もMartinもJauffreには気がつかず、本題に入り始める。

「・・・というわけで、アミュレットは取り戻すことが出来なかった」

 その言葉に、Martinはやはり落胆したようだった。俺はその代わりに、と言いつつ地下神殿で見つけたMehrunes Dagonの書を差し出す。すると、Martinは青褪めて俺からそれを奪い取った。


「それは持ってるだけでも危険なものだ!」
「嘘だろ!? 俺中身まで見ちまったぞ!!」
「何・・・? まあいい、友には何かの神の加護でもあるのか?」
「うーん、Mephala様と、特にAzura様は敬意を寄せてるけれどなあ」
「Mephala? また物騒だな」
「まあ、Morrowindでは別にー、な感じだけれどな。あー、そうそう。何だかよくわからない魔法陣みたいなものが二つ書かれてたぜ」
「ふむ。そのようなものを目にして影響を受けずにいられたのは幸いだ。しかし、覚えていておくれ。記号や文字はそれ自体には意味を持ち、何らかの象徴となっていることは魔術師である君も知っているはずだ。ある特定の法則で書かれた場合、紙切れでさえおぞましい力を持つものだよ。魔法屋でよく売られている巻物のようにね。Daedraのものはまるで意思のあるかのように振舞う武器やら何やらも多い、特に書など、うっかり目にしたら、そしてその書が悪意を持っていたらどうなることやら。特にMehrunes Dagonの書いたものだ。これは私が預かろう」
「Martinは大丈夫なのか」
「昔取った杵柄でね、邪悪な力から身を守る術を修めている」
「ふーん、で、これさえあればどうかな、CamoranのParadiseまで行ける?」
「私の勘では楽園への入り口がここに隠されていると睨んでいる。一つは恐らく空間を開いてOblivionとMandasを一時的に繋げる魔法陣。もう一つは・・・Paradiseの創生方法というところだろうか。特に君が先ほど言った魔法陣がどういうものか調べてみる必要があるだろう。だが、時間がかかる。先ほども言ったが、目にするだけで危険が伴う場合もあるからな。うっかり言葉を口にするだけでもとんでもない結果が生じることもあろう。慎重に読み進めるつもりだ」
「そっか・・・」

 Martinは肩をすくめて笑った。

「闇の技を捨てて僧侶になったのに、運命は私にこの書を授けた。『神は全てを利に変えることが出来る』とはいうがね、いよいよその言葉を信じたくなってきたよ」
「全てを利に・・・無駄なんかないってことか。Nineもたまにはいいこと言うな」

 俺は解析に取り掛かったMartinを邪魔することも出来ないので、この場は引き下がることにした。


 解析には時間がかかる。俺はひさしぶりにのんびりしようかとも思ったが、みんな働いているしそうもいかないか。
 帝都やChorrolの他にも奴等の連絡員はいるだろうから全員殺害した方が良いだろう。俺は自他共に認めるお人よしであちこちから利用される体質だが、向かってくる奴等を斬ることに抵抗はない。Morrowindにいた頃は合法暗殺組織のMorag Tongに所属していたくらいだ。他にも、あっちのメイジギルドや盗賊ギルドとかにも所属してたけどさ。Martinが思っているほど、キレイな奴じゃないんだな。Dark BrotherhoodやCamonna Tongよかよっぽど愛と真実の悪を貫いてるけどまあ、フツーの帝都市民から見りゃ目くそ鼻くそかもなあ。
 さて。旅人を装って宿に宿泊しているエージェントもいれば普通に暮らしているスリーパーもいた。ここはMorag Tongで培った技量を生かして家に一軒一軒忍び込み、証拠を見つけたら寝首を掻くべし。Dagoth Urが用いたような強制的な洗脳ではなく、自分から進んで入信したんだろうから、見つけ次第殺すしか手がないだろうな。Mephala様、Azura様見ていてください。そしてついでにワイン泥棒として暗躍すれば良し。ふむ。予定は決まったから、手始めに帝都から始めるかな。


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(2007.2.16)