黒トカゲの素性
「よし。さて、とりあえず行くかな」
Cloud Ruler寺院を去る時のこと。
預けておいた黒馬をぽんぽんと撫でるNightの姿がそこにあった。
「そんじゃー、Jauffre、何かあったらいつもの通りに帝都の家に連絡よこしてくれや。俺は各都市にいるスリーパーを暗殺するつもりだから」
「わかった。Nightよ、現時点では、奴等の連携を切ることが重要だ。そうして欲しい。何かあれば君に手紙を送るから、こまめに帝都の家に寄ることだ」
「はいはい」
よいしょ、と馬に乗ると、Nightは門の外へと出て行った。
「・・・・・・行ったか」
JauffreはNightの姿が見えなくなり、当分の間戻ってこないであろうことを確認すると、寺院の居住部にある自分の部屋へと戻っていった。
帝国でこそ、隠密であることに加えて皇帝直属の護衛部隊という色彩が加えられ、且つお揃いの具足に刀を纏うという騎士的な意味合いの強いBladesであるが、国外ではそれは当てはまらない。むしろBladesの装備を纏う者は無く、一般人として人々に紛れ込み「どこにでもいるのだが、姿はなし」という隠密的な要素の方が強い。帝国以外の者からすれば、Bladesとはむしろスパイを差した。
人種も、帝国ではImperial、Breton、Redguardのような人間種で占められているが、国外ではElfやArgonianのような人間種以外の種族も暗躍しており、雑多な人種で構成されている。
そして、本拠地であるCloud Ruler寺院には、スパイ活動によって収集された国内外の様々な資料が集められている。
JauffreはMartinの部屋の前に立っていたBladesの隊員に会釈してMartinの部屋のすぐ目の前にある自分の部屋に戻って引き戸に鍵をかける。そして、床板のある一点を外して落とし戸の鍵を開けた。そこには、極一部の者にしか閲覧することを許されない資料が並んでおり、その中から、Jauffreは厳重に保管され、一冊の本として纏められた書類を取り出した。
それは、「ある人物の伝説と予言について」の皇帝とその直属の識者たちの見解と、MorrowindのSpymasterが帝国に帰還した折に提出したレポートのまとめと共に添付された書類の写し。そして、七年ほど前にその国で何が起こったのかの類推。
ページをめくる毎に、Jauffreの顔は険しさを増していった。
異邦人
大地が鳴動し、天空が漆黒に染まり、眠りし者どもが七つの災いをもたらす時、
その只中に異邦人が降臨し、月と星の下に征く。
何も無く、親も無く、運命の星の下に生まれん。
邪悪はその者を追い回し、正義はその者を呪わん。
予言者は口にすれど、全ては否定される。
多くの試練が異邦人の運命を照らし出し、災いは打ち払われん。
多くの試金石が異邦人を試すであろう。
多くの者は振り落とされ、ただ一人が残る。
『Nerevarine cult notes』
Spymaster Caius Cosades
帝国軍Blades所属騎士
東部属州Vvardenfell地区 帝国軍情報部隊 隊長へ
・・・陛下のお望みとは、以下の通りです。
地方の迷信では、不確かな両親であり、特定の日に生まれる孤児にして追放者の若者が、Dunmerの全ての部族を結びつけ、侵略者をMorrowindから駆逐し、古代の法と習慣、DarkElfたちの国を復活させると考えています。
この孤児にして追放者は、伝説で「Nerevarine」と呼ばれており、昔に死んだDunmerの将軍であるFirst Councilor、Lord Indoril Nerevarの生まれ変わりであると思われます。
Yui-Liは、この地方の迷信の条件を満たして生まれました。従って、Yui-Liが、現状のまま可能な限りで、この古代の予言の条件を満たしてNerevarineになることが、陛下のお望みです。
この予言は古代の地方の迷信に過ぎませんが、陛下は最も信頼している専門家、情報提供者、相談者とこの問題に関して協議し、そして、完全に、またはいくつかの箇所において、陛下は予言が本物で重大なものであると納得されました。あの方は真剣であり、あなたがこの問題を細心の注意を払って扱うようにと要求なさっておられます。
『decoded package』
七つの試練
その者が手をかければ、それは為されるであろう。
残されしものも、為されるであろう。
第一の試練
不確かな両親の元、特定の日にIncarnateは月と星の名の下に生を享ける。
第二の試練
Blightの病も、歳月もその者を害することはない。
肉の呪いもその者の前に吹き飛ぶであろう。
第三の試練
Azuraの目の見守る暗き洞窟で、月と星は光を放つ。
第四の試練
異邦人の声がHouse同士を結びつけるであろう。
三つの家はその者をHortatorと呼ばう。
第五の試練
異邦人の手がVelothiを結びつけるであろう。
四つの部族がその者をNerevarineと呼ばう。
第六の試練
その者の高潔な血が流れても、悲しむことなかれ。
その者は彼らの罪を食い破って再臨せん。
第七の試練
その者の慈悲は呪われし偽神を解き放ち、枷を打ち砕き、狂気を止める。
『The Seven Visions』
Lord Nerevar Indoril, Hai Resdaynia
私の主であり、友であり仲間であるあなたへ。
Load Nerever、平和な時も騒乱の時も、我々は友であり兄弟でありました。どんなHousemanよりも、ずっと良く、忠実に仕えてきました。あなたの命令を沢山こなしてきました。多くのものを失いましたが、とても名誉なことに思ったものです。
Red Mountainの地下で、あなたは私を宝の守りに呼び出しました。私が宝を守っていた時、あなたのことが心に浮かんだものです。あなたの手で打ち倒されたことがどんなにひどい裏切りとして私の心に打撃を与えたことか。
しかし、我々の古い絆を思い出したら、私はあなたを許して、高く持ち上げようと思っております。Sixth Houseは滅んでいません。眠っているだけです。今や、我々は長い夢から目覚めました。外つ国の統治者と偽神からMorrowindを解放するために出て行くつもりです。 偽神となった友人と、強欲な泥棒どもをこの国から払いのけた時、Velothの子供たちは荒廃した不毛の地に新たに多くの楽園を作ることでしょう。
旧友よ、Red Mountainに来て下さい。かつて我々が背負いあった交友と名誉のために。あなたが新たに友情を誓いさえすれば、私はあなたに助言と力を与えましょう。Red Mountainへ至る道は長く険しい。しかし、価値を見出せば、あなたはそこで知恵と、確固たる友人と、正しく世界を支配するための全ての力をそこで見つけるでしょう。
変わらずにあなたに敬意を込めて尽くす下僕にして忠実なる友人、Load Voryn Dagoth、Dagoth Ur。
『Message from Dagoth Ur』
太古の時代、NerevarはDunmerの偉大な将軍であるFirst Councilorで、Vivec、Almalexia、Sotha Silの仲間だった。古代の偉大な、力を持つ指輪、One-Clan-Under-Moon-and-Starを嵌めて、DunmerのHouse同士を結びつけて邪悪なDwemer、凶悪なHouse Dagoth、西側の同盟国とRed Mountainで対決した。その地において、不実なるDwemerは滅ぼされ、同盟国は敗れた、しかし、Nereverは裏切者であるDagoth Urとの戦いで致命的な傷を見舞われ、Red Mountainを去っていった。傷のために長く生きることは無かったが、Templeの誕生を目にするまで生き延び、Dunmerの統一をAlmsiviの元で聖人としてTempleを祝福している。
『Saint Nerevar』
太古の日、古エルフととても多くの異国の者がDunmerの土地を盗みにやって来た。その時、NerevarはHouse Peopleの王にして戦争の指導者であったが、Ancient SpiritsとTribalの法を守るために立ち上がった。
かくして、Nerevarが古代の指輪であるOne-Clan-Under-Moon-and-StarにSpiritsの道と土地の権益を守ると誓うと、全ての部族たちがRed Mountainでの大戦のためにHouse Peopleに参加した。
多くのDunmerのTribesmanやHousemanがRed Mountainで死んだが、Dwemerは破られた。彼らの邪悪な魔力は滅び、異国の者は国から追放された。しかし、この大勝利を収めると、力に飢えたGreat Houseの王たちはNerevarを密かに裏切り、自分たちを神として宣言し、部族の者たちに交わしたNerevarの約束を反故にした。
しかし、Nerevarはいつか指環を身につけて再臨し、偽神を駆逐し、指環の力で部族への約束を果たし、そしてSpiritを守り、国からよそ者を追放すると言われている。
『Nerevar Moon-and-Star』
「はーどっこらしょ」
「ちょっと、そこの君!」
「はい?」
Martinがぽろっと漏らした何気ない一言から俺の身元がバレてとんでもないことになっているとは露知らず、暗殺を終えた俺は馬に乗りかけたところでLeyawiinの門前で突っ立っていた衛兵に呼び止められた。色んな場所で暗殺して回っているのでちょっと身構えたのだが、そういうことではないらしい。友好的な態度で俺に近づいてきた。
「見たところ冒険者のようだね。良かったら少し時間をくれないかい」
「はあ、帝国軍の兵士さんが何の用事でしょうか」
「私の名はLerexus Callidus。見ての通り帝国軍兵士だ。実はSkoomaの密売人を追っていてね。Kylius LonavoというDunmerが頭のグループなんだが、この道の先にあるGreylandに居座ってるんだ。何ヶ月も努力したんだが、いつも見張りに見つかってしまってね」
話が見えてきた。俺は先を促して相槌を打つ。
「奴等を何とかして欲しい、と」
「その通り。奴等が売りさばいている『毒』を取り締まらなければならない。Lonavoの指環を・・・その、奴を・・・止めた、証拠として持ってくれば、賞金を渡すよ」
本当はこんなことをしている場合でもないのだが、時間はさほどかからなさそうであるので快諾した。基本的に自分も悪人街道を走ってる人間だが、人を堕落させて金を巻き上げる麻薬の製造販売は俺の主義に反する。Morag Tongも、Camonna Tongの足元であり、Hlaaluの幹部が経営しているプランテーション兼Skooma製造工場に俺を送り込み、向うの暗殺者を殺させたことがあるくらいだ。グランドマスターのEno HlaaluさんはHlaaluの家の人ではあるが、Writを認めたのはCamonna Tongはやりすぎだと思ったのだろう。Camonna Tongのボスを殺害せずに子飼いの暗殺者を始末させたのは、流石に身内ってことでちょっと甘めにして、「警告」に留めておいたんだろうけれど。
あれが目当ての密売人どもの拠点。
兵士のおっちゃんは言葉を濁した。まあ、密売経路とかゲロらせないといけないから本当は生きたまま捕まえるのが最善だし、メンツってもんがあるから俺のような身元の明らかでない冒険者に頼るのもプライドが許さないんだろうな。それにしても指環か。指環ってのは俺がMorrowindで嵌めてたアレやKvatchの領主もそうだったが、身元を明らかにするという役目もある。Lonavoとかいうのもそれなりに身分のある奴なんだろうか? ま、俺には関係ないことか。
見たところ、ターゲットの家はLeyawiin様式のフツーの一軒屋。おっちゃんは見張りに毎度のように見つかってたようだが、今は見張りはいない。家は、地下があったらどうだかわからんが、平屋なのでそう広くはないと見て良いだろう。つまり、ターゲットの他に用心棒はそれほどいないはず。多くてもターゲットを含め2〜4人が限界というところか。
正面の扉の他に出入り可能な場所はなし。ならば、正々堂々突入するまで。俺は塀を越えると、剣を抜き放つと扉をブチ破った。
密売人どもは幸いなことに二人。この奇襲を予期していたのか、既に武器防具を身につけていた。くそ、あのおっちゃん警戒させすぎだよ!
「!!!」
対魔法の指環があるとはいえ、魔法がエンチャントされた高位武器を食らうと流石に痛い。重い一発を食らって足がふらつく。壁に体をしたたかに打ち付けてしまう。
「まだまだぁ!」
しかし、重いということはそれだけ武器に振り回されやすいということでもあり、指環の魔法防御と魔法反射の力も俺を守ってくれている。エンチャントが仇となり、武器を振るうたびにじりじりと命を削られていくことに密売人は焦り、隙を生んだ。
先に用心棒が倒れ、次にLonavoが死んだ。
魔法で傷を癒すと、指環を彼の指から抜いた。これで依頼は完了。チェストにSkoomaが三つ入っていたので、ついでにそれを頂いていく。
「おっちゃーん、終わったぜい」
Callidusは、密売人を仕留めたことにとても喜び、コインの詰まった袋を手に握らせた。
「やったのか! なんとも、お礼は言い尽くせないな」
ニコニコ顔のおっちゃんは、それでは失礼するよ、と別れの言葉を言うと、城壁の中へ姿を消した。
「よしよし、待たせたな。ムンス」
馬に名前をつけないのは愛着の無い印だよ? 何か名前をつけておやり、と馬を預けてくれた厩舎の人に言われたので、この度名前をつけることにした。はっきり言って俺は命名センスが無いので、あまり独創性に走らず、見知った単語からつけてみた。自画自賛にはなるが、いい名前じゃないかとは思うんだが・・・うーん、今度誰かに聞いてみるかな。でも名前の由来を尋ねられたら・・・俺の名前から連想したって誤魔化せばいいか。うん。
俺は、超シブシブ顔のJauffreが待っているとも知らず、最南端のLeyawiinから最北端のCloud Ruler寺院へと向かった。
戻る
進む
(2007.4.22)