暗殺の無い仕事
寺院を追い出された俺は、仕方なくBrumaの宿に泊まることにした。街に着いたときは夜だったので、朝に出直すことにしたのだ。
一応路銀はあるし、寺院のザコ寝部屋よりも落ち着けるからいいかなーなんて。しかしまあ、Akaviriの遺品捜しか・・・。最近暗殺ばっかりでちょっとアレだったし、こんな冒険者っぽい仕事もいいかもしれない。これで暖かかったら最高なんだがなあ。薄着すると寒さで動きが鈍るし、厚着しすぎると服の重みでやっぱり動きが鈍るし。Argonianの体は頑丈なことで知られているが、寒さにはなー・・・元々南方系の種族だし。
翌朝。朝一番に伯爵夫人の下に参上し、これまでMadstoneを探索できなかった侘びと、BladesのJauffreからの書状を差し出す。中身はまあOblivionのことやら何やらだろうと想像はつくので、詮索しない。Kvatchの英雄が書状を持ってきたということから、伯爵夫人も色々察してくれるだろう。
Akaviri語で書かれた日記を少しだけ開いてくれながら伯爵夫人は説明した。
「詳しくは翻訳した日記を御覧なさい。あなたを雇う前にPale Passの遺跡を捜そうと探索者を雇ったのに、目印の最初の場所しか発見できなかった。地図をお貸しなさい。Brumaから北に行ったところに、Dragonclaw Rock、竜の爪にも似た巨石があります。そうね。日記の七日目を御覧なさい。後はあなた次第。野生動物もいれば、Orgeどももいます。気をつけなさいな」
どうでもいいのだが、Akaviri語はひらがなのかカタカナなのか漢字なのか梵字を参考にしているのか。Akaviriはアジアごたまぜである。
日記から、馬を使っても往復一週間くらいはかかると予想し、食料などを念入りに準備して出発。地図にある通り、巨石は簡単に発見された。伝令はこれを僥倖だととらえている。
その地点から西に向かうと、辛うじて草木に侵食されていない道を発見した。日記の八日目にある通り。この日記の持ち主のAkaviri人は、ここで、Pale Passから補給を求める伝令と出会った。しかし、こちらも補給が来ないことを伝えようとしているところ。現人神Vivecの怒りを買い、軍隊は寸断されたのだから、それから考えると、日記の書かれた頃は戦争末期に近いのか。オッサン、神になる前は短気だったんだよアハハと自分で言ってたしな。神になってもさほど性格は変わらなかったんだろう。俺は怒ったところを見たことないからようわからんが、Akaviriは触らぬ神に触ってしまったわけだ。
VivecはMehrunes Dagonをぶっ飛ばすはAkaviriを撃退するわで、何だかんだ言いつつMorrowindのついでにCyrodiilの平和も守っていた。
Azura様に背き、禁忌を破り、驕慢と野心から始まり、悲劇と狂気に終わった神の道であったが、Tribunalの三人は多くの善きこともなした。それに比して、俺はただの定命っ子。まあ、神になろうとは思わんが、神通力を発動できるわけではないので守れる範囲は狭い。本当に、しがない暗殺者なのだ。刀一本でどこまでやれるのだろう。独りでいると、たまに息苦しくなる。
お、これが石像The Sentinelか。幸先が良いな。
そして、こんな寒いところにもSpriganがいる。
あの扉がSerprent's Trailの入り口か。九日目の記述では、石像から北に行く途中狼の群れに襲われている。
十一日目。洞窟内の魔物によって二人の伝令は死亡した。日記の書き手Xhaferiは最後に妻のことを書き残して果てた。有体にいえば、戦争の悲劇というやつである。
途中で白骨化した死体を見つけた。長い年月が経っているので肉は全て削げ落ちているが、時間経過の割には非常に状態の良い骨だ。冷気と、乾燥のためであろう。手には、言伝のようなものを持っている。
「頂いていきますよ」
洞窟の更に奥に進んだのだが、生き物の呼吸音を聞いてギクっとした。伝令の死は、「大きくて強く、醜い人間型の生き物」によるものだ。恐らくOrge。国が違えば魔物や動物もガラリと変わる。AkaviriにはOrgeはいないのだろう。
当りのようだが、奴等は強くてタフなのでなかなか一筋縄ではいかない。ハンターなら弓を撃ちまくるのもいいが、俺は武道派魔術師。下手に攻撃魔法をかますと軌道を見切られてこちらの居場所が発覚する。ここは戦闘を避けるに限る。
今回の任務は暗殺ではないが、暗殺で培った技術がかなり役に立った。物音を立てずに、熊の横を通り過ぎる。
トンネルを抜けると、そこは伝説のPale Pass。道はまだ草木に侵食されずにいる。この道を辿れば砦に辿り着くのだろう。
だが、ここでもOrge。
真昼間なので身の隠し場所なし。刀を抜いて応戦する。
ええい、止めだ止め!! やってられっか!!!
二体倒したのだが、他にもうようよいるので、完全に戦いに飽きた俺はさっさと無視の魔法で切り抜けた。相手にするだけ時間と体力の無駄である。
砦に到着。俺も冒険者の端くれ。こういう前人未踏な場所に来ると、わくわくしてくる。Martinや伯爵夫人にいいお土産話ができそうだ。
入り口に入ってすぐに、歩哨の骸骨に見つかった。
手にはAkaviriの刀と盾。Bladesのものと酷似している。それにしても、最前線まで来ただけあって腕のほうも手ごわい兵士たちだ。VivecがなんとかしなかったらCyrodiil陥落とかありえたかもなあ。それに、もう死んでいる以上、死も恐れていない。
装備の方は、手入れされていないだけあってボロボロ。刃こぼれも甚だしい。往時の切れ味で応戦されたら俺でもやばいかもしれんかったな。しかしまあ、よく何百年折れずにいたもんだ。流石はAkaviri製か。
途中、寸断された箇所の向こう側に扉があると言う、いかにもショートカットできそうな場所を発見したので向こう側にぴょーんと。
成功。
死んでしまったことも忘れた兵士たち。相手はせずに、無視して進む。そういえばここは帝国風の砦なんだよな。Akaviri軍が接収して自分たちの砦として使っていたんだろうか。
奥の広間で、他のアンデッドとは明らかに違う影が立っていた。恐らく、あれがAkaviriの司令官、Mishaxhi。斬りあいになるかと刀に手をかけたその時、
「伝令よ、到着を待っていたぞ」
「え・・・・・」
俺のことを伝令だと勘違いしているようだ。明らかにAkaviri人ではない風体なのだが、幽霊であるせいで、それが分からなくなっているのかもしれない。伝令の情報が待ち遠しくて待ち遠しくて、待ち遠しいまま死んでしまって、だから死んでからも、伝令のことだけが心残りで、それで頭が一杯になってしまっているんだろう。
俺は刀をそのまま抜いた。
「Grey Ridgeからの伝言が刻まれた石版を預かりました。遅れたこと、お詫びいたします」
「よろしい。その石版をこちらに渡してくれまいか」
「長く危険な旅だったろう、しかし休んでいる時間は無い。Reman軍が迫っているのに、物資が底をつきそうだ。友軍は何と?」
「はっ、詳しいことはこちらに。誠に残念ですが、補給は遅れるとのことです」
Remanも、Akaviriを寸断したVivecもこの世を去った。どうしようもない空しさを抱えて、俺は司令官に合わせ、石版を恭しく差し出した。ただ、内容が内容なので怒るなり残念がるなりといった顔をすると思ったのだが、予想に反して司令官はにこりと笑った。
「よくやった。君の任務は果たされた。そして感謝する。ようやく我々は眠りにつくことが出来る。Akaviri万歳!」
心底満たされた顔で、司令官Mishaxhiは消えた。砦の寒気と霊気で強張った空気も、今では寒気のみが漂う。
ここで何百年も、来るはずの無い伝令を待ってたんだろうなあ。死んでしまったとはいえ、救済できる人を救えて、良かったと思う。
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奥の部屋には、祭壇の上に置かれた首飾りがあった。これが目的のDraconian Madstone。毒と疾病をかなり防ぐことが出来る。Argonianの俺にとっては不必要だし、Akaviriマニアというわけでもない。そっと手に取ると、柔らかい布に厳重に包んで砦を後にした。長らく所在不明のPale Passが判明したことと、Madstoneの発見で、歴史の暗い部分にいくらか光が当てられるだろう。
Martinに良く似た髪型のおっさんの石像を通り過ぎて伯爵夫人に面会する。
案の定、長年の夢、それも誰も成し遂げられなかった宝石を収集できたことで非常に喜んでいた。差し出したアミュレットを手に取り、矯めつ眇めつ、まるで初めて宝石を買ってもらった少女のように顔と目をきらきらさせて見入っている。
そして、満足すると俺に目を向けてねぎらいの言葉をかけた。
「まさか実際にこの手に取れるなんてね。本当に、思ってたものより美しいこと。流石はKvatchの黒衣の英雄。名に恥じぬ働きを見せてくれました。ここに報酬があります。それと、寺院のJauffreによろしくとお伝えなさい」
伯爵夫人がそう言うと、心得た執事が、宝石箱を載せた盆を持ち俺のそばにやって来て、指環を見せた。
報酬は伝令の日記と共に発見されたAkaviriのVipereyeの指環で、Agility向上と魔法防御のエンチャント付き。Mundana Ringに比べれば大したことはないものの、(でもこりゃチート級の指環だしなあ)それなりに損は無いものだ。これだって何百年も前のAkaviriの貴重な遺品である。
指環を受け取ると、竜の爪の岩からどのように道を辿ってPale Passを発見したのかを伯爵夫人に伝えた。
拙い弁舌ではあったが、説明しながら、伯爵夫人は色々質問して、俺がそれに答えるという風で話は進んでいった。洞窟で白骨死体を発見したことや、危うくOrgeをやりすごしたこと、そして司令官との会話の下りという盛り上がるところで、伯爵夫人と執事は楽しそうに相槌を打っていたから、それなりに彼女の耳を楽しませることが出来たようだ。Madstoneを入手し、Brumaに帰還し、めでたしめでたしなところまで言ったところで、伯爵夫人は満足しきった顔で呟いた。
「あなたのもたらしたPale Passの情報は、学者たちに歴史の一葉を書き換えさせるものね」
彼女はニコリと笑って最後にこう締めくくった。こうしてMadstoneを巡る冒険は終わり、俺は再びOblivionの脅威に立ち向かうことになるのである。
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(2007.5.2)